第162話番外編 アンデッドな彼女inアメリカ その2

「タキグチ保安官……この人達は?」


 見るからに怪しい白衣を着た男達。その中でも代表者っぽい長身の男が一際目立っていた。


 黒くて長い髪に、不健康そうな白い肌。見た感じ、アジア人っぽいが、表情が読み取れなくて不気味だ。前にテレビで見た日本人も、みんな同じ恰好して無表情で会話してたな。つくづく気色悪い奴らだぜ!


「いや、まぁ何、話は中でしよう。早くハシゴを下ろしてくれ! ここに居たんじゃ、いつゾンビが来ても……」



「ウガアアアア……!」



 タキグチ保安官がそう言ったまさにその時、抜群のタイミングで林の向こうからゾンビが一匹飛び出して来た。


「ほら言わんこっちゃない!!」


 タキグチ保安官も他の科学者っぽい奴らも慌てる姿勢を見せたが、黒髪長身男だけは動じる気配がない。


「おい待ってろ! すぐハシゴを下ろすから……」


 俺がそう言い終わる前に、ゾンビは長身男に向かって飛びかかった。あのゾンビ、昼間なのに動きが素早いだと……?! 変異種か?!



 ドス……!



「ぅ、ウガアアアァ……」



 バタ……



「……へ?」



 一瞬、何が起きたのか分からなかった。長身男が手に持っていたのは、割と大きめの注射器。それを襲いかかって来た一瞬の間に、ゾンビの体に打ち込んだというのか……? 息一つ乱れてないし、こいつは何者だ?


「……また失敗ですね。は上手くいくと思ったのですが。あっという間に死んでしまいました」


 ん? え……? 死ん……?


 男はそう言って倒れたゾンビを仰向けにしてなにやら観察している。通常、銃で何発か撃ち込まないと動きを止められない奴らが、たった一本の注射で?


「流石ドクター・ミマサカ! 新薬の研究、進んでるんすね!」


 タキグチ保安官にドクター・ミマサカと呼ばれたこの男……。タキグチ保安官の太鼓持ちにも何一つ動じていない。俺は、何故だか分からないが、このミマサカという男を見ると不安な気持ちになる。なんか違う世界線でも、この男に散々な目にあっていた様な……? 今日が初対面の筈なのに、俺は早速この男が嫌いになった。


「ミマサカさん……どうしてここに?」


 ミマサカとその仲間を中に招き入れた途端に、アイリの表情が曇った。やはりこいつらは、アイリを追ってここまで来たのか? でもどうしてこの場所が分かったんだ?


「ご苦労様です。タキグチ保安官。無事に特殊個体、アイリを保護する事が出来ました」


「え?! 特殊個体?! タキグチ保安官! どういう事だ?!」


「そう怒るなって! お前の嫁さん、特殊な体質のゾンビらしいじゃねえか。この人達はアンブレ……じゃなかった、から来た研究者の人達だよ。オレは上からのお達しで、その特殊個体を探してたって訳! そしたら、まさかアンタの嫁さんとはねぇ……」


 し、信じられない……! こいつ、アイリの事を組織に売ったのか?!


「おいおい、勘違いしないでくれよな? 別にアンタら夫婦に恨みなんかねぇんだ。オレはな、この人達アンブレ…傘が調査に協力してくれって言うんで仕方なく……」


「そんな事言って、どうせ金を握らされたんでしょう。タキグチ、アンタって本っ当にクズね!!」


 アサギリの鋭いツッコミに、流石のタキグチ保安官もたじろぐ。この光景もよく見たものだなぁ〜〜〜。あれ? なんでよく見るって思うんだっけ? 俺がこの二人が一緒にいる所を見たのは、確か三回目くらいな筈……? 度々やってくる不思議な懐かしい感覚に戸惑いながらも、俺は再びミマサカを見た。


 この男、アイリを探してたみたいだけど、一体何が目的なんだ?


「さぁアイリ。こんな薄汚い豚小屋にいるのなんて辞めて、一緒に帰りましょう。社長もアイリの帰りを待ちわびてますよ?」


「社長?」


「マエダさん、社長とは私の母の事です。は私の父が元々興した会社。母はいなくなった父の代わりに、取締役の座に着きました。ミマサカさん、お母さんの名前を出したってダメですよ? 私、もう帰らないんですから!」


 一瞬表情が曇った様に見えたミマサカだったが、すぐに真顔に戻って俺の方を睨む。お、俺が何したっていうんだよ?! アイリには優しい目を向けていたのに、俺にはなんだか冷たい気がする……この感じも既視感あるな……。


「アイリ、まさかとは思いますが、この男に何かされたのではないですよね? だとしたら、生かして置くわけにはいかないのですが」


「! そ、そうなんです! 私、このマエダさんと結婚したんです! 夫婦はいつでも一緒にいるでしょう?! だから私、帰りません!」


 そう言って、俺の腕をグイと引っ張って自分の方へと引き寄せる。これまでの数ヶ月間、周りには夫婦という事で通して来たが、実際の俺達は夫婦というより付き合いたてのカップルくらいの距離感だった。だからという訳ではないが、こんな急に至近距離に来られると緊張してしまう。


 え、てか今、生かして置くわけにはいかないとか言ってなかった? 俺、もしかして消される?


「………………」


 腕を組んだままの俺達を、真顔で睨みつけるミマサカ。言葉を発さないのは、何かを考えているからなのか。


「そうですか。それなら仕方ないですね」


 


 

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