第18話 かつての仲間

 「おいおい、畏まるなんてずいぶん他人行儀なことをしてくれるな」


 目の前の男、チェイサーは文句を言いながらも柔らかく楽しそうな表情だ。


 「さすがに国の王子を呼び捨てにするのはどうかと思ったんだよ……」

 「ったくおまえは相変わらずのクソ真面目な男だな」


 そう言いながらも嬉しそうに話すチェイサー。

 俺の横ではプリメーラが不思議そうな顔をして見ていた。


 「あ、この男はチェイサーと言ってこのカーロラ王国の王子だよ」

 

 俺が紹介するとチェイサーはプリメーラを見て右手を自身の胸にあてていた。


 「はじめまして、チェイサー・オト・カーロラと申します」

 「私はプリメーラと言って……しがない旅のエルフだ」

 

 プリメーラが名乗ると、チェイサーの視線はプリメーラの耳へと向ける。


 「エルフとは珍しいな……あまり表に出てくる種族ではないとは聞いてたが」


 チェイサーの言葉にプリメーラが返すことはなかった。


 「まあ、こんなとこで立ち話も何だ、俺の屋敷でじっくり話でもしようじゃないか!」


 そう言ってチェイサーはその場を去っていく。

 俺たちも彼の後を追うようについていった。



 「狭いところだが、ゆっくりしていってくれ」


 国立博物館からしばらく歩いていった場所にあるチェイサーの屋敷は彼からすれば狭いと思うかもしれないが、俺やプリメーラからすればとてつもなく大きい建物だった。

 案内された応接間にはどれも高級であろう家具やソファなどが置かれており、まさに王族が住む場所を絵に描いたような場所になっていた。


 「さてと、何から話そうかね〜」


 チェイサーは嬉しそうな顔でこちらを見ていた。

 

 「魔王を倒してから2年経つんだよなぁ、あっという間な気がするな」

 「魔王……?」


 チェイサーの言葉にプリメーラは驚きの表情を見せていた。


 「チェイサーは魔王ダツンを討伐した仲間の1人だよ。 当時は王族であることを隠していたけど」

 「そ、そうなのか……」


 俺が勇者降臨の儀で勇者となってから少しして、魔王ダツンが現れた。

 それに気づいたアルシオーネ様が魔王討伐の仲間を募り出した。

 真っ先に来たのが、この男だ。

 たしかその時は旅の魔法剣士チェイサーと名乗っていた。


 「ダツンを倒してブラバスに戻った時に父上がいた時は血の気が引いたよ、下手すりゃダツンよりも怖かったかもしれないな」

 

 今でも忘れない、チェイサーの父親、つまりカーロラ王国の国王が顔を真っ赤にして怒る様子を——


 「こっちは祝賀パーティを楽しみにしてたのに、結局参加できずに国に戻されちまったし」

 「そもそも一国の王子が魔王討伐に参加すること自体がおかしいんだ、何かあったらどうするんだ……」

 「そりゃ平気だって、俺は第三王子だし、マーク兄さんやクレスタ兄さんがいれば問題ないさ」

 「そういう問題じゃないと思うんだが……」


 いくら第三王子とはいえ、王族であることには間違いないわけで何かあれば大騒ぎになるはずなんだが……

 

 「それよりも、俺はお前のことが心配だったぞ」


 チェイサーは人差し指で俺を指していた。


 「……やっぱりこっちにまで噂は届いていたか」

 「あぁ、『国王殺しのゼスト』が逃亡したってな、国の人間にまで届いていたぜ」

 「そっか……」


 勝手にチェイサーが魔王討伐隊に加わったという数奇な縁からブラバスとの縁のある国だからこそ、噂が広まるのはわかっていた。

 俺の表情から何かを察したのか、隣のプリメーラが俺の顔を覗き込むように見ていた。


 「けど俺は——」

 「安心しろ、そんなことわかってるさ。 アルシオーネ王に絶対的な忠誠を誓っていたお前がやるわけないとな」

 

 チェイサーの言葉を聞いて俺は安堵する。


 「知ってるかどうかわからんが、今じゃあのイソッタが王になっているみたいだな」

 「それは俺も聞いたよ、ご子息だからそうだよなとは思っているが……」

 「それにしてはいくら何でも速すぎじゃ無いか? アルシオーネ王が亡くなってから数日しか経ってないんだぞ」


 チェイサーが言うには国の王や王妃など国の権力者が亡くなった時には最低でも1ヶ月は亡くなった相手を偲ぶ期間があるようだ。それはたくさんの功績を残しただけ期間が長くなるという。その期間に近親者が政治を行うことはあるが、今回の時のように目に見えてやることはないようだ。


 「って偉そうに言ったけど全て父上から聞いたことだけどな」

 「ってことはカーロラ王もこのことは知っているのか?」

 「あぁ、もちろん父上も俺と同じでおまえがやったとは思っていないさ」


 隣でプリメーラはよかったなと小さく呟いていた。


 「で、話は戻るが、イソッタは数日もしないうちに自らブラバスの王と名乗り、国を動かしているわけだ」

 

 チェイサーは一呼吸おくと、先ほどまで穏やかなの表情から一変して、真剣な顔をしていた。


 「ゼストの国の人間……しかも忠誠を誓っていた王の子息をこんな風にいうのは悪いとは思うが、ここははっきりと言わせてもらうぜ」

 「……どうぞ、というか言いたいんだろ」


 このチェイサーという男は王族ではあるが、自由奔放に過ごしてきたので言いたいことははっきりいう性格だ。

 裏表がないので、付き合いやすい人間であるとも言えるが。


 「おそらくアルシオーネ様を殺害したのはイソッタだろうと睨んでいる。 もちろん確証的なものはないけどな」


 チェイサーは自信たっぷりの表情を浮かべて俺の顔を見ていた。

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