第4話 美夜子はとても魅力的な故

 気づけば私達はベッドに入っていた。

 美夜子にまるで抱き枕のように胸元に抱えられて、私は美夜子の体温で暖をとる猫のようになっていた。


「美夜子はその後どうだったの?」


「やっぱり……この体付きだからね、男子の目が気になって……」


 私は羨ましい反面、そういうリスクも生じるのかと思い知った。


「それに中学三年の時、レイプ未遂に遭ったし」


「へー、そうなんだ……ってレイプ!?」


「未遂よ」


 美夜子は私の眉間を指で突ついた。


「中学時代は、小学校の続きみたいな感じだったけど、割と上手くやれてたの。気の合う友達とかもできて小学校の頃が嘘みたいに……でも、仲良かった子達が転校しちゃって、結局二年の夏休み終わりにはひとりぼっちだった」


 美夜子は私の頭を撫でながら話している。私は温もりと、その優しい声で眠くなっていた。


「それから、結構男子から告白されたりすることがあって、正直、体目当てってわかってたから全員断ってた。でも三年生の秋にそれが起こった……」


「美夜子、話すの辛くないの?」


「大丈夫。別に被害に遭ったわけじゃないし、抵抗した時に私相手の骨折ってるし」


「つ、強過ぎる……」


 私は美夜子の顔をチラッと見ると、額にキスをされた。


「正直、レイプだったかどうかは別として、まあ性的暴行未遂よね。いつものように下駄箱に手紙が入ってて、放課後、校舎裏で待ってるって書いてあったから行ったの。最初は男子が一人、目印の楠の下で待ってて、私が話しかけると、三人くらい他に男子が出てきて、私を抑え付けたの」


「もしかして……」


「まあ正直その時の私、クラスでまた浮いてたし、やっぱりこの身体のせいで同性には嫌われてるし、男子にはイヤらしい目で見られるしで、嫌だったの。だから、もうどうでもいいやって思ってたの。でも抑え付けられて下着を脱がされそうになったら、やっぱり怖くて……その後は気づいたら蹲ってる男子達がいて……」


 私はそれを聞いて「なんか漫画のヒーロー見たいじゃん。多勢に無勢をひっくり返すって」と言った。


「まあ、そいつらの一人が突き飛ばされた拍子で転んだ時に手首を折ったくらいで、後は大きな怪我はさせてないんだけど。でも、防犯カメラにバッチリ撮られてたから」


「あー、それは言い訳できないね。美夜子も過剰防衛とは言い難いし」


「正直それからが地獄だった。男子は同じクラスの奴らばかりだし、その話はすぐに噂で巡り巡って行って……教室に居づらくなってから保健室登校になった」


 美夜子はギュッと軽く私を抱き締める。私も同じくらいに美夜子を抱きしめた。


「安心して陽菜。私、処女だしキスも今日したのが初めてだから」


「……私も処女だよ? キスはお芝居でしたことあるけど、プライベートでは初めてだったよ」


 そう言葉を交わしてから、私達はまた唇を重ねる。

 美夜子はこれまでで一番奥まで舌を潜り込ませてくる。


「……み、美夜子、なんか……激しかった」


「ごめん……なんか止まらなかった」


 美夜子はそういうと、乱れた髪を直して起き上がった。


「さ、それそろお祖母ちゃん帰ってくるし。それに陽菜も帰った方がいいんじゃない?」


「あ……お母さん待ってるかも。晩御飯食べるの」


「じゃあ、早く帰ってあげて……送って行こうか?」


「いいよ」


 玄関先でお別れのキスをして私は帰路へと着いた。

 意外にも、美夜子の家から自宅までは小学校と中学校の校区は違っただけで、距離はそこまで離れていなかった。

 家に帰ると、お母さんは待ちくたびれた様子でだった。

 とにかく謝罪をして、晩御飯を食べながら、美夜子について話した。


「あ、そういえば、美夜子ちゃんだったわね。立山さんの所の娘さん。お姉さんの方はよく覚えてるんだけど……」


「美夜子、お母さんに指導してたって言ってたよ」


「え? あ、あれが美夜子ちゃん? てっきりお姉さんなのかなって思っていたわ」


「美夜子、成長早かったって言ってたしね。今も170センチ以上あるよ」


 お母さんは「へぇ」と相槌を打ちながら食事を進める。

 晩御飯を終えて少し休んでから、私は入浴を済ませてリビングに戻ると、お母さんはソファーで横になり寝ていた。

 風邪を引いてはと私は毛布を掛けてやり、照明を落としテレビを消すと、自室へと戻った。


「そういえば、美夜子のID知らないや」


 スマートフォンの液晶をタップしながら私はそう呟いた。

 自室の照明を落として、スマホもそばに置いて私は寝転んで目を閉じてみた。

 こう言う時に瞼の裏に美夜子が浮かぶとこれまたロマンチックだが、そこにはただ闇が広がっていた。

 考えることが面倒になることは良くある。

 小中学校時代も、芸能界から距離を取ることも、考えるのが面倒になった。


「美夜子はちゃんと話してくれたのに、私は……」


 そんな後ろめたい気持ちが、私を焦らせる。どうしてか、施しを受けたら返さなきゃいけない気がしてならない。美夜子からそれを得たかといえばどうかわからないが、あまり話したくないことを私に話したと言うことは、私も何か、美夜子にだけ話すことを作った方がいいのではないかと、考えてしまう。


「私……もう美夜子のこと気になってるの?」


 今日距離が狭まったばかりで、私はそんなにチョロい人間だったのか?

 美夜子との初めてのキスが忘れられない。あれをまた求めて、私は美夜子とキスをしたくなる。


「どうしちゃったんだろ……私」


 正直、怖い。

 こんな自分が、本当はこうじゃないはず……。明日、学校で確かめてみよう。私の気持ちが本物なのか、それとも一過性のただの風邪のようなものなのか。

 それに、美夜子はどうなんだろう。学校でもああいう距離感で接してくるのだろうか……。



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