第8話 ユウコは今日も楽しく生きてます。

 ユウコちゃんのいなくなった部屋。

 私は一人で考える。


 もしかして。

 友達が出来たことに満足して、成仏してしまったのかな。


 ユウコちゃん。

 私、悪いことしちゃったかな……。


 授業受けるの、あんなに楽しそうだったのに。

 お弁当を食べるのだって、カラオケだって。


 もっといっぱい。

 ずっと一緒にいて、楽しい思い出を作りたかったな。



 ユウコちゃん。

 可愛かったな。


 また会いたいな……。



 私は、いつになく落ち込んで学校へ向かった。



 ◇



 メイクもしない、すっぴん姿。

 髪だってぼさぼさ。


 何か大事な物を無くしてしまったような。

 心に穴が開いたみたいな感じ。


 私の中で、ユウコちゃんの存在はこんなに大きかったんだな……。

 私は、いつもの席に座る。


「おはよー、見得子みえこ! 昨日はごめんね」

「おはよー。私は大丈夫だよ。昨日は楽しかったよ」


 なんでもない、朝の挨拶。

 いつもだったらユウコちゃんにも、している挨拶。


 後ろを向いても、そこには、ユウコちゃんはいなかった。


 霊体の席があるだけ。

 本当に成仏しちゃったんだね。



「見得子、今日はすっぴんじゃん、ウケる」

「ははは。そういう日もあるよ」


 始業のチャイムが鳴る。

 これが日常だもんね。

 いつも通りのはずなのに、なんだか寂しい。


 チャイムが鳴り終わるところで、教室の扉が開いた。

 みんなは先生の姿を見て姿勢を正していた。


 私は気の抜けた姿勢だったのだが、先生の後ろにある人影を見て背筋が伸びた。


「……ユウコちゃん!」


 私は思わず立ち上がって、大声を出していた。


「あ? 先生はユウコじゃないぞ?」

「「はははは」」


 教室の中に笑いが起きた。

 隣子りんこは、私に座るようにジェスチャーをしてくる。


「見得子、いくら何でも寝ぼけ過ぎだよ。昨日私が先に帰っちゃったことがそんなにショックだったの?」


 みんなの笑い声は私の耳には入らなかった。

 私は、ユウコちゃんを、ただただ見つめていた。


 ユウコちゃんは、両手を大きく横に広げて、野球の塁審のように「セーフ!」というジェスチャーをしていた。



 ……ははは。

 遅刻しそうなだけだったんだね、ユウコちゃん。


 ユウコちゃんは、ゆっくりと歩いてくる。


 私の家に泊まって。

 一度家に帰っていたのか、シャンプーの匂いが香ってきた。

 優しい匂い。


 ユウコちゃんは、私の後ろの席に着くとニコニコと笑っていた。

 私は、隣子に向かって、二度目の朝の挨拶をする。


「おはよう!」

「え? 見得子、ほんとどうしちゃったの? 大丈夫?」


 私の挨拶した先のユウコちゃん。

 ユウコちゃんは、いつも通り嬉しそうに笑い返してくれた。


 そして、こちらに向かって、ピ一スを向けてきた。


 ……ふふふ。

 やっぱり可愛いな、ユウコちゃん。



 幽霊のユウコちゃんは、今日も楽しく生きています。



 了

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幽霊のユウコちゃんは、今日も楽しく生きています。 米太郎 @tahoshi

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