第21話 城下町の襲撃

 「孤児だったのか……」

 

 驚いた様子で俺をみるプリメーラ。


 そう、俺は物心ついた時から1人で生きてきた。

 今はもうないが、俺の幼少期の頃のブラバスには貧しい人たちが暮らすスラム街が存在した。

 そこに俺も暮らしていた。


 あの頃のスラム街はいろんな意味で自由だった。

 気に食わない奴は殺せ。

 食い物でも女でも欲しいものがあれば奪え。

 

 生きるためにその考えに則って俺は生きてきた。

 食い盛りだった俺はよくブラバスの城下町にでて飲食店の食い物を盗んでた。

 たまにヘマをして衛兵に捕まり、死ぬ思いをしたこともある。


 「それがどうやって勇者になったんだ?」

 

 たしかにそんなスラムに暮らす悪ガキが何で勇者に選ばれたのか……。


 「ほんと偶然だったんだけどな」


 後に俺が勇者となった日。

 いつものように食い物を求めて城下町にでると、人が集まっているのが見えた。

 人の中心には光り輝く剣が置かれていた。 

 その剣とは後に自分専用となる聖剣だが、その時の俺は手に入れれば高く売れるんじゃないかぐらいにしか思っていなかった。

 

 人が少なくなってきた頃を見計らって剣を抜いた時に眩い光に包まれた。

 突然のことで俺は驚いてしまいその場に座り込んでいた。

 

 光が収まり、逃げようと思った時に目の前にアルシオーネ様が立っていた。


 「どうやら聖剣に選ばれたようだな」


 そう告げたアルシオーネ王は俺に手を差し伸べた。


 「父上、おやめください……そんな汚らしい下賎の者の手に触れるなど!」


 その後ろでは綺麗な服に身を包んだ男たちが止めようとしていた。

 今考えてみれば真っ先に声をかけたのはイソッタ王太子だったような気もする。

 周りの忠告を無視をしてアルシオーネ王は俺の手を掴んだ。


 「さぁ、新たな勇者の誕生だ! 今日は皆で祝杯をあげようじゃないか!」


 その時の俺は座り込んだまま、自分が置かれている状況を理解することができず、棒立ちしていたのを今でもはっきりと覚えている。



 「本当に偶然なんだな……」


 プリメーラは苦笑いをしていた。


 「そのおかげで、スラム街の悪ガキでは味わえない経験ができてよかったけどな……」


 正直、魔王の討伐なんて自分ができるとは思っても見なかったが……。

 そのおかげでチェイサーや一緒に魔王討伐の旅にでた仲間とも知り合うことができた。


 さすがに国王殺しの濡れ衣を着せられる経験をするとは思いもしなかったが——


 「さてと……話をしてたらやっと胃袋が落ち着いてきたし、そろそろ寝るとするか」


 立ち上がって、ベッドに向かおうとした時、遠くから何かが崩れるような音が聞こえてきた。

 俺は急いで部屋の窓を開ける。


 「化け物だ!!! 化け物が襲ってきやがったぞ!」


 外からは危険な事態を知らせる金属音と叫び声が響き渡っていた。

 俺は壁に立てかけていたラファーガを持つと窓から飛び降りていく。


 「ゼスト!」


 プリメーラが慌てて窓から顔を出して下を覗き込んでいた。


 「プリメーラはチェイサーのところに!」


 俺はそれだけ伝えると、色々な音が響き渡っている場所へと駆けていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 

 私はゼストの言う通り、チェイサー殿の元へと向かうために急いで部屋を出た。


 「プリメーラさん!」


 部屋を出た廊下にチェイサー殿が立っていた。


 「チェイサー殿、ゼストが……!」

 「わかってるよ、ったく我が身を顧みず助けにいくのは相変わらずなんだな」


 苦笑いをしながらチェイサー殿は入り口の方へと向かっていき、ドアを開けた。

 すると、それを狙っていたかのように何かがチェイサー殿に襲いかかってきた。


 「ぐっ……!」


 持っていた剣で相手の攻撃を受け止めていた。

 すぐにデュアリスから矢を放つと襲いかかってきた相手は後ろへと下がると同時に飛び去っていった。


「大丈夫か……!?」


 すぐに彼の元に近づくと、剣を鞘に収めていた。

 見た限り、怪我はなさそうだ。

 

「ありがとう、助かったよ……にしても随分人間離れした動きだったな」


 言われてみればあの動きは人間には不可能だ……

 あの動きはまるで……


「それよりも、街の人たちを探しに行かないと、こんなところで隠れてたなんて言われたら、信頼がガタ落ちだ」


 チェイサー殿は苦笑いをしながら屋敷の外へと出ていく。

 それに続くように私も彼の後をついていった。


 城下町には家を壊されてた人たちや襲ってきた魔物によって怪我をおった人たちでいっぱいになっていた。

 チェイサー殿と一緒にその場へといくと、すぐに彼の元へと近づいてきた。


「チェイサー様、魔物が! 俺の家を破壊していきやがったんです!」

「チェイサー様、子供が怪我をしているんです!」


 泣き叫びながら、訴える人たち。


「魔物の動きがわからないから、ここにいるのは危険だな……よし、俺の屋敷に行こう! 男は怪我したものを助けてやってくれ!」


 チェイサー殿が声を人々に声をかけ、誘導していると、奥から1人の男が血相を変えてこちらに向かってきた。


「ちぇ、チェイサー様! あちらにま、魔物が!!!」


 命からからがらに逃げてきたのか、必死に息を整えていた。


「わかった! プリメーラさんこっちをお願いできるか? 俺は魔物のところに行く」

「大丈夫だ!」


 チェイサー殿が向かおうとすると、息を切らした男が話を続けていた。


「ま、魔物は黒い剣を持った人が相手をしていて……!」


 黒い剣と聞いてすぐに私はその場から走り出していった。


「お、おいプリメーラさん!」


 走っていった先で、ゼストを発見したのはカーロラ城の門の前だった。

 黒い影と攻防を繰り広げていた。

 

「ゼスト、加勢するぞ……!」


 私はデュアリスから光の矢を作り出すと、狙いを定めて構えていった。

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