8時限目 魔女のお手伝いさん……?

「……ここは……そうだ。」


いつもと違う部屋に寝ぼけた頭の理解が及ばなかったものの、ひとり納得した秀也。

大変な一日から一夜明け、階下ではカチャカチャと食器の音が響き渡っている。


「こうやってゆっくり寝られたのは久しぶりだな。まあ、下に行ってみるか。」


隙間風のない部屋のベッドから出て、軽く整えてから、よそ行き用の服に着替え、軽く身だしなみを整えて、扉を開ける。


「わっ!」


扉の先にいたのはメイド服を着てお辞儀をしている人のようなモノであった。

モノ、と表現したのは目の前にいるモノの頭に葉っぱが生えているからである。


「秀也様、おはようございます。」

「……!!」

「私、お昼の間この家の管理を任されておるモノで、レイクと呼ばれているモノです。」

「……あ、はい。レイクさん。」

「洗面台をご所望でしたらご案内いたします。また、その他わからないことがあれば、お申し付けください。」


こちらです、という言葉とともに洗面所に案内される。


「……」

「……」


無言のまま移動する1人と1つ。

顔を洗い、昨日色々と話をしたリビングの扉に到着する。


「秀也様、エリ様の朝のご様子は殿方にお見せするのがはばかられる状態のことが多々あります。朝だけは同じ年齢と思わず、幼稚園児だと思うことをオススメします。」

「……はあ。」

「それでは開けますね。」


レイクが扉を開けると、そこにはナイトキャップを被り、机に右肘をつき、手にはソーセージ付きのフォークを持ったまま、うつらうつらしているエリの姿があった。


「……」

『実は、ポンコツだったのか?』


そのように秀也が思うのも無理はない。

まあ、実際にエリはこのようにポンコツなのだ。


「ん……お、弟子が起きてきた。……おはよう。……今日は忌引きで……休むんだっけ?……じゃあ、特別課題をあげよう。」

「おはようございます、師匠。……特別課題とは?」

「ん~、あとでわた……す……?」


言葉の途中で何かに気づいたのか目を見開くエリ。


「きゃーーーー。そ、そうだった。今日から人がいるんだった。やばいやばいやばい……」


パニックになり、リビングで着替えようとするエリ。その行動を見てレイクは小枝のようにしわがれた左手を秀也の前に出す。


「メタモルフォーゼ」


すると、指がするすると伸び始め、無数の木の小枝のようなものが、秀也の目の前で編まれ始める。わずか10秒ほどで、木の小枝で編み込まれた目隠しの戸ができた。


「秀也様、申し訳ありません。さすがに主の肢体を男性に晒すのは精神衛生上よろしくないと思われるため、こうさせていただきます。」

「あ、ああ。……それにしてもすごいな。」

「恐縮です。」

「あの、さっきから思っていたのだけど、レイクさんは……木の魔女なの?」


秀也は疑問に思ったため、レイクの顔の方を向き尋ねる。


「いえ、私はヒトではありません。私の生物種はマンドレイク科です。品種改良を加えられ、ヒトと同等の知能を得られた植物、とイメージしていただければよいかと。正確には、マンドレイク科ヒューマノイドレイク属ヒューマノイドレイクオリジン種です。」

「あ、マンドレイクなんだ。」


秀也の頭には昨日飲んだお茶のイメージが湧き上がる。


「ちなみにですが、マンドレイク科となっているものの実際はかなり性質が異なっていますので、新しくヒューマノイドレイク科を新設すべきとの意見が出ている模様です、今のところ実現しておりませんが。なので私から煮出したお茶はまずいですよ。」

「そ、そうなんだ。」

「はい。大抵の魔に属する者は、使い魔や私のようなヒューマノイドレイク、ホムンクルス、ゴーレムを持ち、家を空ける際の店番などに使っております。」


追加でいろいろな解説をするレイク。秀也が聞き入っていると、目の前の木がまた動き出す。


「エリ様の支度が終わったようですので、変身を解除いたします。」


複雑に絡んだ枝が縮み、レイクの左腕に戻っていく。


「おほん。弟子よ、おはよう。食事が冷めないうちに食べようじゃないか!」


手を広げ自分の対面の席を秀也に勧めるエリ。レイクがすっと動き出し、椅子を引いたため、秀也はスムーズに座る。


「……」


あまりの変わりように若干のあきれるも秀也は目の前の朝食を食べることにする。


「さて、時間も無いから課題についてさくっと説明するよ。忌引きは一親等だから5日、今日も含めてあと4日、だよね?てことで、ある本を読んでもらう。注意事項は必ず何度も本を読むこと。そして、やめる時は自ずとわかるから、それまでずっと読むこと。理解?」

「……それだけ……ですか?」

「そうだよ~」


意外と簡単そうな課題に尻込みした自分が恥ずかしくなる秀也であったが、エリはニヨニヨと笑う。


「舐めてると、地獄見るよ~。レイクに本の場所を教えたから、あとで案内して貰ってね~」

「わかりました。」

「よろしい。おそらく大変だろうけど、がんばりたまえ、我がd……」

「エリ様……そろそろお時間ですが、よろしいのですか?」


レイクがエリの話を遮り、時計を指す。


「え……?レイク、まだまだ余裕……じゃない!やばっ、じゃあ、鴻上くん健闘を祈るよ。いってくる~。」


一方的に言い残すとエリは荷物を持って、ドタバタと玄関から出て行った。


「……主が申し訳ありません。」

「いや、良いんだけど、いつもあんな感じ?」

「今日はまだマシかと。」

「……そうなのか。レイクさん、食べ終わったら、本の場所に行くついでにトイレとかこの屋敷の案内をお願いできますか?」


秀也のお願いにレイクは恭しく礼をし、答える。


「ええ、良いですよ。」

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ヒミツの魔女娘さん! 藤友 優 @Yu-Fujitomo

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