第7話〈最初の空襲〉
大東亜戦争……当時はそう呼称されていた太平洋戦争は、中国や東南アジアへ軍隊を進めた日本と、それに反対するアメリカ・イギリスなどとの対立がきっかけで起きた戦争だ。
1940年9月ドイツ・イタリアと軍事同盟(三国同盟)を結んだ日本は、1941年4月ソ連と日ソ中立条約を結んだ。
そして1941年12月8日……
日本海軍がハワイの真珠湾を奇襲攻撃、日本陸軍は英領マレー半島に奇襲上陸、日本政府はアメリカ、イギリスなどに宣戦を布告し太平洋戦争が始まった。
米英に中国・オランダ・フランス・オーストラリア・インド・カナダ・ニュージーランド・フィリピンなども参加した連合国軍……そして最終的に日ソ中立条約を破棄したソ連とも戦争をすることになってしまった。
相次ぐ日本軍大勝利に湧いていた1942年4月18日の12時15分……
日本で初めての空襲である、指揮官の名から付けられたドーリットル空襲があった。
その日の午前中、僕達は大学に行っていた。
ヒロこと篠田の言う冗談に毎日笑わせられて、物資的には不自由ながらも楽しい大学生活が続いていて、その日も何気ない日常の変わらない一日になるはずだった。
「おはよう! 朝からいい男で、すまんな!」
「すごい登場の仕方だな……」
「これはこれは~松竹三羽烏の高田みのりさんじゃないですか?」
「高田違いだ」
「すみません……時代劇スターの高田浩一さんでしたね」
「だから高田違いだ」
授業を終えた僕達は、帰りに他の大学の見学に行く予定だった。
気になっていた慶應大学は先週行ったので、今日は早稲田大学に向かっていた。
昼頃に大学の近くに着き、「大隈講堂が見えてきたな」と空を見上げると……
黒色の双発機が講堂の上すれすれを飛んでいた。
不思議に思っていたその時……
ヒューーードゥオーーーン!!!!
「なんじゃあ今の爆音は……」
急いで駆けつけると……
大隈講堂の裏にある早稲田中学の校庭に爆弾が落ちていた。
地面がえぐれて熱気と煙が立ち昇る……
「大変だ! 生徒がやられた!」
その爆撃により校庭にいた学生が即死……日本初の空襲による被害者になってしまった。
僕達は微力ながら救護活動を手伝ったが……結局通行人1名も死亡、重傷者4名、軽傷者15名という被害が出てしまった。
後から知った話だが、ドーリットル隊長の乗った1番機は水道橋の神田川沿いにあった東京第一陸軍造兵廠を爆撃する予定だったらしく……
不正確な爆撃地図のせいで目標を見誤り、当初の計画とは全く違うコースを飛行して偶然目についたのが大隈講堂だったらしい。
「僕達の到着がもう少し早かったら……もし早稲田中学の前を通っていたら……もしかして僕達が死んでいた?」
戦争が急に身近なものになって恐ろしくなり鳥肌が立った。
2番機も当初の目標とは違う荒川区の尾久に爆弾を投下……
たまたま尾久に行っていた播磨屋と関わりのある魚売りの行商のおばさんから聞いた話だが、爆弾が2軒の民家を直撃……
結局死者10人、重軽傷者48人もの被害だったが事前の警戒警報は無く、サイレンが鳴ったのは爆撃後だったそうだ。
ドーリットルが率いたB-25爆撃機16機は東京府東京市、神奈川県川崎市、横須賀市、愛知県名古屋市、兵庫県神戸市など様々な場所を爆撃し……
日本側は爆撃の被害をしばらく秘密にしていたが、死亡約90人、負傷約460人、全半焼家屋290戸という大きな被害を日本は受けていた。
しかし当時の新聞で実際の状況は余り発表されず、日本に来たのは9機で「敵爆弾の威力恐るるに足らず」「敵、軍事施設爆撃し得ず」などの見出しが踊った。
行商のおばさんは爆風で右腕が無くなった後も片手で魚屋さんをやっていたらしいが……真実を知っていても「余計なことを言うな」と言われる風潮だった。
名古屋病院が誤爆されたりもしたが、誤爆だけでなく国際法上禁止されている非戦闘員に対する攻撃を故意に行った機もあり、葛飾区の学生が機銃掃射を受けて死亡した。
死者は出なかったが、日本軍の航空機と勘違いして手を振った学童に対しても機銃掃射してきたという話も風の噂で聞いた。
「市民を狙った不意打ちの空襲なんて……アメリカはなんて酷い事をするんだ!」
日本は悪くないという社会的風潮を信じ、強い憤りを感じていたが……
開戦の勢いに乗った日本軍は1942年1月にマニラを占領……
2月にはシンガポールを占領し、中国系住民多数を掃討作戦と銘打って殺害した華僑虐殺事件を起こしていた。
同じく2月からオーストラリアでダーウィン空襲……
飛行場や船舶、市街地を狙った攻撃で非戦闘員の死者も多数出て、攻撃の直後にダーウィンの非軍属市民の半分以上が街を離れなければいけない状況に追い込まれた。
日本に初めての空襲があった2ヶ月前に日本軍によるオーストラリア本土への空襲が開始され、1943年11月までの間に97回もの攻撃が継続されていたなんて、この時の僕は全く知らなかった。
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