#34 木陰に咲く一輪の百合の花 その①
朝顔 紫月
『ただいま!』
何時もは学校を終えて紫月が帰宅すると明るい声で母親が『お帰りなさい!』と出迎えてくれるのだが、
この日は母親が出迎えてくれる訳でも無ければ、
晩御飯の美味しい料理の匂いもしていなかった。
朝顔 紫月
『お母さん? 居ないのかなぁ?』
紫月が玄関に入ると、
部屋の奥から微かに声が聞こえて来た。
朝顔 紫月
『お母さん? お母さんなの?』
部屋の奥から聞こえる声に問い掛けながら、
紫月が廊下を見下ろすと廊下に土足で部屋に入り込んだと思われる足跡が沢山付着していたのであった。
そんな中、部屋の奥から『・・・来ちゃ駄目!』と母親の声が聞こえ、紫月は母親の事が心配になり慌てて奥の部屋へと駆け出して行ったのだが、
その最中、洗面所の方向から紫月は左腕を強く掴まれ転倒してしまった。
朝顔 紫月
『痛い!』
紫月が振り返ると、そこには2人の大柄の男が不気味な笑みを浮かべながら立っていた。
紫月が再び母親の声がした方向を眺めると、部屋の奥からも大柄な男が2人、不気味にも微笑みながら紫月の方へと近寄って来た。
だかそんな中、紫月は1つの希望を見つけたのであった。
その2人の男の奥に、長身の男と共に父親の姿もあったからだ。
紫月が立ち上がろうとするも、男は紫月の左腕を強く押さえたまま離してはくれなかったのである。
朝顔 紫月
『お父さん! 助けて! 痛いよ!』
その問いに対して父親は言葉を返す事も無く、
涙ぐみながら俯いていたのであった。
そんな中、一番奥に居た長身の男口を開いた。
長身の男
『何、下なんか見てんだよ!』
そう言うと男は父親の髪の毛を右手で掴み、
父親の顔を紫月の方へと向けた。
長身の男
『お前が借金の代わりに、嫁と娘を手渡したんだ。
しっかりと娘が可愛がられる姿を、その目に焼き付けておくんだな。』
紫月の父親
『紫月・・・御免な・・・御免な・・・。』
男の言葉と、その言葉を聞き大粒の涙を流す父親の姿を目にした紫月は全てを悟ってしまったのであった。
朝顔 紫月
『お父さん! 助けて!』
紫月が恐怖を覚え父親の名を叫んでも、その声が届く事は無かったのである。
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百合 黄泉
『はっ!』
辺りを見渡す黄泉。
そこは微かに朝日に照らされた、黄泉自身の部屋の中であった。
百合 黄泉
『夢・・・?』
そう言うと黄泉は、思いっきり部屋の壁に枕を投げ付け、
『あの馬鹿親父』と一言だけ呟いたのであった。
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8時45分、黄泉は家から高校へ向かう途中にあるコンビニに立ち寄っていた。
お昼に食べるパンを選びながら大あくびをしてしまい、
恥ずかしさから周囲を見渡し頬を赤らめる黄泉。
百合 黄泉
『あれから一睡も出来なかったから仕方ないわよね。』
黄泉は小さく呟くと、早々に近くにあったパンを手に取りレジへと向かった。
黄泉がレジを待っていると、レジの近くに置いてあるスポーツブランドのリストバンドが目に入った。
レジの店員
『どうぞ!』
黄泉がレジの方向へ目をやると、店員さんが笑顔で黄泉の方を眺めていた。
黄泉はレジの前に立ち、自分の後ろに並んでいる人がいないかを確認し、誰も居ない事を確認した後、
リストバンドに指を指しながら、レジに居る店員に向かって話し始めた。
百合 黄泉
『あのリストバンドって、冬用ですか?
夏でも使えるなら、可愛いから欲しいんですけど・・・。』
レジの店員
『スポーツ用で通気性が良いので夏でも使えますよ!
有名なスポーツブランドなので、時期を選ぶ物でもありませんのでお勧めですよ♪』
店員の返答を聞き、黄泉はリストバンドを2つ手に取りレジカウンターに差し出した。
百合 黄泉
『じゃあ、紫色と黒色を1つずつお願いします。』
レジの店員
『有難う御座います!』
リストバンドを手に取る店員。
百合 黄泉
『あの!値段・・・取ってもらう事は出来ますか?』
黄泉の問いに笑顔で『はい! 大丈夫ですよ!』と言い、店員はリストバンドに付いてあるシールを綺麗に剥がしてくれたのであった。
百合 黄泉
『有難う御座います。』
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8時50分、
黄泉が山桃高等学校の校門の前で紫月が来るのを待っていると、向こうの方から紫月の姿が見えて来た。
紫月は黄泉の姿を見付けると近寄り、
笑顔で『おはよう!』と声を掛けて来た。
百合 黄泉
『おはよう。体調は治った?』
朝顔 紫月
『うん! もう全然、平気だよ!』
百合 黄泉
『そう。なら良かったわ。』
そう話すと黄泉は『はい、これ!』と言い、
袋からリストバンドを2つ取り出し紫月に手渡した。
朝顔 紫月
『わぁ〜! 可愛い!』
紫月の喜ぶ表情を眺め、頬を赤らめる黄泉。
そんな中、紫月は財布の中に目をやった後、
少し焦った表情で2千円を取り出し、
『御免!今、2千円しか無かった!』と謝って来た。
百合 黄泉
『要らないわよ!』
朝顔 紫月
『でも・・・。』
百合 黄泉
『あんたねぇ!
プレゼントにまで、お金を払っていたら破産するわよ!』
そう言うと黄泉は、紫月の手首を眺めながら、
『今は冬だから良くても、夏になったら必要でしょ。』と少し落ち着いた声で紫月に語り掛けた。
朝顔 紫月
『うん・・・。有難う。
じゃあ、また何かお礼するね!』
百合 黄泉
『そんなの良いわよ。
それより、早くしないと授業が始まるわよ。』
朝顔 紫月
『あっ!ほんとだ!じゃあ、入ろうか。』
百合 黄泉
『えゝ。』
そう話すと、
2人は山桃高等学校の中へと入って行ったのであった。
spiritGUARDIAN ~あの空の向こうへ~ [1] 七瀬 ギル @hiroshi_vii
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