第20話 先輩の実力

 --開始5分、スコアは依然3-0で1年生がリードしている。


「さて、そろそろ一気に行きますか……っと」


 先輩達の攻めのターンで、センターの2年生、友永ともなが先輩がゆっくりとボールをドリブルしている。


「まずは……拓人!」

「ほいきた!」


 友永先輩が右45°の長谷川拓人はせがわたくと先輩にパスを出す。


「和馬! フォロー!」

「う、うん!」


 攻めっ気を出して動いてくる長谷川先輩に当たりに行きながら、俺に指示を出してくる弘樹。そんな話をしている間に先輩が高くジャンプした。


「当たりが甘いね!」

「しまっ……」


 9mラインより少し内側からジャンプした先輩は、そのままゴールに向けて腕を下ろす。先輩から放たれたボールは勢いよくゴールへと向かい、岳の手に触れることなくゴールネットを揺らした。


「くっそ、あんなとこからロングシュート打ってくるのかよ……」

「弘樹! 切り替えろ!」


 先程のプレイを後悔する弘樹に、岳は声をかけながらポストの隆にボールを渡す。


 --ピィィィ!


 隆がセンターラインを踏んだところでホイッスルが鳴る。


 隆から真斗にボールが渡ると、真斗はゆっくりとドリブルをしながら攻める機会を伺う。


「カット注意な!」


 コート外から大翔が声を出してくる。


「……よし、篤!」


 真斗が右45°の篤にパスを出す。途端にディフェンスの久我くが先輩が圧を掛けてくる。


「っち、真斗……」

「いただきっ!!」


 一旦ペースを整えようと篤が真斗にパスを出したところを、友永先輩がボールをカットしてそのまま攻めに回る。


「しまっ……」


 ボールを取られてすぐ真斗が追いかけるが、勢い付いた友永先輩に追いつくことはできず、6mラインから飛び上がった友永先輩は軽々とゴールネットを揺らした。


 ……2分足らずで2点取られた。7分経過で3-2。まだ1年生優位だが、この流れを見るとまだまだすぐに取り返される。


「とりあえず落ち着いて1点取りにいけ!」


 外野から大翔が落ち着けと声をかけてくる。


 全員で頷くと、再びセンターラインからプレーを始める。


「まずゆっくりいくぞ!」


 真斗がそう声をかけると、ゆっくりと真斗・弘樹・篤でパス回しをして機会を伺う。


「よしっ!」


 ふと弘樹がボールを取ると相手DFにフェイントをかけて抜こうとする。


「行かせない!」


 少し前に出た長谷川先輩が弘樹に圧を掛けようと前に出て当たりにくる。


「……っっ!」

「あ、しまった……!」


 前に出た長谷川先輩を弘樹は鋭いフェイントで抜いていく。そのままジャンプした弘樹はシュートを放つ。


「甘いね……」


 弘樹の手から放たれたボールはゴール右上を狙った鋭いコースだったが、川村先輩は左手1本で止めてしまう。


「くっそ……」


 止められたのを見て1年生の全員が戻っていくが、それより先に相手のポストの岡本おかもと先輩が走っていた。そのまま川村先輩からロングパスが送られると、難なくボールを受け取った岡本先輩が軽く腕を振っただけでゴールネットを揺らす。


「これで同点、だな」


 戻りぎわに岡本先輩が小さな声で囁く。


 --ものの3分で試合をイーブンに戻された。試合開始9分半で3-3。


「落ち着け、これで地に足ついたし、ゆっくり行くぞ!」


 大きな声で弘樹が声をかける。そうだ、まだ同点。ここからゆっくり行けばいい。



 --この時はまだ、知らなかった。あんな試合展開になるなんて……。



-第20話 完

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Sky Play! マサ @smash1027

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