第6話 初めての夜

「お、おまえら覚えとけよ!」


 船乗りたちは倒れた男を引きづりながら食堂から出ていった。

 店のほとんどを彼らが埋め尽くしていたため、一気に静寂がやってきていた。


 「まったく騒がしい連中だったな……」


 プリメーラはため息をつきながら席から立ち上がる。


 「どうしたんだ?」

 「すっかり忘れていたが、宿を探さないとな」


 彼女の言葉で思い出した。

 腹の虫のせいで宿のことをすっかり忘れていた。

 さすがに2日野宿は体力的にも厳しい。


 

 「さすがにこの時間ともなると、人の数は減ってくるな」


 勘定を済ませて店の外にでると、先ほどまで賑わっていた繁華街エリアも静まり返っていた。

 食堂の店員に宿の場所を聞いていたので、まずはそこへと向かうことにした。

 繁華街エリアの奥にある小さな宿だった。


 「ちょうど最後の一部屋が空いておりました、ご案内します」


 この宿の女将だと名乗る年配の女性に案内された部屋は小さな部屋だった。

 ゆっくりと体を休めるなら申し分ない。

 あえて、不満を言うのであれば……


 「ベッドが一つだけか……」


 案内された部屋にはベッドが1つしか置かれていなかった。

 大きなベッドなので、2人で寝る分には充分なぐらいだが。


 そういえば、案内してくれた女将が去り際にこちらを見て微笑んでいたが、まさかな……。


 

 「俺は床でねるからベッドはプリメーラが使ってくれ」


 布団で寝たい気持ちを抑えながら俺は彼女にそう告げる。

 流石に女性、しかも昨日出会ったばかりで1つのベッドで一緒に寝ることができる神経は持ち合わせていない。

 寝るどころか余計に疲れてしまいそうだ……。


 「もしかして、私に気をつかっているのか? それなら心配無用だ!」

 「そっちが平気でも俺が無理なんだ」


 必死に自分の考えをプリメーラへ伝えようとするが俺の思いは伝わることはなかった。


 「たしかゼストは18だと言っていたな。 たしかに色々処理しなければいけないものが多い年頃だと聞くな」


 プリメーラは腕を組みながら1人で考え込んでいた。

 何か別次元のことを考えてないか、このエルフ……。


 「一緒に旅をするのであればその相手をするのも必要なことだろう、困った時は遠慮せずに言ってくれ!」

 「そういうことじゃない!」


 これ以上話しても無駄だとわかると、ため息をつきながら床に寝っ転がる。


 「俺はここで寝るから、ベッドは好きに使ってくれ」

 「それなら私も床で寝る」


 そう言ってプリメーラは俺の横で寝っ転がった。


 「……どうしてそうなる?」

 「私1人だけいい思いするのはフェアではないだろう」

 「別に俺がいいと言っているのだから気にすることはないぞ」

 「そちらが気にしなくても私が気にする」


 プリメーラは俺の顔をじっと見ていた。

 完全に酒が抜けていないのか、顔に赤みが残っていた。


 「……どうすればいいんだ?」

 「一緒にベッドで寝ればいい、簡単なことだろ?」


 そう告げるたプリメーラはふふっと笑みをこぼす。


 「わかったよ……」


 俺は完全なる敗北感を覚えながらも立ち上がり、ベッドの上で体を横に倒した。

 野宿をしたのは昨日だけなはずなのに、久しぶりにベッドで寝たような感覚になっていた。


 「それじゃ私も失礼するとしよう」


 プリメーラもベッドに乗ったのか、少しベッドが沈んでいったような気がした。

 それは別に構わないのだが……


 「なんでこちらに体を向ける?」


 どう寝ようが、個人の自由だが、彼女の育ちのいい胸が俺の背中に当たっているのだ。

 もうすぐ夢の世界へ旅立とうとしていたところだったが、なんとも言えない感触に驚いて目が覚めてしまった。


 反応がなかったため、彼女の方へと体を向けると、穏やかな寝息を立てていた。


 「……勘弁してくれ」


 俺はため息をつきながら、もう一度反対側を向いてゆっくりと目を瞑った。




 「おや、お早いお目覚めですね」


 部屋を出て、宿の入口へと足を運ぶと、昨日案内してくれた女将に声をかけられた。

 入口にある小さな窓から眩いほどの光が差し込んできた。どうやら朝日が登り始めたようだ。


 「……寝たような寝れてないような」


 俺が答えると女将は「あらあ」と驚きの声をあげながら微笑んでいた。

 どうしてだろうか、この言葉の裏に邪な感じに受け取れてしまうのだが……。


 「もしよろしければ、地下に湯を張っておりますので、ご利用くださいね」


 女将はそう告げると、最後に「お連れ様もご一緒に」と言い残して奥の部屋へと入っていった。


 「……絶対に勘違いしているな」


 ため息をつきながら、俺は地下へと続く階段を降りていった。


 「しっかりとした作りになっているな」


 階段を下り切った先にある扉を開くと大きな石で囲まれた中に小さいながらも湯が張られていた。

 着ている服を脱ぎ、湯船の中へと入っていく。


 「くぅぅぅぅぅ……!」


 ほどよい暑さのためか、思わず声が出てしまう。

 あれからプリメーラが寝返りを打つ度に柔らかい感触が体に触れ、何度も目が覚めてしまっていた。

 そのため全くといっていいほど寝れなかったが、この温泉のおかげでこれまでの疲れが吹っ飛んでいきそうだ。


 しばらく堪能してから部屋に戻った。


 「プリメーラ起きてるか?」


 声をかけながら扉をあけて、中に入る。


 「うぅぅぅぅ……」


 体を起こしていたプリメーラだったが、今までに聞いたことのない呻き声をあげていた。


 「大丈夫か?!」

 

 俺の言葉に頭を左右に振るが、すぐに両手で頭を抱え込んでしまう。


 「……頭が痛い、そして気持ち悪い」

 

 プリメーラの顔をみると真っ青になっている。


 「わかった、宿の人に薬があるか聞いてくる……!」 

 「……いやそれよりも、お水をもらってきてくれないか?」

 「水だけでいいのか!?」

 「大丈夫だ……それにこの症状は毎度のことだ」


 毎度ってもしかして、何か重い病気を患っているのか……?

 

 「……何度も同じ苦しみを味わっているのにどうやってもやめられないんだ」


 浮いた表情でプリメーラは俺の顔を見ていた。


 「プリメーラ……」

 「お酒を飲んだ次の日は必ずと言っていいほど二日酔いになるんだ、困った体だよ」


 ふ、二日酔い……?


 「ふふ、笑ってくれ……酒を飲もうと誘ったやつがこんなザマとな!」


 プリメーラは半ばヤケになったのか、ふふっと笑ったのはいいがすぐに口元を抑え始めた。

 その後どうなったかはあえて言わないでおこう。


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