第17話 上手に言えたらいいんだけど……
背を向けてしまった美夜子に、結局私は何もすることなく美夜子に背を向けて目を閉じた。
目を覚ますと、美夜子はまだ眠っており、スマホの時計を確認するとまだ午前三時だった。
ベッドから抜け出して部屋を出た。
夜明け前のしんとした空気と、まだ暗い空を縁側から眺めていた。
月の姿は無く、星も指で数えれる程度しか出ていない。
外に出て少し夜風に当たった。春の夜、もう春も夜も終わりに近いが、その一日の新しい空気を吸い込んで、ため息を吐いた。
スマホの液晶に顔を照らされて、情報を得る。
近くの自動販売機へ向かい、飲み物を買って戻ると、美夜子が慌てて玄関から飛び出してきた。
「陽菜!」
美夜子は私に抱きつく。
「どうしたの?」
「起きたらいないから……」
私は美夜子を宥めると、家の中に入った。
「ちょっと喉が渇いたから……」
美夜子はほっと一息吐きながら私を見つめた。
「どうしたの?」
私は部屋に戻ろうしながら美夜子を呼ぶ。
部屋に戻り、ベッドに寝転がった美夜子の髪を横に座りながら撫でる。
「寝ないの?」
「もう目が覚めちゃったから」
私はさっき買った飲み物を飲みながら言う。
美夜子は欠伸をしながら、なんとか目を開こうとしている。
「眠たかったら寝なよ」
「でも寝ると陽菜がどこかに行っちゃうから……」
「行かないよ」
再び美夜子を寝かしつけると、私はボーっとベッドのもたれて座り、スマホをいじっていた。
ニュースサイトを見たり、天気を調べてみたりしていた。
今日は何をするか、少し考えながらうとうとし始めたが、飲み物を飲み眠気を覚ました。
SNSを開き、色々見ていると私の目撃情報が投稿されており、晴天商店街での写真がアップされていた。
「まあこれくらいなら……」
美夜子の顔も映ってないので、私はそんなに気にしなかった。
寝息を立てる美夜子の顔を見て少しほっとした後、私は立ち上がるとトイレに向かい、そのついでに歯磨きも済ませて部屋に戻る。
まだ寝ている美夜子を確認して、窓の外を見ると、朝日が昇り始めており、私はその眩しさに目を細めた。
「んーもう少し寝ようかな」
私はベッドに潜り込み目を閉じたが、その瞬間、美夜子に捕まってしまった。
「え?」
美夜子は寝ながら私を抱きしめると、安心したように息を吐いた。
「うっ……苦しい」
思ったより強い力で抱きしめられ、私は困惑していた。
私は美夜子の頬にキスをしてみるが、今日は起きてくれなかった。
「むう……」
少し苦しいが、どこか心地よい。痛気持ちいい感じが私は癖になりそうになっていた。
いつまでも、このままでいたいと思うくらいだった。
そのままスッと眠りに落ちてしまい、気がつくとすっかり太陽も昇りきった午前九時前だった。
「わ!」
私は飛び起きると、美夜子は眠い目を擦りながらうだうだ起きてくる。
「陽菜?」
「美夜子、もう九時だよ!」
美夜子は時計を見て驚いていたが、今日も休日なのでそこまで慌てる様子はなかった。
「朝ご飯どうする?」
美夜子が冷静にそう訊ねてくると、私は「よかったらどこか食べに行かない? ファミレスとか」と答えた。
「モーニング食べに行くってこと?」
「うん。嫌?」
「嫌じゃないけど……」
美夜子は少し不服そうに承諾し、着替えを始め、私も同じように着替えた。
身の回りの支度を済ませて、大通りにあるダミアンへ向かう。
「あそこのハンバーグ美味しいよね。なんでも手ごねらしいし」
「私、最近行ってない」
「そうなんだ……」
ダミアンに着くと、大型連休中にも関わらず席は疎で窓際のボックス席に私達は座った。
「私、マグロのたたき丼」
「陽菜って朝からでもガッツリ食べれるんだ……」
「まあパンだけじゃ正直お腹は空くね」
「私は朝食御膳でいいや」
私達はタッチパネルを操作して注文を済ませる。
暫くして料理が運ばれてきて、私達は食事を済ませるとすぐに店を出た。
「どこか寄る?」
私は美夜子にそう訊ねると「スーパー寄りたいかな」と答えた。
私達はスーパーに向かい昼と夜の買い物を済ませた。
「昼はオムライス作ってあげる」
「やったー!」
「夜はカレーね」
「やったー!」
「……なんで同じ反応なのよ」
「だって嬉しいもん」
私は美夜子の持つ買い物袋を奪い取り、先に歩いた。
「陽菜?」
「何?」
美夜子は少し間を置いてから話だした。
「昨日のこと、気にしてる?」
「昨日のこと?」
「ほら寝る前に話してたじゃない」
私は少し考えてから「ああ、あれか。別に、気にしてないよ」と、美夜子に答えた。
「正直、恋とかわかんないし。好きなんだろうけど、それが恋で、美夜子を恋人とおもってるのかあんまり分からなくて……」
「私の気持ちはわかってほしい。私、陽菜が好き。陽菜がどう思ってようが、私の気持ちは揺るがないから」
「……それは本当に嬉しいよ。芸能界にいた時も、やっぱり好きって言ってくれるのが嬉しい」
美夜子は少し複雑な表情を浮かべて頷いた。
「でもね、私が美夜子のこと嫌いなわけじゃないし、寧ろ好きなのは本当だから」
私は美夜子の頬に背伸びをしながらキスをする。
「こういうのするくらい、美夜子のこと好きってことだから」
「……ずるいよ」
美夜子は小声でそういうと、私の前を歩き、そのまま家まで口をきいてくれなかった。
「あら、おかえり……って、ちょっと美夜子!」
絹枝さんが丁度、お昼の散歩に出掛けるのに玄関で靴を履いていたところだった。
美夜子が先に駆け込んでいく姿を見て「喧嘩でもしたの?」と訊かれた為、私はこくりと頷いた。
「喧嘩って言っても認識の相違というか……」
「まあ、痴話喧嘩は犬も食わないからね……。でも、ちゃんと仲直りするんだよ?」
「はい……」
美夜子は部屋に篭ったようなので、私はモヤモヤしながら台所に向かい、冷蔵庫に買った食材を詰めていた。
暫く、私と美夜子の間に無言の時間が流れて、絹枝さんが散歩から帰ってきても、それは変わらずだった。
私は居間で、美夜子は自室で余暇を過ごしていたが、見かねた絹枝さんが私に「そろそろ仲直りしたら?」と声をかけてくれた。
「……ちょっと美夜子の様子見てきます」
私はそう言って美夜子の元へと向かった。
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