第19話 2人でカーロラ王国の散策

 「イソッタ王太子が……!?」

 

 チェイサーの話から思いがけない内容に俺は驚きを隠せなかった。


 「言っとくけど、あくまで憶測での話だからな」

 「……わかってる」


 俺は落ち着かせるため、テーブルに置かれた飲み物を勢いよく飲み干す。

 

 「……久々の再会で話す内容じゃないな、失礼」


 沈黙を破ったのはチェイサーだった。


 「理由はともあれ、せっかく来たんだし、ゆっくりしていってくれ、こんな場所でよければいくらでも泊まってもらって構わないぜ」


 にこやかな顔でそう告げたチェイサーは立ち上がる。


 「よし、メイド長にいって今日の晩飯は豪勢にしてもらうか!」


 誰に告げるわけでもなく独りごちたチェイサーは部屋から出ていった。


 「……大丈夫か?」


 プリメーラが心配そうな顔で俺を見ていた。


 「あぁ……大丈夫だ」


 そう言って見ても、内心的にちょっときついものがあるが……これ以上プリメーラに心配かけるのも悪いから、無理してでも平気を装わないと……。

 立ちあがろうとすると、プリメーラが俺の腕を掴む。


 「……どうした?」

 「少しぶらつかないか?」

 

 プリメーラは真剣な表情で俺を見る。


 「そういや博物館も途中だったな」

 「いや、博物館よりも街並みを見て回らないか? この屋敷に来る途中で気になる箇所があったんだ」

 「わかった」


 2人揃って立ち上がり、部屋を出ていった。


 「おっ、ちょうどいいところに! 今日の夜は豪勢にしてくれるらしいぜ! 説得した甲斐があったぜ!」


 部屋を出ると、チェイサーとバッタリ会う。


 「って、2人でどっか出かけるのか?」

 「あぁ、プリメーラが気になる場所があるとかでぶらつこうと思うんだが、チェイサーもどうだ?」

 

 せっかくなら2人よりも3人、人数の多い方が楽しめるだろう。

 

 「そうだな、久々におまえとぶら——」


 突然チェイサーの言葉がつまったかのように止まる。

 すぐに咳払いをすると残念そうな顔をしていた。

 

 「そういや、父上に呼ばれていたのを忘れてたぜ、とりあえず2人で楽しんできてくれや! また、飯時に会おうぜ!」


 慌てた様子でチェイサーは踵を返して、入り口の方へと行ってしまった。


 「……珍しいな、あいつが父親の呼び出しに応じるだなんて」

 「よほど大事な用事ではないだろうか? それよりも日が暮れないうちに私たちも行こう」

 「そうだな」


 プリメーラが俺の腕を引っ張る。

 その時にふと、彼女の顔が嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。


 屋敷から外にでて歩いていくと、日が沈む前だからか、たくさんの人たちが往来していた。

 プリメーラが気になると言っていたのは、胃を刺激する匂いを漂わせている露店だった。

 

 「さっき通った時から気になっていたんだ」


 話しながら店の主人に注文をしていく。

 

 「お、綺麗なねーちゃんだから、でかい肉をたんまりつけておくぜ!」


 店の主人は豪快に笑いながら、木の串に大きな肉を刺していった。

 

 「あいよ、おまち! 次もサービスするからまたきてくれよな!」


 主人から受け取るプリメーラ。

 

 「ゼストの分も買ってきたぞ」


 そう言って串を差し出してきたので、礼をいいつつ受け取る。

 どうやら肉はこの大陸で取れる鶏肉のようだ。


 「そういえば前にチェイサーが食ってみろって話してたな」


 昔のことを思い出しつつ、頂いた肉を頬張る。

 噛んでいくと胡椒と唐辛子の風味と一緒に肉汁が口の中に広がっていった。

 たしかにこれは人に勧めたくなる食べ物だな。


 そして、あまりのおいしさに無我夢中で食べてしまっていた。

 もう少し食べてたいところだが……


 「もう少し食べたいところだが、夕飯を用意いただいているし、また明日にしよう」


 どうやらプリメーラも同意見のようだ。


 それからはプリメーラに連れ回されながら色々な店を見ていった。


 「やはり、ゼストには黒い鎧が似合うと思うんだ……」


 武器を扱う店では俺に黒い鎧一式を身につけさせ、それを買おうをしたり……

 もちろん断ったが。


 「いいことを教えておこう、甘いものは別腹という言葉があってだな」

 「……夕飯食べれなくなるから、食べるなら明日にしろ」

 「甘いものは脳の活性化にも繋がると言われて……コラ! ひっぱるな!」


 気がつけば日が暮れ始めていた。

 人もすっかり減っていき、辺りにいるのは俺たちぐらいだけだった。

 先ほどまでいた人たちも家に帰って夕飯の準備をしているのかもしれないな。


 「……疲れたな」

 「そうだな、でも楽しかっただろう?」

 

 プリメーラは自信たっぷりにそう告げる。

 屋敷で沈んでいたのが嘘みたいだ。

 もしかして、プリメーラは沈んでいた俺を元気付けるために……


 「……ありがとな」

 「どうした、突然?」

 「元気づけてくれたんだろ?」

 

 プリメーラはふふっといつものように笑っていた。


 「それじゃそろそろ屋敷に戻るか、チェイサーも戻っているだろう」

 「そうだな……」


 屋敷に向かって歩こうとしていた時、どこからか大声が聞こえた。


 「てめえ、人の店のものをタダで食いやがって! 衛兵につきだしてやる!」


 声の方に目を向けると、先ほどの串焼きの店の主人が小さな子供の腕を掴んでいた。

 子供の手には先ほど俺たちが食べていた串焼きが握られている。

 顔や手には黒い汚れが目立ち、着ている服もボロボロになっている。

 

 「は、はなせよ!!!」


 子供は必死に抵抗するが、店の主人はしっかりと掴み、どこかへと向かおうとしていた。

 

 「プリメーラ、お金あるか?」

 「どうしたんだ?」

 「……ちょっとな」


 プリメーラは不思議そうな顔をしていたが、すぐに俺にお金が入った袋を手渡す。

 彼女に礼を言って、すぐに子供を抱えている露店の主人の元へ駆けていくと声をかける


 「お、何だ? さっきの綺麗なねーちゃんと一緒にいたニイちゃんじゃねーか」

 「その子が食った分のお金払うから、逃してやってくれないか?」


 俺が告げると店の主人はキョとんとした顔になっていた。


 「まあ、金払ってくれるならいいけどさ……」


 主人が提示する金額を払うと、子供を離した。

 子供はその場から急いで去っていってしまう。


 「……ま、そうだよな」

 

 子供のとった行動に納得しながら、俺はプリメーラの元へと戻っていった。

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