第27話
桜田門前にある警視庁。
多くの学生が社会科見学で訪れるこの場所に、見学案内では触れられることすらない特殊部署が存在した。
「首の骨が折れてますね」
「ああ」
警視庁公安部特殊災害対策課。
公にはされない組織の影は地下で検死を行っていた。
常は特殊なご遺体であることが多い。
頭がエイリアンのような形をしていたり、大量の虫が湧いていたり、機械仕掛けであったりと様々だ。
そして今回は大きな赤毛の熊だった。
「山の主だそうですね」
「亜神の類かもな」
特殊災害対策課の仕事は、『霊能者』『超能力者』『魔術師』など怪しげな者たちの調査、捕縛、粛清が主な仕事である。
デスク上のパソコンに動画が流れている。
赤熊を倒すシーンが映った動画だ。
今はどこのテレビ番組をつけてもその動画のことでいっぱいだった。
「ホシの調査はどうだ?」
「白木琢磨についてですが、両親は一般人であり現在は疎遠。 特殊組織との繋がりは国内外においてありません。 経歴については学生時代に柔道、ラグビー、力士の経験があり大食いタレントではそれなりに人気といったところですね」
「そうか……」
経歴だけをみればただの大食いのデブだ。
だが、ただの大食いのデブに特殊個体を倒すことなどできるだろうか?
特殊個体でなくとも熊を素手の一撃で殺せるか?
赤熊は投げ飛ばされる前に張り手の一撃で首の骨を破壊されている。
自分には無理だと課長の男は首を振る。
「もう一度洗いなおせ」
「かしこまりました」
課長の男は子憎たらしい笑みでテレビのインタビューに答える白豚に舌打ちを投げる。
「あまり目立つな、粛清するぞ?」
調査が完了するまで監視の目を手配するのだった。
◇◆◇
忙しいブヒ……。
「見事にバズったわね」
「そうブヒねぇ……」
赤熊を倒してからテレビに引っ張りだこ。
放送の扱いも全然違って、手のひらクルーが凄すぎる。
大人って嫌だね。
「なに疲れてるのよ、忙しくなるのはこれからよ? 今までが暇すぎたんだから、食費代はしっかりと働いて稼いでもらいますからね?」
「ブヒヒ……」
そんなに忙しくなったらミリアナ様を見つめる時間が減ってしまう。
ああ、使命もあるのに。 異世界の食材も気になる。 ダンジョン探索したいな。 異世界のお風呂も入る前に帰ってきちゃったし……温泉入りたい。
ポンメイさんに合いたいな。
「明日は町ロケね。 おもらし姫もくるらしいけど、ハニートラップには気をつけないさいよ?」
「ブヒ?」
水樹姫には悪いことをしてしまった。
どうにも熊さんに襲われた時にショックでおもらししてしまったらしい。
腰を抜かしていたようでお姫様抱っこしたんだけど、ピチョンピチョンとね……。
思いっきり動画に上げちゃうみほりん鬼すぎワロタ。
「したたかよね……あんたを王子様扱いで、マイナスイメージを払拭してるわ」
元々人気はあったけど一部の人からは腹黒とか嫉妬絡みされてからね。
今回のことで悲劇のヒロイン的立ち位置になってしまった。
本人的におもらし姫は絶対嫌だと思う。 もうしわけない。
「……ん?」
ざわざわと東京の雑踏は騒がしい。
誰かに視られている気がした。
いや、見ている人はいっぱいいるか。
好奇な視線がいっぱいだ。
でも、前ほど悪い感情の物ばかりではない気がする。
「ちょっと大丈夫? 今日のイベントは15キロの牛丼らしいけど」
15キロの牛丼?
くふふ。
それってタダのデザートでは?
「余裕」
「……そうよね。 さっさと行って挨拶まわりするわよ、急ぎなさい白豚!」
「ブヒィ!」
東京の人込みは嫌だ。
多種多様な臭いが入り混じっている。
ポーメリウス都市の花と爽やかな緑の香りに癒されたい。
この仕事が終わったら一度戻ろうかな。
そう思ってからあっという間に日々は過ぎ去っていった。
フードファイターが異世界に! ~~女神様、その使命は童貞デブには荷が重すぎます~~ 大舞 神 @oomaigod
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