第161話番外編 アンデッドな彼女inアメリカ その1

 ここはアメリカのとある田舎町。土煙と乾いた土地が広がる、観光地でもなんでもない退屈な町だ。


「おい、弾の在庫は切らしちゃいねぇか?」


「はいっ! マエダさん! この通り、武器屋のマイ・ニャンさんから先日あるだけ買ってきました!」


 この田舎町でほそぼそとガソリンスタンド兼雑貨屋を営む俺、マエダは、ひょんな事から町にフラっと現れたゾンビのアイリと一緒に暮らす事になった。


 詳しくは過去のお話を見てくれ。そこに全てがあるぜ。

 過去のお話↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330667736303992/episodes/16818023213436099224

 

 とにかく、あれから気が付けば二ヶ月あまり経過していた。その間に、俺達の生活も一変した。


 まず最初のゾンビが確認された都市は封鎖。しかしそれでもゾンビの被害を食い止める事なんて出来なかった。ゾンビはその数をどんどん増やして行き、ついには俺達の町までやって来た。アンブレ……ゴホン! 株式会社「傘」は、その存在を隠すどころか、運良く逃げ切れた者達の証言によって、その存在のヤバさが世間に露見した。地下にヤバいバケモノまで飼っていたらしいぜ。


 まぁ、そんな訳で、今の俺達はというとゾンビ襲撃に備えて防護壁を作って籠城中、という訳だ。この世界じゃ何故か七日毎にゾンビが大量発生するので、至る所に鉄柵やトラップを仕掛けてゾンビの侵入を防いでいる。ちなみに、元の家であった雑貨屋にはもう住めなくなっちまった。今は町の拓けた空き地に、簡易的な拠点を建設した。拠点の周りを一段低くして、登ろうとしても電流が流れる鉄柵のお陰で足止めが出来るという仕様にしてある。


「前回の襲撃の時に随分拠点も壊されちまったからな……予備の弾薬はしっかり管理しておかないと……全く、日を追う毎にあいつらゾンビ数が多くなっていってる気がするぜ……」


「そうですね、私も出来る限りお手伝いしますね! ゾンビの私には奴らは反応しないみたいなので、ウェーブ中に拠点の修復も出来ますし!」


「あぁ、それは本当に助かってるぜ! でも、無理はするなよ? アイリだって噛まれたらヤバいんだから」


 俺がそう言うと嬉しそうにはにかむこの子は、何故かゾンビなのに自我を保ち、普通の人間と同じ様に振る舞う特殊なゾンビだ。俺はこの子を匿った際に、うっかり嫁さんという設定にされてしまったもんで、今もこうして一緒にいる。思えば、あの時は誰かに追われている様子だったが、もう大丈夫なのだろうか?


「マエダー! アイリー! いる〜?」


 足元から声がしたもんで、俺は鉄製の重い扉を開ける。この拠点は仕様上、足元に出入口を設置してある。扉を開けて下を覗き込むと、そこにはミス・アサギリが立っていた。よく知った顔を見て安心した俺はハシゴを下ろしてアサギリを拠点に迎え入れる。


「やぁ! ミス・アサギリ! どうしたんで?」


「何言ってるの。今週の物資を持って来てあげたんじゃない」


 重そうなリュックからドサドサと食料やら生活用品などの物資を取り出すアサギリ。週に一度、この辺りはヘリで物資が運ばれてくる。近くのシェルターは定員オーバーだから、行き場のない俺達の様な一般市民はこうやって自衛を余儀なくされている。アメリカが銃社会で助かったぜ。ここが日本だったら、刀でゾンビの野郎と戦わないといけないんだろ? ハハハ!


「わあ! 今回も豆の缶詰めが多いですね! 私、豆大好きなので嬉しいですっ」


「アイリはこんな時でもポジティブよねー。昼間はゾンビの動きもゆっくりだから怖くないけど、いつ死んだっておかしくないのよ?」


 豆缶とスープの缶詰めを見ながらご満悦のアイリに、腕を組みながら呆れ顔のアサギリ。アイリはすっかりこの町の人気者だ。彼女の事は、何故かみんなゾンビだと認識していない。それどころか、俺よりもこの町の連中と打ち解けてやがる。嬉しい様な、複雑な様な……


「いつもすまないな。そう言えば、タキグチ保安官とヨリを戻したんだって? 大丈夫なのかい? あいつ、いい加減な男だろ?」


 そう、この数ヶ月の間に彼らの関係性もまた変わっていた。一度は別れていたアサギリとタキグチ保安官のヨリが戻ったのだ。タキグチ保安官は保安官という立場がありながら、博打も女も大好きだし、場合によっちゃ汚職にだって手を出す様な男だと言われている。まぁそれも、司法がちゃんと機能していた世界の話だ。今のこの世界には、もうマトモな価値観なんて存在しない。みんな生きる為にゾンビになっちまった家族を殺したりしなきゃならない世界なんだ。


「まぁこれも腐れ縁ってやつよねー。それに、彼はいい加減な男だけど、悪い人じゃないのよ?」


「それならいいんだがね、俺はあんたがまた酒浸りにならないかが心配で……」


「あぁ! もう勘弁して! こんな状況になってからは抑えてるわよ! アルコールだって貴重なんだから!」


 何事もないいつもの光景だ。あちこちボロボロになった俺達の町の片隅で、こうやって無駄口を叩けるのは、ある意味では緊張感がないとも言える。


 でもこうでもしてないとおかしくなっちまうんだ……ゾンビと言えど、かつての仲間達を殺っちまった俺達みたいなもんはな。


「お〜い。頼む、開けてくれ」


 俺達が談笑している所に、またしてもから呼ぶ声が聞こえた。あの声は……タキグチ保安官か?


「ちょっと待ってくれ。やれやれ、今日は来客が多いな……」





「どうも」



 重たい扉を開けて覗き込むと、そこにはヒラヒラと手を振るタキグチ保安官と、その隣に白衣を着た長身の男をはじめ、数人の科学者っぽい人が立っていた。


 

 

 

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