第22話 襲撃してきたモノ

 「これ以上はいかせはしないっ!」


 城下町の人々を襲っていた魔物を追い詰めたのはいいが、城の前まで来ていた。

 さすがにこれ以上は逃すわけにはいかない……!


 「いくぞ……ッ!」

 

 魔物に向けてラファーガを大きく振りかぶり、衝撃波を飛ばすが、人間離れした跳躍で軽く避けられてしまう。

 もちろんこれは計算づくで、その間に俺は急いで駆けていき、門の前に立つことができた。

 

 ガッチリと聳え立つ門を背に俺は魔物の方を向けて剣を構える。

 真夜中に近いせいもあってか、対峙する相手がどんな姿をしているのかわからなかった……。


 先ほどからの動きといい衝撃波を避けた際の跳躍から人間じゃないと思っているが。


 あちらは俺との距離をとりながら、隙をうかがっているようだ。

 もちろん俺も相手に隙など与えるつもりはない……。


 先に攻撃を仕掛けたのは相手だった。

 人間離れした跳躍力で飛び上がると、回転をしながら俺めがけてきた。


 「ぐっ……!?」


 ラファーガの剣身で受け止めるが、思っていた以上に重く、体が悲鳴をあげそうになる。


 「はぁッ!!!」


 耐えながら振り払うと、魔物は後ろへ退いていく。


 「さすがにもう一度耐えるのはきっついな……」


 もう一度さっきの攻撃がきたら状況が一気に厳しくなる。

 だとすればさせないようにこちらから攻撃を仕掛けていくしかない。


 ラファーガを構え、大きく息を吸い込んでから、魔物へ向けて駆けていく。

 そして魔物の直前でラファーガを地面に叩きつける。

 盛り上がった地面が針のように突き刺そうとするが、そこに魔物の姿はなかった。

 見上げた先には魔物が先ほどと同じように回転をしながらこちらに向かっていた。


 「マジかよ……!」


 逃げることは不可能……ラファーガで受け止めるしかない。


 「もってくれよ、俺の体……!」


 覚悟を決めた時、白い閃光が魔物を貫いていった。


 「ぐおっ!?」


 魔物は苦痛の声を上げながらドサっと大きな音を立てて倒れる。

 

 「大丈夫かゼスト!」


 声のする方へ目を向けると、デュアリスを構えたプリメーラの姿があった。

 俺が気づくと彼女はこちらへと向かってきた。


 「助かったよ……サンキュ」

 

 俺が礼をいうとプリメーラは安堵の息をつく。

 すぐに倒れた魔物の姿をみると、もう一度デュアリスを構える。


 「……!?」


 倒れている魔物の姿を見て俺は思わず息をのむ。

 魔物だと思っていたその姿は人間そのものだった……。


 目がギョロっと光らせ、プリメーラを捉えていた。

 瞬間、魔物の体が膨れ上がるとすぐに弾けていった。


 「プリメーラ!!」


 叫ぶと同時に俺は彼女の前に出る。

 その刹那、俺の腕に熱いものが走り始めた。


 「ゼスト……!」

 「大丈夫だ……」


 自分の腕を見ると、大量の血が流れていた。

 目の前にいた魔物のような人の姿は跡形もなくなくなっていた。



 「民を救ってくれたことに感謝するぞ、ブラバスの勇者と旅のエルフよ」


 翌朝、俺とプリメーラはチェイサーに連れられ、カーロラ城の玉座の前へとやってきた。

 

 「もったいないお言葉でございます」


 俺はラファーガを置き、片膝をついて敬礼の姿勢をとる。

 隣でプリメーラも同じ姿勢をとっていた。

 

「ゼスト、プリメーラさん楽にしてくれ、そんな姿勢でいられると話しかけづらい」

「チェイサーの言うとおりだ、楽にしてもらって構わんぞ」


 2人の言うとおり、俺たちは敬礼の姿勢をやめ、普通に立ち上がる。


「昨日の襲撃について聞きたいことがあるのだが……」


 話を始めたのはカーロラ王のそばに立つ、マーク第一王子だ。

 兄弟だから当たり前だが、基本的な顔つきはチェイサーに似ている。

 いずれはこの国の王となる立場なのか、それに似合った険しい顔つきとなっていた。


「ゼスト殿は主犯格と思える相手と対峙したとのことだが……」

「えぇ……手厳しい相手でした」


 これまで戦ってきた相手とは段違いな強さだった。

 プリメーラの助けがなければ負けていたかもしれないと思ったほどだ。


「どんな相手だった?」

「どんな相手といいますと……?」

「魔物だったかそれとも……」


「兄貴! あれはどうみてもライカンスロープだと言っているじゃないか!」


 俺が答えようとすると、後ろから大きな声が響き渡った。

 声の方へ顔を向けると、チェイサーの隣にいた男だった。


「口を慎め、クレスタ!」

 

 クレスタと呼ばれた男は悔しそうな表情を浮かべながらその場に黙り込んでしまう。


「あのような騒ぎになっても民を助けず、飲み歩いていたとは貴様には騎士団長としての自覚が足らん!」

「それを言うなら、チェイサーだって……!」

「チェイサーは家を壊された者や怪我人を自分の屋敷に連れていたのを聞いている」

「ぐっ……!」


 クレスタはさらに悔しそうに歯軋りをしていた。


「すまない、さきほどの質問だが……」


 マーク王子はすぐに俺を顔を見る。


「あの人間離れした動きや攻撃はどうみても魔物——」

「やはり、ライカンスロープの奴らだ!」

「クレスタ!」


 マーク王子が怒鳴る中、俺は話しを続ける。


「ですが、最後に見たとき……人間に見えました」


 俺の言葉にマーク王子は納得したのか、小さな声で「そうか」と呟いていた。

 その時、後ろから「ちっ」と舌打ちをする声が俺の耳に入った。


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【あとがき】

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