スクランブルヤシの木
長月瓦礫
スクランブルヤシの木
とあるスクランブル交差点にヤシの木が生えた。
果実みたいな大きなマイクが二つなっている。
人々は新たなモニュメントに気づくこともなく、ただ通り過ぎていく。
交差点を歩く皆々様はスマホを見たり、誰かと喋っていたり、ぼーっとしていたり、何かと忙しいらしい。
歩いているだけでも様々な表情がある。
何を考えながら歩いているのか。俺にはさっぱり分からない。
どこそこの猫が可愛いだとかここ最近の社会情勢だとかあのクズのせいで仕事が遅れただとか、内容だけはやたらと豊富だ。
人々の往来を1週間、ヤシの木は記録し続けた。
足音だけでなく様々な音を吸収したヤシの実はかなり大きくなった。
地面に落ちる前にヤシの実を収穫し、二つに割ると一週間分のスクランブル交差点の音が流れ出した。これもこれで悪くないが、長く楽しみたい。
音を専用アプリにインストールし、コピーして重ねていく。
重ねれば重ねるほど重低音が響く。
足音は波のように揺れ動く。人々の動きが手に取るように分かる。
これだから交差点は楽しいんだ。
交差点の音をココナッツミルクと一緒にミキサーにぶち込んだ。
音がシャッフルされ、いい感じにまとまっていく。
フタを開ければ、とろりとした甘い香りが漂う。
入道雲にかけてやれば、雨雲系スイーツの完成だ。
スプーンですくって一口食べて、確信した。
あの交差点を記録した甲斐があった。
スクランブルヤシの木 長月瓦礫 @debrisbottle00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます