最終話 ゴー・トゥ・ザ・異世界

 光が消え去った後、僕がいたのは、異世界に転移する前にいたショッピングモールの駐車場。


 そして目の前には、目を見開いて驚くドクがいた。


 元の世界に戻ってきたんだ。


「ややっ。宏一、どうしてここにいる? まさか、異世界に行くのは失敗したのか!?」


 どうやら僕が異世界に行ってる間、こっちの世界では時間はほんの一瞬しか経ってなかったらしい。

 異世界に行ったと思っていた僕がすぐに現れたもんだから、ドクはびっくりしている。


「成功だよ。あっちの世界のドクに、ここまで送ってもらったんだ」

「どういうことじゃ?」

「ええと……詳しくはこれを読んで」


 そう言って、ドクに手紙を渡す。

 実はあっちの世界のドクから、帰ったらこれを渡してくれって言われてたんだよね。


 ドクはそれを読んで、全てを理解したみたいだ。


「なるほど、なかなかスリリングな冒険だったようじゃな」

「本当だよ。異世界に行けたのは楽しかったけど、もう当分はいいや」


 なにはともあれ、こうして無事に帰ってこれたんだから、まあいいか。


 だけど、その時だった。

 突然駐車場に、ダダダダっていう、激しい音が響いた。

 これは、銃声?


「な、なに!?」

「まずい。宏一、隠れろ!」


 血相を変えるドク。

 彼と一緒にボロリアン号の影に身を隠すと、駐車場の入口から、一台の車が走ってきた。

 そしてその車の窓から、一人の男が身を乗り出してライフル銃を撃ちまくっていた。


「あいつら、わしがプルトニウムを手に入れるために騙した過激派じゃ。復讐しにやってきたんじゃ」

「えぇっ!?」


 そういえば、向こうの世界に転生したドクがそんなこと言ってたっけ。

 そうやって、自分は一度死んだんだって。


「じゃあ、ドクはこのまま死んじゃうの? って言うかこのままじゃ、僕まで巻き込まれる?」


 せっかく元の世界に戻ってきたってのに、これじゃあんまりだ。

 こんなことならもう少しあっちにいておくべきだった。


 だけど、そこでドクは言う。


「心配するな。逃げればいいんじゃ」

「逃げるって、どこに?」


 走って逃げてもボロリアン号に乗っても、そう簡単に逃げられるとは思えない。

 するとドク、ボロリアン号のボディに、何やらよく分からないものをくっつけた。


「ドク、なにそれ?」

「これはな、さっきお前に渡された手紙に入っていた、デロリアン号の改良パーツじゃ。向こうの世界のワシが、魔法の技術を駆使してなんやかんやで作り上げたのじゃ」


 ドクがそこまで説明したところで、異変が起こる。

 誰も載っていないボロリアン号が、ひとりでに動き出した。


「な、なんなの?」

「これこそが改良パーツの効果。ボロリアン号は、自分の意思で勝手に動けるようになったのじゃ」


 そんなことできるんだ。魔法の技術って凄い。

 そう思っていたら、ボロリアン号は駐車場の中を走り回り、みるみるうちに速度を上げていく。


 そして、急に方向を変え、僕たちに向かって真っ直ぐに走ってきた。


「ねえ、このままじゃ僕たち、ボロリアン号に轢かれない?」

「そうじゃよ。そういう風にプログラムしてあるからのう」

「ちょっと! それじゃ死んじゃうじゃないか!」


 過激派に殺されるのも嫌だけど、ボロリアン号に撥ねられるのも嫌だ!

 慌てて逃げようとするけど、ドクが僕の体をガシッと掴んで止めた。


「落ち着け。ボロリアン号に撥ねられたらどうなるか、お前もわかっているじゃろ!」


 そういえば。

 そこでようやく、僕もドクの狙いに勘づいた。


「まさか、逃げる場所っていうのは……」

「もちろん、異世界じゃ」


 やっぱり。

 確かに過激派も、異世界までは追って来れない。この方法なら、僕もドクも一応は助かる。

 ただ……


「ねえ、次に行く異世界って、どんな所なの? ちゃんと帰って来れる?」


 さっきはなんやかんやでなんとか帰って来れたからいいけど、行った世界次第では、すごく大変なことになるような気がするんだけど。


「わからん!」

「そんな!」


 めちゃめちゃ不安。

 だけど僕には、それを嘆くことも、ここから逃げ出すこともできなかった。


 さらに速度を上げ、異世界転移に必要な140キロに達したボロリアン号は、そのまま僕たちに突っ込んできた。


「ゴー・トゥ・ザ・異世界ーーーーっ!」


 ドクがハイテンションで叫ぶ中、僕らはボロリアン号に撥ねられ、異世界転移の光に包まれるのだった。




 おしまい。

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バック・トゥー・ザ・現実世界 無月兄 @tukuyomimutuki

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