第7話 旅支度と勇者の噂
「……落ち着いたか?」
「あぁ、先ほどとは違って清々しい気分になっているぞ」
先ほどまでの苦悶に満ちた顔が嘘だったかの如く今は輝くような笑みを浮かべるプリメーラ。
あえて言葉には出さないが、あれからとんでもないことになり、宿の女将が持ってきた二日酔いに効く薬を飲ませてもらい、なんとか落ち着いた。
にしても、黙ってれば美人(人間ではなくエルフなので美エルフか?)なのだが、色々と残念なところを見てしまった気がする。
「そういえば、さっぱりしてるように見えるが、何かあったのか?」
プリメーラは俺の顔を見て、不思議そうな表情を浮かべていた。
「プリメーラが起きる前に地下に湧いている湯に浸かってきたんだ」
「それはいいな、私も浸かってくるとするかな」
フラフラになりながら立ち上がったプリメーラは扉を開けて、部屋の外に出ようとするが……
「……どうした?」
なぜか俺の方へと振り返っていた。
「大丈夫だと思うが、これだけは言っておこう」
「……なんだよ」
俺が返すと、プリメーラは自信たっぷりな顔を見せていた。
「覗くなよ」
彼女はそれだけ告げると部屋を出ていった。
俺は盛大なため息をつきながらベッドの上に腰掛けた。
「どうもありがとうございました、また、どうぞお越しくださいね」
宿の女将に見送られながら、俺たちは繁華街エリアへと向かっていった。
「それでどこに行くんだ?」
「この大陸に用はなくなったから、船に乗って別の大陸へと行こうかと思っているが……」
そう話すプリメーラは怪訝そうな表情で俺を見ていた。
「どうした?」
「その前に、服をどうにかしないとな」
そう告げながら俺の服を指差すプリメーラ。
「……言われてみればそうだな」
俺の服装は幽閉された時のままのほぼ寝る時に着ている時の「服装だ。
しかも色々なところに穴が空いているとい始末。
「たしか、このエリアに防具の専門店があったはずだ、私がコーディネートしようじゃないか!」
意気揚々と歩き始めるプリメーラ。
何だろう、とてつもなく嫌な予感がする。
「おお! これなんか良くないか!?」
繁華街エリアにある防具専門店。
港町である特徴を活かしているのか、さまざまな国の衣装や特色を生かした鎧などが販売されている。
その中でプリメーラが興奮気味に指さしたのは、全身黒に包まれた鎧一色。
店主の話では火山大国の溶岩石で作られたことから火に強いと話していた。
耐久性や性能面では申し分ないのだが……。
「……すまん、俺には無理だ」
ため息混じりに断りを入れた。
「どうしてだ?」
「これを着てずっと歩けると思うか?」
この鎧を着るのは城を守る兵でもガタイの良い重装系の兵向けのものだろう。
俺のような細身の人間が身に纏うものではない。
「言われてみればそうだな、この鉄仮面などものすごくカッコいいと思うのだが、残念だ……」
残念そうに肩を落とすプリメーラ。
彼女の言う鉄仮面を見てみるが、俺にはかっこよさが全くわからなかった。
プリメーラ独特の感性がないとわからないのかもしれない。
「動くことが多いならこちらなどどうでしょうか?」
俺たちの話を聞いていた店主が商品の側に寄っていた。
そこには黒いクロークタイプの服だった。
中のインナーには明るめの青色が主となっている。
「これなら動きやすそうだな」
俺は触れながらクローク全体を見渡していく。
「見た目は軽そうに見えますが、生地の中には細い鎖が仕込まれていますので、斬れにくくなっております、また、ローブの部分にはフードもついておりますので、急な雨が降っても濡れることなく」
店主の話を聞いていくと、プリメーラが俺の顔を覗き込んでいた。
「この服が気に入ったのか?」
「あぁ、よく着ていた服にそっくりでなんか知らないけど愛着が湧いてきたんだ」
「こちらは王都ブラバスの勇者様が着ていた服のレプリカになります」
店主の言葉に俺は一瞬言葉を失っていた。
愛着が湧いてくるのも理解ができた。
「これでいいのか?」
「そうだな、着やすさはわかっているし」
俺が答えるとプリメーラは店主にお金を渡していく。
「こちらで着替えていきますか?」
「そうさせてもらおうかな」
店主は奥へと案内してくれた。
ボロボロになった服を脱ぎ、買ったばかりの服に袖を通す。
「ホントにそのまんまだな……」
レプリカとはいえ、サイズや着心地まで変わらず驚きの声をあげてしまう。
着替えを終えてプリメーラの元へ向かうと、店主に礼を告げて店を出ていく。
「……あの黒い似合うと思うんだけどな」
隣でプリメーラは名残惜しそうに思っていくことを口にしていた。
「そういえば、ブラバスの勇者様が国王を殺害したみたいね」
「そうなの?」
「えぇ、さっきブラバスから来た行商人の方が話していたわよ」
船に乗るため、港エリアへ向けて歩いていると、立ち話が耳に入った。
声の方へと視線を向けた先には、年の入った女性2人が露店の前で話していた。
思わず俺は立ち止まってしまう。
「それで国王を殺害した勇者様はどうしたのかしら?」
「よくわからないみたいね、時期国王となった元王太子はまったくその事に触れないみたいなのよね」
イソッタ王太子が国王になったのか……。
まあアルシオーネ様のご子息であるから全くおかしなことではないのだが。
「ゼスト?」
先を歩いていたプリメーラが俺の元へとやってきた。
「まったく、後ろを見ていないと思ってたら……下らない井戸端会議に耳を傾けてたのか」
「聞こえてたのか……」
「エルフは耳がいいんだ」
自信たっぷりに自信の耳を指すプリメーラ。
「発言の責任をとることのないあのような下賎な会話に耳にする必要などないぞ」
「……随分ないいようだな」
俺は思わず苦笑してしまう。
それにしても、国王殺しの噂が離れた場所まで流れてくるとは……。
その当の本人がいることも知らずに2人の女性はその話題で盛り上がっていた。
「ゼスト……」
プリメーラが真剣な面立ちで俺の顔を見ていた。
「やっていないのであれば、あんな話に気を止める必要もないし、考える必要もないぞ」
そして最後にこう締める。
「私はゼストのことを信じている、安心しろ、誰もが疑った目で見てきたとしても私はゼストの味方だ」
自信たっぷりに告げたプリメーラは踵を返し、再び前を歩き始めていった。
「……ありがとう」
小さく呟くと、彼女の後を追いかけていく。
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【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
カクヨムコンに参加しています!
受賞目指して頑張りますのでこれからどうぞ、宜しくお願いいたします!
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