そっか。
涼
第1話 出口のないトンネル
17歳の時、私は統合失調症になった。高校も、全日制から通信制に編入せざるを得なかった。人と人との関係に疲れ、勉強もついていけない。その上、見栄張って部活まで入って、一丁前に元気で明るい高校生でいたつもりだった。
――……、つもりは、つもりで、どんどん下がる数学の点数と、どんどん広がる心の穴。そして、つもりで作った自分の虚像は、壊れてゆく――……。
どんどんどんどん、壊れてゆく……。
笑うのがしんどい。友達なんて友達と思えない。みんな敵。みんな怖い。
嫌。来ないで。見ないで。触らないで――……!!
気が付いたら、私は自分の手首を切りつけていた。それは、深い傷ではない。死なないように、死んでいない事を確かめるように、何度も何本も傷は増えていった。
血が……赤い血が私の証明。
生きている事の証明。
だけど、生きていなければならない、手首に纏わりつく地獄の鎖。足枷のように、私をこの世に縛り付ける。
「あぁ……この傷が、もっと、もっと、深ければ……、もしかしたら、楽になれるのかな?」
ふと、そんな言葉が、部屋に響いた。
その日、私は初めて、いつもよりずっと深い傷を右手首に刻んだ。そして、お湯をたっぷり溜めた浴槽にそっと手首を突っ込んだ。ついでに、もらっておいた睡眠薬も飲んでおいた。
――……気持ちよくなってきた。
眠れそうだ。力が抜けて、ゆーっくり、意識が遠のいてゆく。あぁ……もう少し。お願い。誰も起こしに来ないで。ゆっくり、眠らせて……。
そこは、真っ白な天井だった。そして、私は、何もかもを悟った。
助かってしまった――……、と。
それから、私は同じような事を何度も繰り返した。でも、死にきれなかった。
『どうして?』『放って置いて』『もう助けないで』
両親にも、夫にも、そう言い続けた。泣いて頼んだ。でも、死ねなかった。心配かけて、迷惑かけて、狼少女になっただけだった。
それから、何年も私は長ーい、出口の見えないトンネルに突入する事となる。毎日、地下の窓のない暗い部屋で、泣き叫んでは、母を困らせた。何時に寝ても、夜中の12時には目が醒めて、疲れた夫が寝ている間、イヤホンを付けて名探偵コナンをひたすら再生した。
それが、私の1日。
そうして、何年が過ぎただろう?
私は、こう思っていた。
『私は、出口のない、円を描いたトンネルの中にいる』
と。しかも、真っ暗な……。
不安で、苦しくて、怖くて、辛くて、もう、どうしようもない日々だった。
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