第4話 2人の旅の始まり……?

 「おはよう……」


 日が昇り、朝日が差し込んできた頃にプリメーラが眠たそうな目をこすりながらゆっくりと体を起こす。


 「やっと起きたな、日が昇ってからかなり時間が経ってるぞ」

 「……朝は弱いんだ」


 そう言ってプリメーラは大きな口を開けていた。


 「ゼストは朝、強いのか?」

 「そうだな、日が昇ると同時に起きて、鍛錬をしていたから強いと言われたらそうなるのかもな」


 偉そうなことを言っているが、これは勇者となった時に、どんな時でも鍛錬は怠るなというアルシオーネ様の言葉を守っているだけだ。

 それもあってか時間を有効的に使えるのだから、悪いことではないとは思っている。

 

 「羨ましい限りだな……」


 プリメーラは再度大きく口を開けていた。


 

 

 「さてと、そろそろ出発しようか」


 そう告げたプリメーラは右手をパチンと鳴らすと、彼女の横の空間に小さな穴が開き始めた。

 そういえば夜にアイテムが収納できるストレージボックスとか言っていたが、これがそうなのだろうか……。

 滅多に見ることのない光景に俺は驚く。


 「これだけだな」

 「ずっと置いてあったが、それは何だんだ?」

 

 俺の質問にプリメーラは上機嫌な顔になっていた。


 「これはだな、辺りに獣が嫌がる超音波を発生させる魔道具だ、これがあると森の中の野宿が心置きなくできる代物だ」

 「そ、そっか……」

 「だが、現状は獣にしか効果がなくてな、魔物や人にも効果をだすにはどうしたらいいのか目下研究中だ」


 プリメーラの話は止まることなく続いていく……。

 だが、話を聞いているうちに理解できなくなり、頭が痛くなってきたので、彼女の前に手を差し出して静止させる。


 「話はまた後にしてくれ、とりあえず早く出発しよう」

 「おっとすまない……魔道具のことになるとついつい熱が入ってしまってな」

 

 笑いながら地面に置いていたゴツゴツした水晶玉のようなものを拾うと、ヒョイと投げ捨てるように穴に放り込むとシュッと音を立てて穴が閉じていった。


 「それで、これからどこへ向かうんだ?」

 「本来なら王都ブラバスに行こうかと思ったが、勇者を見捨てたところなど見る価値はなさそうだな」


 プリメーラは息を荒くしていた。


 「それにゼストの話だと、追っ手が来る可能性があるからここから離れることにしよう」

 「そう言ってもらえると助かる……」

 「たしか、この森を抜けた先に港町があるから、そこでゼストの旅支度もしないとな」


 俺は自分の着ている服へと目を向ける。

 兵に取り押さえられたのが、夕方ということもあり、寝巻き同然の格好ずっと過ごしていた。

 それに逃げる時に切られたり、矢を射られたりしたため、所々に穴が空いていた。


 「何から何まで本当にすまないな……」

 「構わんさ、その代わりと言ってはなんだが、私の話し相手になってもらえればいいさ」

 「それはいいけど……」


 できることなら先ほどみたいな魔道具の熱弁だけはやめてもらいが……。


 「それでは出発……っとそうだ」

 「どうかしたのか?」

 「そういえばお互い名乗りはしたが、呼び名を決めてなかったと思ってな、一緒に行動するのに色々不便だろう?」

 

 と、話すプリメーラだが、ずっと俺のことは名前で呼んでいた。俺はそれでいいが。


 「もしかして『勇者様』と呼んだほうがいいか?」

 「それだけはやめてくれ……」


 あんなことになってしまった以上、俺は勇者なんかではない……。

 呼ばれるだけで剣で心の臓を突き刺されたような感覚に苛まれる。


 「すまない、冗談にしては度がすぎてたな……」


 プリメーラは申し訳ないと言って頭を下げていた。


 「頭を上げてくれ、俺のことはゼストで構わない、それで俺は……」

 「プリメーラと呼んでくれ!」


 俺が何を言おうとしたのか理解したプリメーラは両手を腰に当てながら、豊満な胸を突き上げていた。


 「わかったけど、何でそんなに嬉しそうな顔をしているんだ?」

 「長年、1人で旅をしていて名前を呼ばれることなんてなかったからな、久々に呼ばれて気分が高揚しているんだ」


 プリメーラは満面な笑みで答えていた。


 「わかったよ、これからよろしくなプリメーラ」

 「こちらこそ、よろしくゼスト」


 お互いに名前を呼び合うと光が降り注ぐ森の中を歩き始めていった。



「グギャアアアア!」


 森の中を進んでいくと棲家としているゴブリンたちに遭遇するが、魔剣ラファーガで斬り伏せていく。

 ビッグオークを倒した時もそうだが、この剣は軽いにも関わらず鋭い切れ味を持っている。

 切れ味でいえば聖剣を同等かと思えるほどだ……。

 

「ゼスト、伏せろ!」


 剣先についたゴブリンの血を払おうとしていると後ろからプリメーラの叫び声が聞こえてきた。

 言われた通り身を屈めると、俺の頭を何かがかすめていった。

 

「ピャアアアアア!」


 すぐに立ち上がると、俺の真上で大きな黒い翼と灰色の唇を生やしたものが飛び交っていた。

 

「フォレストクロウか!」


 この森に住むカラスの一種で、人を襲う修正があるため、定期的に駆除されているモンスターだ。

 空中で旋回をして再度俺に向けて飛びかかろうとしていたがその直後に白い矢が刺さる。


「ピギャアアアアア!」


 フォレストクロウは雄叫びを上げながらフラフラと落ちていった。


 「上出来だ」


 俺の後ろでプリメーラの声がしたので、そちらへ振り向くと彼女は赤い弓を手にしていた。


 「助かったよ、というか武器を持っていたんだな」


 俺はプリメーラの持つ弓に目を向けていた。


 「旅をするのに、武器は必需品であろう?」


 言われてみればそうだと思い、首を縦に下す。


 「ちなみにこいつは私の作った魔道具でその名も『魔道具タイプ弓型デュアリス』だ」


 魔道具と聞いて嫌な予感がしたが、俺の予想は見事に的中する。


 「このデュアリスは魔力で矢を作り出すため、いちいち矢を持つ必要がないのが特徴的だな。それに矢を作る必要がないから木を伐採する必要もなくなるので、環境に優しいものだ。だが、欠点として矢を作るのに集中しなければならないので、近づかれると何もできなくなってしまうことか、まあこれは普通の弓でも言えることかもしれないが」

 「……話は後で聞くから、今は先を急ぐぞ、このままじゃ今日も野宿になってしまうぞ」

 「そ、そうだな……」


 俺は必死にプリメーラの話を静止させる。

 話し足りないのか、彼女は少し不服そうな顔をしていた。


 話し相手が欲しいと言っていたが、この分だと先が思いやられるな……。

 そう思いながらも俺たちは森を歩き続けていった。


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【あとがき】

お読みいただき誠にありがとうございます。


カクヨムコンに参加いたしました!

受賞目指して頑張りますのでこれからどうぞ、宜しくお願いいたします!

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