第2話 生きていて良かった
自殺未遂ばかり繰り返す私を、父も、母も、夫も、誰も責めはしなかった。それが余計に辛かった。責めてくれれば、死ぬ理由にもなっただろうに……。
繰り返す、とは、どんなことを……、と、話して置かなければ、ならない。
手首は、3回切った。深く。
カビキラーも飲んだ。
首も吊った。
頸動脈も切った。
それでも、ことごとく、私は目覚めると、白い天井を見るのだ。その時の絶望感と、計り知れない罪悪感は言い表すことは出来ない。
明らかに、このトンネルは、円を描いている。そうとしか思えなかった。
しかし、4年前、私は、突然、こう思い立った。
「ここにいてはいけない」
と。
窓のない、光のない、太陽のない、こんな場所にいてはならない――……。
と。
そして、その次の日には、夫の実家に引っ越しを決めた。夫の母は、それを嫌がる事もせず、温かく迎え入れてくれた。
「突然だね」
とは言われたけれど。
でも、それから、その日から、私は、少しずつ心を取り戻していく事となる。信じられないほど太っていた体が痩せていき、込み上げる涙が止まり、太陽の光が降り注ぐ明るい部屋で、光合成をする植物のように、私は生き返っていった。
そう。トンネルの……、出口がないと、円を描いていると、そうとしか思えなかったトンネルの出口が、少し、見えた気がしたんだ。
そして、私は想った。
「そっか。今まで死ねなかったのは、『生きろ』って、神様が言ってくれていたんだ……」
と。
それから、しばらく、私は働く事も、家事をする事も、しなかったが、今年、何年かぶりに働き出した。最初は、訓練みたいな感じで、障害者の方たちが務める職場で2か月お世話になった。
そして、統合失調症だという事は、ちょっとズルいけれど、クローズにして、真剣に仕事を探した。何社も何社も落ちた。でも、頑張ろうと思った。頑張ろうと思えた。
それからしばらくして、仕事が決まった。今までずっとやってみたかった、アパレルのお仕事だ。受かった時は、死ぬほど嬉しかった。
でも……、いざ、仕事が始まろうとする3日前、私は本当に怖くなった。暗い部屋にいた間、勤めて来た仕事は、本当に精神ボロボロで、職場で泣いたし、色んな事が怖くて仕方なかったから。
『また』
が怖かった。
でも、もうすぐ働き出して1か月が過ぎようとしている。ずーっと怠けていたから、体はボロボロだし、毎日怒られて、しんどいけど、楽しい。働けるって、楽しい。
そう。
『そっか。』
なんだ。
私は、生きていて良かった。
神様が言った、『生きなさい』の『そっか。』を、私は信じて、これからを進みたい。
そっか。 涼 @m-amiya
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