第5話 最初の街に到着
「ようやく着いたな」
襲いかかる魔物を倒しながらも森を抜けた先にある街道を歩き続けること数時間。
目的としていた港町ロナートへと辿り着いた。
出発した時には日が上空に位置していたが、この街に着く頃には空は赤く染まっていた。
「ゼスト、あちらを見てみろ」
隣に立っていたプリメーラは街の奥を指さしていた。
それに釣られるように俺はそちらを向くと、夕日が沈もうとしていた。
「この街の奥には港があるんだ、ちょっと行ってみないか?」
聞くと同時にプリメーラは俺の手を掴んで走り始めた。
「わかったから、急にひっぱらないでくれ!」
プリメーラときたのは街の奥にある港。
船を止める波止場がいくつもあり、大小様々な船が停められていた。
「見ろ、日が沈んでいくぞ」
プリメーラは海の方を指差す。
その先には夕日がゆっくりと海の中へと沈んでいく。
「夕日が沈むところなんて初めて見たな……」
俺は初めて見ることに感動を覚え、思っていることを口にしていた。
2人とも完全に沈み終わるまで黙ってその様子を眺めていた。
その静寂にキュ〜という情けない音が響き渡る。
その音を聞いたプリメーラは笑い出していた。
「全く、いい雰囲気を台無しにしてくれたな」
「……仕方ないだろ、今日1日ほとんど食べてないんだぞ」
森の中を突き進んでいるときは木々に生えている果実をとって食べていたが、街道にでてからは口にするものがまったくなかった。
また、海から流れてくる潮の香りが俺の胃袋を刺激与えてきていたのだ。
「しょうがない、戻って食事を取るとしようか!」
そう告げると踵を返すプリメーラだったが、口元をおさえながら笑いを堪えていた。
「いつまで笑っているんだよ」
その後を追うように俺も歩き始めた。
この港町ロナートには3つのエリアで構成されている。
先ほど俺たちがいた港エリア。漁師などの漁港関係者が住む住宅エリア。
そして商店や飲食店などが立ち並ぶ繁華街エリア。
港エリアにいるときは人数は少なかったが、繁華街エリアにつくと湧き出たかのごとく大勢の人でごった返していた。
何度かこの場所を訪れているプリメーラもここまで人がいるのは初めてだと驚いていた。
「今日は大きな船が停泊しているため、乗組員の方々の利用が多いんですよ」
一番最初に目ついた食堂に入り、案内してくれた人がそう話していた。
食堂を見ると、体つきのいいいかにも海の男たちと言える人たちの姿が見えた。
「港町らしく賑やかでいいじゃないか」
そう言いながら案内された席につくプリメーラ。
俺も「そうだな」と告げると、対面の席についた。
「そういえば……」
プリメーラはテーブルの上に置いてあったメニューを見ながらふと俺を見ていた。
「お酒はいける口か?」
「そもそも飲んだことがない」
ブラバスでも様々な祭りや宴があり、国王を始め、城にいる兵士たちもお酒を楽しんでいたが、俺は何かあってもすぐ動けるようにするため、口にすることはなかった。
「だとしたらいい機会だ、一緒に飲もうじゃないか」
プリメーラは嬉しそうに店の者を呼ぶと、次々と注文をしていく。
「おまたせしました!」
すぐに来たのは赤いワインと大きなグラスに注がれた黄金色の飲み物。
口の部分には白い泡が乗っかっている。
「ゼストはそっちの大きなグラスだ」
そう言って俺の目の前にグラスを置く。
「……いくらなんでも量が多すぎだろ? 飲めるかどうかわからないんだぞ」
「大丈夫だ、若いのだからこんなお酒いくらでも入るにきまってる」
どういう理屈だよ、と悪態をつきながらも仕方なくグラスを手にする。
「それでは、旅の初日の終わりに乾杯だ!」
プリメーラはそう告げると俺の持つグラスの口に彼女のグラスの口を重ねる。
微かにだが、キンと高音が耳に広がっていった。
「……ゼスト、本当にお酒は初めてなのか?」
テーブルに運ばれてきた料理を食べていると、テーブルの上に顔を乗せたプリメーラが目を細めながら俺を見ていた。
「本当だ」
テーブルの上には同じような中身のない大きなグラスが3つほど置かれていた。
全て俺が飲み干したものだ。
「それなのになんで顔色が一切変わっていないんだ」
「……そんなこと言われてもな」
ちなみにプリメーラは熱でもあるかのようにほのかに顔が赤く染まっていた。
眠いのかメモ少しトロンとしている。
そういえば宴や祭りの時に酒を飲みながら寝ている兵をよく見かけたな……。
プリメーラは店員を呼び、水を持ってくるように頼む。
すぐに持ってきてもらった水を一気に飲み干していた。
俺は料理を食べながらその様子を見ていた。
「こんなところに可愛いねーちゃんがいるじゃねーか!」
そこへ見知らぬ男がプリメーラに声をかけていた。
周りと同じような服を着ていることから、船乗りの1人だろう。
袖を捲っており、そこからは鍛え抜かれたであろう隆々とした筋肉が見えている。
相当酒を飲んでいるのか、顔は真っ赤になり、体もフラフラになっていた。
声をかけられたプリメーラはゆっくりと男の方を向く。
「むさ苦しい男だらけで飽き飽きしてたんだ、よかったら俺たちの相手をしてくれねーか!」
男は大きな声で話すと周りにいる他の男たちが雄叫びのように声をあげていた。
「……やめろ」
俺はため息混じりに男に告げる。
「おいおい、いい気分になってるのに水を刺すんじゃねーよ」
男の言葉に周りは加勢するように更に騒ぎ出していた。
「……彼女は長旅で疲れている」
そう返すと男は怒りの形相で俺の目の前に立つ。
「おいおい、いい女を連れてるからっていい気になるんじゃねーぞ優男の兄ちゃんよぉ!!」
男は拳を振り上げてきた。
「ゼスト……!」
プリメーラは目を大きく開けながら俺の名前を叫ぶ。
「ぐふぉ!?」
だが、その拳が俺に触れる直前で男は真後ろに倒れていった。
鼻から大量の血を流しながら。
その様子を見ていた周りの船乗りたちは先ほどまで騒いでたのが嘘のように静まり返ってきた。
「……何をしたんだ?」
プリメーラは恐る恐る倒れた男の顔を見る。
「人間向けの対策……って言った方がいいのか」
本来なら目の前で寸止めするはずだったが、この男が勢いよく殴りかかってきたため、止めることができずにそのまま男の鼻を当たってしまった。
まさかそのまま気絶をするとは思わなかったが……。
「なかなかうまくいかないですね、アルシオーネ様」
教えてくれた恩人に向けて俺は1人呟いていた。
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