7時限目 魔女がご立腹です
会話の内容を追っていた秀也は急いで口を開く。
「え、え~と……師匠にそこまでしていただく訳には……」
食と住まで面倒を見てもらって、学費まで面倒を見てもらうわけには行かない、と思った秀也。しかし、その主張をやんわりとリンは否定する。
「鴻上とやら、これは決まっていることなんだよ。魔法学校はねぇ、外界との交流が学期中は遮断されているから問題は無いんだけどねぇ……徒弟制度の場合、師匠側に課される厳しいルールがいくつかある。『師は、弟子が適切な外界との交流を望む場合はこれを阻害してはならず、また必要とあれば最低限の補助はせねばならない。』という条文があるんだよ。これは昔、誘拐なんてして教員免許の更新をしようとしたバカがいてねぇ……私の師匠の妹弟子だが……重度のショタで、ね。まあ、大変なことになったもんだ。魔法界きっての珍事件と言われているがね。そんなこともあり、ルールが追加されたんだよ。
学校は自分の意思で自由を一部捨てている。しかし、徒弟制度はサラリーマンと見習いの二足のわらじを履いている奴だっているのさ。さすがに外界での仕事を制限するわけにはいかないだろう?てなわけで、師匠の義務として先ほどの条文が出てくるんだよ。もちろん、どこまでなら制限がないだとか、もっと厳格に決まっているがね……。」
「な、なるほど。ですが、そこまでされると……」
「何を言ってるんだい?あんたも大変だよ?スパルタ受けながら、学校の授業では成績上位をとり続けなきゃならないんだ。遠慮なんてしている暇は無いと思うがね?」
「……」
秀也は閉口してしまう。魔法使いの修行がどれほどのものかはわからないが、スパルタと言われている以上、覚悟はしておくべきだろう。そう思ってエリの方を見ると、目が合った瞬間、怖い笑みを浮かべて口を開く。
「こ・う・が・みくん。私、おいしいものを食べることと自分が楽をして引きこもること以外にお金を使うことって、イ・ヤ♡なんだよね。だ~か~ら~……死ぬ気でやってね?」
「……は……はい、師匠。死ぬ気で頑張ります。」
エリの笑みに呑まれてしまい、秀也はガクガクと頷いてしまうのだった。
やれやれといった表情で二人を見やったリンは、ため息を吐き、ローブのポケットから小さな水晶を取り出しながら秀也に話しかける。
「はぁ~鴻上とやら……もし、何かあれば、これで私に連絡しなさい。まあ、少しなら力になってやれるだろうからね。」
「師匠、私の弟子に手をつけないでください!」
「なにさ、バカ弟子。あんただって、 “氷刃”に泣きついていたくせに、自分に甘く他人に厳しく、かい?」
「うっ……」
「全く、せっかく捕まえた旦那候補、逃がすんじゃないよ?」
「う、うるさい!」
「クックック。まあ、どうなるかは知らんがね、鴻上とやらは大変だろうねぇ。」
「……」
ニタニタしているリンを横目に秀也は無言でやり過ごすことを選ぶ。だが、突っかかっていきそうなエリは、難しい顔をして考え込んでいる。
「……師匠、1つお訊ねしたいのですけど……?」
思考から浮き上がったエリがリンに尋ねる。
「なんだいバカ弟子?」
「……なんでこの場所で起きていることが“氷刃”に伝わっていたんです?ここは結界内ですよ?」
「ん?何のことだい?」
要領を得ない顔でリンがエリに尋ね返す。
「さっきの音声ですよ。この結界内を覗くことって、ほぼ不可能じゃ……?」
「……そうだねぇ。あの子がいくら優秀でも、一人では覗けないねぇ。」
「師匠……何をしたんです?」
ジトッとした視線をリンに送るエリ。にんまりとした顔を浮かべるリン。
「クックック、こいつだよ。盗聴の魔道具さ。あんたとの通信が切れてから氷刃のところにお邪魔してねぇ……あんたが変なことをしでかさないようにここに行くって行ったら、ケンカになった時に止めるためにこれを持って行ってくれって頼まれたもんだから、持ってきたってわけさ。」
右手の親指と人差し指で青い石のついたものを見せるリン。
「なぁっ……ひどくないですか!後輩魔女のプライベートののぞきが趣味ですか。そして、かわいい弟子を覗くお手伝いを師匠が率先してやるんですか!後で抗議しに行きます。どうせ今も趣味悪く盗聴しているんでしょう、 “氷刃” !」
かなりご立腹のエリは、盗聴の魔道具に向かって怒りを炸裂させる。
すると、
『パキパキ、パリパリ』
エリの目の前の空間に氷が現れ、文字を形成する。
『ごめんね、ごめんね~ by 氷刃』
どこぞのお笑い芸人のネタを文字におこした言葉が表出した。
「……ふざけんなっ!!」
『パリン』
エリが右腕を一閃し、氷の破片がきれいに砕けたが、物理法則に逆らいまた集まりだし、文字を形成する。
『そんな凶暴だと、旦那に逃げられちゃうゾ!』
「あん?」
ただの氷の文字列に凄むエリ。その様子を魔道具から読み取ったのか文字がひとりでに散け、テーブルの中央に行くと、
『コワい、コワい。またね~』
という文字を形成して、部屋に溶け込んでいった。
「……明日怒鳴り込みに行ってやる。」
エリは顔を真っ赤にしており、リンはその様子に笑いをこらえ、秀也は呆然としたのだった。
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