第19話 私は本当、一生懸命愛されてるね

「陽菜ちゃん……心配したんだよ?」


「ごめんなさい、絹枝さん」


 私は、絹枝さんをハグして謝った。


「みゃーちゃんもよかったね」


「もう……お祖母ちゃん、恥ずかしいから」


「みゃーちゃん、ずっと泣いてたんだよ? それはもう赤ん坊の時以来……」


「もう!やめてよ!」


 美夜子は私を奪い返すと、そのまま部屋に押し込んだ。


「ちょっ、美夜子?」


「泣いてたのは本当だけど」


「うん、だって目の周り赤いし」


 美夜子は頬を膨らませると、私を睨んだ。


「陽菜は?」


「私は意外とあっさりしてたかもなー」


「薄情なのね」


「そうでもないよ」


 私は一人で考えていた時のことを話した。

 さっきと被るが、自分と言う芯がないこと、美夜子のことを都合良く使ってるだけじゃないかと言うこと、それらについての嫌悪感についてだ。


「そんなの、誰だってそうじゃない? 誰かに好きって言われるから、好きになるだろうし、誰かを好きだから好きって言うんだろうし」


「少なからず、好きと言う気持ちは芽生える、と?」


「うん。私が屋上で告白したみたいなことをされて初めて、恋が芽生えることもあるでしょ?」


「そう……かもね」


 美夜子は私の肩を抱いてくれ、私はそれに身を委ねる。


「私はね、こうしてるだけでも幸せなの。陽菜を感じられることで」


「私って一生懸命、愛されてるんだね……」


「だからって、全てに答えてくれなくていいんだからね。陽菜ができる範囲で答えてくれれば」


 抱き寄せられて、私の肩に美夜子の柔らかい胸が当たる。


「……私の全部を陽菜にあげる」


「いいの? 全部食べちゃうよ?」


「いい。そのために……」


「こんなに大きくなったの?」


 私はその膨らみを突っつくと「違うわよ」と美夜子は指を叩いた。


「そう言う意味じゃない。気持ちの問題。陽菜は変態だね」


「変態!?」


「違う?」


 少しあざとい表情と仕草を見せる美夜子に、私は胸を躍らせていた。

 そう、こんな美夜子をどう調理してやろうかと息巻いていたのだった。


「えい!」


「わっ!」


 私は美夜子の胸へ飛び込むと、その谷間に顔を沈める。


「ほら……やっぱり変態じゃない……っ!」


「むぐむぐむぐ……」


「こら……陽菜、離れて……」


 温かく柔らかい感触に埋もれて私は死んだお祖父ちゃんに会いに行けそうになっていた。

 だけど、お祖父ちゃんは「こら!そんなことでこっちに来るんじゃない!」と私を一喝したのだった。


「ぷはぁっ!もうちょっとで天国に行くところだった!!」


「何してるのよ……」


 呆れた美夜子は私の胸に顔を当てると「……陽菜もそれなりにあるじゃない」と言い、私と同じように顔を埋めた。


「はっ!美夜子……くすぐったいんだけど!!」


「仕返し」


 確かに、変態の所業だ。美夜子は慣れた手つきで私のブラを外す。


「ひゃ!なんで外すのよ!」


「邪魔だから」


「そんなデカいのにノーブラの美夜子がおかしいのよ!」


「だって苦しいんだもん」


 つまり、また大きくなったってことか!?


「ぐぬぬ……おっぱい魔人め」


「どっちが。そんなのに気持ちよさそうに顔を埋めてた方が変態じゃない」


 変な張り合いをしていると、私はベッドから転がり落ちてしまった。


「あいてて……」


「ごめん、調子乗った」


 美夜子は私をひょいと持ち上げてベッドの上に置いた。


「こ、これは、力の入れどころさえ分かれば簡単なの!」


「合気道のアレ?」


「そ、そう!それ!」


 美夜子の膝が私の股を押し付けて、そのせいで私は「ひゃう!」と変な声を出してしまった。


「ご、ごめん!」


 美夜子は慌てて私の上から退くと、その拍子で今度は美夜子がベッドから落ちた。


「もう何してるの……」


 私は美夜子に手を差し伸べると、美夜子はその手を引っ張って、私を抱き寄せた。

 私は美夜子に覆い被さるようになり、美夜子は私を仰向けのまま、ぬいぐるみのように抱きしめていた。


「何この感覚!?」


 私の体がまるですっぽり美夜子に嵌ったような感覚。それはまるでロッキングチェアに体を固定されて揺られている時に似ている。


「なんか、ぴったりだね」


「美夜子の息が、首筋に……」


 私はそれにより、首筋がムズムズとしており、それに気づいた美夜子は意地悪そうに鼻息をそっと私の首筋に当てた。


「や……やめっ!」


 背筋に電流が流れるように、それはむず痒さと痺れを伴い全身を駆け抜ける。


「……このぉ!」


 私はお返しに耳を甘噛みする。


「ひゃ!」


 美夜子は変な声を上げ、私は耳に息を吹きかけたりをした。


「ちょっと……陽菜ぁ……」


「美夜子、なんか声エロい」


「エロくなんか……ない」


 私は変に興奮をしていた。艶やかな美夜子の表情と声、とろんとした目に私は何故か正気に戻った。


「あ……」


「どうしたの……?」


 美夜子の胸元がはだけており、私は思わず絶句した。


「……直接触る?」


「シャツ、ダメにしちゃったね」


「いいよ。ずっと着てるやつだし」


 首元がビリッと破れてしまっていた。おそらくベッドから落ちた際、どこかに引っ掛けたんだろう。


「……これはこれで、エロい」


 私はその白い柔肌に触れ、美夜子は手の冷たさに声にならない声を出していた。


「美夜子のって大きいけど形、綺麗だよね」


「素直にありがとうって言っておくわ」


「やっぱりちゃんとブラしないとだね。今日はしてなかったけど」


「うるさい。お風呂上がりだったから」


「へぇ……」


 私は何度か見たお風呂での美夜子の裸を想像していると、美夜子にデコピンをお見舞いされた。


「痛っ!何すんのよ!」


 私ははだけた胸を軽くビンタした。


「もうお終い!」


 私は美夜子の上から退くと、乱れた服を整えた。

 美夜子はタンスから新しいTシャツとナイトブラを取り出して着直した。


「陽菜?」


 美夜子はベッドの上から私を誘う。


「そんなルパン三世みたいに飛び込んだりしようとしなくていいから」


「あ、バレてた? 不二子ちゃーんってやろうとしてた」


「なんでそんなにネタが古いの?」


「さあ、何でだろうね」


 私は普通にベッドに潜り込み、美夜子と体を絡ませながら目を閉じてみた。


「仲直りできてよかった」


「というか、まだ始まってもなかったのかも」


「確かに陽菜の言うとおりかも……ずっとごっこ遊びだったのかもね」


「だから今から本当の……」


 美夜子はさっきデコピンを食らわせた、私のおでこにキスをした。


「もう眠い?」


「うん……なんか急に……」


「それじゃ、おやすみなさい」


「うん……おやす……み」


 私は眠りにつき、美夜子はそんな私の肩を寝かしつけるようにトントンと優しく叩いていた。

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