第2クール 魔法の世界入門
6時限目 魔女と最初のカリキュラム
弟子になる決断をした秀也のことを見つつ、老魔女が改めて話を続ける。
「さて、バカ弟子に弟子ができたのは喜ばしい限りなんだがね……エリにとっては初めての弟子だ、少しだけ様子は見させてもらうよ。あんたらが寝る頃には帰るから、安心しな。」
そう言ってソファの背もたれに身体を預ける結界の魔女。その手には先ほどエリがついだティーカップと杖が握られていた。
「 “不浄なるもの 祓われよ” “害なすものを 祓え”」
杖から出た淡い光がカップを包み込むとカップから黒い塊が浮いてくる。
「……バカ弟子、さすがにコレはやり過ぎだよ。なんでこんな希少な毒を使うんだい? “キューブよ隔絶せよ”」
黒い塊を結界で隔離し懐へしまうと、結界の魔女はジト目でエリを睨む。エリはそんなことお構いなしに秀也に話しかける。
「さてと、鴻上くん。私のことは師匠、と呼んでくれて構わないからね。で、早速なんだけど、魔力を使えるようにしないといけないよね。ということで、今から……」
『ゴンッ』
「~~ッ」
結界の魔女のゲンコツがエリの脳天に直撃していた。
「今、何時だと思ってんだい、バカ弟子。どんなに素質があったとしても、2日は掛かるよ。今は寝る場所と今後の方針を決めるくらいに留めるもんだよ。」
「いきなり殴る必要ないじゃないですか、師匠!」
「はあ……相変わらず残念な子だねぇ。」
そうため息をつくと、一口カップに口をつける。
「これじゃあ、話にならないねぇ。鴻上とやら、少し口を挟ませてもらうよ。改めて、私の自己紹介だね。 “結界の魔女”ことリンという。よろしく頼むよ。真名は呪われるから名乗らない主義でね。さて、まず寝床はどうするかだ。とりあえず、今日はこの館の空き部屋を使う感じでどうだい?」
「……俺は大丈夫ですが、エリ……師匠の気持ちは……?」
「ん?ああ、そういえばそうだね。……バカ弟子、今日はそれでいいね。明日以降はどこかこの近辺の家を紹介すれば良いからね。」
「……私はそれでいいですよ。今日教えられないのが大変、ええ……とても残念ですが……」
エリはムスッとした顔をして、ソファに置いてあるクッションを手に取り、顔の下半分を埋める。
「あんたは、相変わらず子どもっぽいねぇ……。さてと、鴻上とやら、次に考えなきゃならないのは、あんたの高校のことさ。……確か、この子と同じ学校だったかねぇ?」
「そうですね。師匠と同じ高校です。」
「そうかい、まず学校内では師匠呼びは禁止にしておこう。変に勘ぐられちゃ、困っちまう。それに魔女という存在は無用な混乱を招くことがあるから、秘密にしておくのが吉だよ。」
「わかりました。」「……はぁ~い。」
真面目に返事をする秀也と気の抜けた返事をするエリ。エリの返事にため息を吐くリン。
「ハァ……まあ、大丈夫だろうと思うけどね。次に、確かこの子の高校は私立じゃなかったかい?」
「はい、そうです。」
「てことは、学費が毎年……大体100万くらいかかるはずだねぇ……。あてはあるのかい?」
「……俺は一応特待生なので、授業料が4分の1くらいになってはいるので……あと2年間で50万円くらい、ですね。」
「……なるほど、全額じゃないのかい?」
「はい、入試三席でして……主席は全額免除、次席と三席は4分の3免除、4番目と5番目は半分免除ですので……。ちなみに目の前の人は、全額免除のはずですが……。」
「ふむ……なるほどねぇ。ところで、高校はどうしたいんだい?」
“結界の魔女”もといリンはのぞき込むように、そして試すように秀也の顔をのぞき込む。
「……お金の問題が許されるなら、行きたいです。大学は行けずとも、高卒ならまだ働き口はあると思いますから。もし魔法使い?になれなかったとしても、なんとかできると思いますので。」
現状考えていることを話す秀也。少なくとも色々と社会が変わった状況でも、やはり学歴の重要性は変わらないのである。実際、もし高校をやめることになろうともどうにかして高卒までは手に入れようと考えてはいたのだ。
「この私が師匠になるからには、万が一にも魔法使いになれないわけが『ゴンッ』~~ッ」
「……うるさいねえ、バカ弟子。さて鴻上とやら、あんた堅実だねぇ。この子と全く違う。高校に行きたいなら……そうだね、少しだけ口出しをしよう。エリ、最初のカリキュラムだけ口を出させてもらうよ。もし、それがイヤなら、あんたが学費を肩代わりしてあげなよ。」
本日2発目のゲンコツを炸裂させたリンは、うずくまっているエリにカリキュラムと学費についてのことを言う。
「え、肩代わりなんてヤだよ。学費の出費がイヤだから、主席入学したのに……。それに師匠、ムリなカリキュラムだったらいくら天才の私でもムリだよ。」
「ハッ、あんたが珍しく魔術以外の勉強していたのはそういう理由かい?大方、おいしいご飯を食べるために、稼いだ金がどんどん消えているんだろうけどねぇ。」
「……別に良いじゃん、おいしいの食べても。」
「そこは否定しないよ、食は大事さ。ああ、話が脱線したね。鴻上とやらは頭が良さそうだ。ということで、魔法薬の作り方を遅くとも11月までにマスターさせる。これでどうだい?簡単な魔法薬なら、弟子が作っても問題は無いさ。12月の冬休み中、毎日100本納入を10日間やれば最低価格で1本あたり100円だから、10万円くらいかい?2月まで1日30本ずつ作って納品すれば、25万くらいならなんとか稼げるだろうさ。どうだい、バカ弟子。魔法薬を5ヶ月で作れるようにならギリギリできそうじゃないかい?」
「まあ、ギリギリ……、冬休みまでの間に品質の安定化ができれば、いけると思うけど……結構スパルタになるよ、それ。」
「もし間に合わなければ、師匠のあんたが肩代わりするだけのこったね。」
「え?なんかさっきも同じこと言っていたけど、なんで?」
「はぁ~、徒弟制度において弟子の現実世界での行動に対しては、可能な限りサポートするっていう部分があることを忘れたのかい?」
「あ……」
リンの言葉にエリは気まずそうに黙り込んだ。
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