第10話 GW突入
眠りに使うかと言うタイミングで通知音が鳴る。
通知バナーをタップすると、美夜子とのチャット欄が表示され、そこには私の寝顔の写真がアップされていた。
「いつの間にとってたの!」
「陽菜が寝てすぐ」
私は、仕返しと言わんばかりに美夜子の寝顔をアップした。
「今朝撮ったやつ。最高に可愛い」
「可愛くなんかない」
「いや、めちゃくちゃ可愛いから」
美夜子から「寝る!」と言うスタンプが送られて来て、それに対して「おやすみ!」というスタンプを送り返して私はスマホを閉じた。
朝目が覚めると、直ぐに美夜子に「おはよー」とメッセージを打ち、いつものルーティンで支度をし、今日はゆっくり朝ご飯を食べて学校へと向かった。
いつものようにバスの中で美夜子と合流し、挨拶を交わすと、体をわざとぶつけ合い、それでなんとかお互いの体温を感じ取っていた。
「陽菜、寝癖残ってるよ」
美夜子は私の横髪を触りながら、癖づいたその横髪を直そうとしてくれた。
「私、元々癖毛だからさ。多少のことは軽めのパーマくらいって思うようにしてるの」
「そうなんだ。てっきりわざわざパーマ掛けてるんだと思ってた」
「美夜子はいいよね……ストレートで」
私は美夜子の長い黒髪を撫でながらそう言うと「これは遺伝なのよ。お父さんの家系皆んな直毛なのよ」と美夜子は答えた。
「胸はお母さん似?」
「……そう」
私は他の乗客にバレないようにこっそり美夜子の横乳を突いた。
「もう、なにしてるの!」
あっさり怒られてしまうが、私は懲りずに突つこうとすると、手を叩かれた。
「痴漢で突き出すわよ?」
「ご、ごめんなさい……」
私はしゅんと小さくなってバスに揺られ続けた。
学校前に着くと、そそくさと降りて直ぐにある校門へ向かう。
教室に辿り着いた時に私はバスの中にスマホを忘れてしまったことに気がついた。
「どうしたの?」
「スマホ、バスに忘れたみたい。ポケットから落ちちゃったのかな」
「連絡してみる?」
「ありがとう」
美夜子に差し出されたスマホで忘れ物センターへ問い合わせると、無事見つかり、放課後営業所まで取りに行くことになった。
「美夜子、ありがとう」
美夜子にスマホを返すと、なぜかクラス中が私達に注目していた。
「見つかって良かったね」
「本当だよ……放課後営業所まで取りに行くから、別の路線乗らないとだ」
「わかる?」
「大丈夫」
私はそう言うと席に戻った。
朝のホームルームでゴールデンウイークについて上坂先生から少し話があったが、内容としては羽目を外さないようにと言うことだった。
昼休みになると、美夜子と机を引っ付けてお弁当を食べる。
「……ねえ、ずっと思ってたんだけど、ただお弁当食べるのがそんなに魅力的なコンテンツだとは思わないんだけど」
私は周りに居るギャラリーに向かって言った。
『いいのいいの。気にしないで』
ギャラリーの一人がそういうと、私は気にせずお弁当を食べ始めた。
隣を見ると、視線を気にした美夜子の箸が止まっていた。
「ほらみんな、美夜子が緊張しちゃうから」
「だ、大丈夫……」
美夜子は箸を動かし始める。
「あーもう、何やってんの」
私は、美夜子がこぼしたご飯粒を拾い上げる。
「はい、あーん」
「え、恥ずかしいよ……」
「一番恥ずかしいことしたら、普通に食べるのも苦じゃないでしょ?」
「陽菜、極端すぎ」
美夜子はそう言いつつ口を開けたので、そこにご飯を入れる。
それを見た周りのギャラリーは歓声を上げていた。
「あはは……」
私は苦笑いをし、美夜子に小さな声で「ごめんね。でも、よくできました」と言った。
「……お返し」
美夜子は私のお弁当箱から玉子焼きを箸で掴み、私に差し出す。
「あーん」
あっさりそれを受け入れた私に美夜子は驚いていたが、少し照れつつ私の口に玉子焼きを入れた。
「んーおいしい」
「そう……」
少し悔しそうな美夜子を見ながら、私は周りを眺める。
「こ、これはドラマでやった事あるからね!」
「そっか、陽菜は日本中にあーんを晒した事があるのか……」
その後は普通に食事をし、食べ終えて私達は図書室に向かった。
一冊ずつ本を手に取り、一番奥の窓際の席へ向かう。
「あ、美夜子!」
こちらに手を振る、私と背丈が変わらないくらいの男子。上履きの色からして三年生だろうか?
「図書室であんまり大きな声出さないで、兄さん」
「え、お兄さん?」
「陽菜も!」と私を注意した美夜子の声が、最も大きな声で、図書委員から注意を受けた。
「兄さんが図書室に来るなんて珍しい」
「ちょっと調べごとをね……」
「嘘、絶対私と陽菜がくるからって待ってたんでしょ」
気まずい顔をする美夜子の兄。
「そういえば自己紹介がまだだった。俺は立山清隆。見ての通り、美夜子の兄だ。よろしく。えっと……ひ、咲洲さん」
「見ての通り……?」
清隆は私と同じくらいの背。美夜子と私とは15センチほど差がある。清隆は私より少し高いくらいか?
「あっ、今背の高さ見比べてただろう」
「ま、まあ……そうですね」
「陽菜、兄さんは昔から身長がコンプレックスなの。できる事なら私の分をあげたいくらいなんだけど……」
「ひどい……妹にまでそんなこと言われるなんて」
「ま、まあ。背の低い男の子もモテるって聞きますよ? だから、自信持ってください」
「うん、ありがとう咲洲さん」
清隆は私と話せて満足したからか「じゃ」と図書室を去っていった。
「なんだったの……?」
「昨日からずっと質問責めだったから。道場の連中も」
「そうなんだ……」
私はため息を吐くと、窓の外を見た。
晩春の様子。若葉が青々としている様子を見て、明日からのゴールデンウイークのことを考えていた。
「そうだ、本当にお泊まりしていいの?」
「うん、お祖母ちゃんが是非にって」
「そっか……」
「どうかした?」
私は口に出そうとしてことをグッと堪えて「どっか行こうかと思ったけど」と美夜子に言った。
「どっかって?」
「例えば動物園とか。まあ連休中だし人多そうか」
「そうね……」
「私も人混み苦手だし、騒がれても嫌だし」
「私も人混み苦手……」
私は空に羽ばたく鳩を見ながら「やっぱり家が落ち着くよね」と言った。
「公園でもああだったし、なんか気が引けるね」
「そうなんだよ……人気者も大変なんだよ」
「唯さんの気持ちってそう言うことなんだね。それが学校でずっと起きるって考えると……」
私はさっきのお弁当食べてる時のことを例えに出すと美夜子は「ゾッとする」と言った。
「華やかな職業だけどさ、その分有名人税を払うように色んなところで注目されちゃうの。まあ、唯の場合は私より目立つからってのもあるけど」
「陽菜は、自分から他人に関わろうとしなかったのも大きいと思う。クラス中でそこに触れていいのかわからなくして、敢えて、一般人として教室にいるただのクラスメイトとわからせたのが」
「そのお陰で約一ヶ月、友人と呼べる人いなかったけどね」
私は苦笑いと、そうなった経過を思い出して「まあ100%私が悪いけど」と付け加えた。
手元に置いていた本を一、二ページ捲り、すぐに閉じた。
「青春って、なんだろうね?」
「何、突然」
美夜子は本に目線を向けながら言う。
「だって、私中学でそう言うことなかったわけじゃない。だから、わからないのよ。学生の機微ってものが」
「そんなの……勉強して遊んでってことじゃない?」
「だったら、青春はもうしてるってこと?」
「さあ……私に聞かれても……」
私の目線は再び外に向けられた。
校庭を走る男子と、大笑いしながら会話する女子。
離れたところにあるベンチには、恋人同士だろう男女が手を繋いで座っている。
「まあ、こんなキラキラした青春、私には向いてないかな」
そう呟いて私は美夜子を見た。
「私も」
「私達、早く大人になりすぎたのかな?」
「かもね……」
何故か二人して落ち込んでいたが、予鈴がなったので本を元の棚に戻し、図書室を出た。
教室ではまだ昼休みの名残りのようなざわつきがあり、私達が入ってくると何故かそれは止んでしまった。
午後の授業を終えると、いよいよゴールデンウイークとなり、浮かれ気分になるのをグッと抑えて、帰路へ着く。
「さて……何するかなぁ」
「去年は仕事だったんでしょ?」
「まあね……忙しくさせてもらってたから、普通に過ごすなんて難しいよ。ただでさえ土日とか、虚無の時間過ごしてるのに」
「意外とインドア派?」
「そうだね。人多いの苦手だし」
「なるほど」
私はバスの車窓を眺め、美夜子はスマホを触っている。
「いつ来る?」
「今年って休み七日間だよね? それ全部ってわけにはいかないから、真ん中あたりかなぁ」
「わかった。お祖母ちゃんに言っておく」
「うん、うちもお母さんにまだ何も言ってないし、帰ったら言っておくね」
美夜子の下車する停留所で別れて、私は帰宅した。
「ただいま……って!」
「お帰りなさい」
玄関先に置かれたキャリーケースを見て、私は驚いていた。確か、これはお母さんのだ。
「お母さん、旅行行くの?」
「あら、言ってなかったかしら? 玖美ちゃんと一緒に旅行行くって」
「玖美ちゃん?」
「美夜子ちゃんのお母さんの玖美子ちゃん。この前連絡した時に、美夜子ちゃんがお泊まりしたお礼ってことで誘われたの。でも、出稽古でいくつか地方を回るのに、玖美ちゃんも同行するけど、玖美ちゃんは旅行目的なんですって。だから同伴者が欲しいって」
「なるほどね……あ、私も美夜子のところに泊まりに行こうって思ってるんだけど……」
となると私は、初日から泊まりに行くべきではないかと考えた。
「もしお母さんと予定あるならって休みの真ん中あたりでって考えてたけど……それだったら早速行ったほうが良さそう」
美夜子にそう連絡すると、美夜子も今日その話を聞かされて、玖美子さんはてっきり初日から私が泊まりに来るものだと思っていたようだ。
「じゃあ、私も支度しなくちゃね」
私は慣れた手付きでキャリーケースに衣服を詰め込む。
流石に一週間となると洗濯機を借りるかと、美夜子にメッセージで聞くと快諾してくれた。どうせ自分の分も洗濯しなければいけないからとのことだ。
そして美夜子から「なんなら今夜から泊まりに来る?」とメッセージが届いた。
「お母さん、美夜子が今夜から来たらって言われたんだけど……晩御飯の準備ってもうしてる?」
「ええ作っちゃってるわよ?」
「じゃあ、ご飯はいらないって言っておく」
美夜子にそうメッセージを送って私は晩御飯を食べることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます