第3話 いざ、現実世界へ!

「ドク、なんでこの世界に? 僕を助けに来てくれたの!?」

「いや、そうじゃない。実はワシは、異世界転移でなく、異世界転生してこの世界にやってきたのじゃ」

「へっ?」


 異世界転生ってことは、死んだ後にこの世界で一から生まれてきたってことだよね?

 どうしてそんなことになったの?


「実はボロリアン号でお前をこの世界に送った直後、過激派に襲われてな」

「過激派って、ドクがプルトニウムを手に入れるために、インチキ爆弾を作って騙したって言ってた、あの?」

「そうじゃ。その嘘がバレてしまってな。奴ら、怒って銃を乱射してきおった。それ撃たれたワシは、あっさり死んでこの世界に生まれ変わったというわけじゃ。恐らくお前を転移させたことで、二つの世界の距離が縮まり転生しやすくなっていたのじゃろう」


 へぇ。あの後にそんなことが起こっていたんだ。

 転生のメカニズムはよくわからないけど、とにかくそういうものなんだって受け入れよう。


「そんなことよりドク。僕を元の世界に帰してよ」

「おい。今、ワシの死をそんなことよりと言ったな。まあいいじゃろう。こんなこともあろうかと、この世界でもちゃんと研究は進めてある。着いてこい」


 そうしてドクに連れていかれた先は、この世界の彼の家。

 そしてそこには、馬車ならぬ、魔物に台車を引かせる魔物車があった。


「これが、機械がないのをこの世界の魔法技術をつかって補った、魔物車版ボロリアン号じゃ。十分なエネルギーを蓄えたこいつに140キロで衝突されたら、時空を飛び越え元の世界に戻れるはずじゃ」

「また、ボロリアン号に轢かれることになるんだね」


 正直、その転移方法はかなり嫌だ。

 だけど、それしか方法がないなら仕方ない。


 けどそこで、ドクは困った顔をした。


「問題は、転移に必要な1.21ジゴワットの電力をどうやって用意するかじゃ。プルトニウムを使ってようやく作ることのできるものじゃぞ。簡単なことではない」


 そうなの?

 せっかく元の世界に戻れるって思ったけど、それじゃダメじゃないか。


「雷系の魔法が使える人に頼んでみるってのは?」

「そんなもの、王宮魔術師クラスの奴が何十人もいないと無理じゃ」

「そっか……」


 そうなると、いよいよ絶望的かも。


 だけど、そこで思い出す。

 王宮魔術師何十人分もの力。そういうチートな能力を持つ者が、この『最俺』の世界にいたことを。

 そう。『最俺』の主人公、シュヤークだ。




 ◆◇◆◇◆◇




「オラをどうするつもりだ。帰してくんろーっ!」


 ボロリアン号の台車に縛り付けられながら、僕とドクに連行されているシュヤーク。

 だけどこれは、君のためでもあるんだよ。


「大したことないって。これから行くところに魔物が大量に現れるんだけど、君はそいつらを、雷の魔法でチョチョイとやっつければいいだけだから」


 魔物が現れること。そして、そいつらをシュヤークがやっつけることは、『最俺』のストーリー通り。

 これをこなすことによって、ズレてしまった物語を、無事元通りにしようってのが僕の目論見だ。


 ついでに、僕らはその際シュヤークの放った雷魔法を利用してボロリアン号に電力を蓄え、僕は元の世界に帰る。

 そういう完璧な作戦だ。


「バカ言うでねえ。オラみたいな最弱にそんなことできるわけねえべ!」


 その最弱ってのは実は勘違いで、君は本当は誰よりも強いチートな能力を持ってるんだよ。

 けど、説明するのも面倒だ。


「シュヤーク、あれを見てごらん」


 俺の指さす先にいるのは、大量の魔物。そして、それに襲われているヒロイーンだった。


「誰かーっ! 助けてーーーーっ!」


 それを見たシュヤークは大慌てだ。


「あぁっ、愛しのヒロイーンさんが襲われてるだ!」


 本来の『最俺』のストーリーだと、ここにヒロイーンは登場しなかった。

 けどそれじゃ、シュヤークが真の力を発揮しても、彼女とのラブストーリーは始まらない。

 それはまずいと思って、大量の魔物が出現するこの場所に呼び出しておいたんだ。それをシュヤークが助け出せば、いよいよストーリーは完全に元に戻るってわけだ。


 ちょうど、ヒロイーンがいい感じにゴブリンやオークに取り押さえられているし、グッドタイミング!


 シュヤークの縄を解き、グイグイと前に押し出す。


「さあさあ、どうするシュヤーク。このままだとヒロイーンが大変なことになっちゃうよ」

「で、でも、オラにはどうすることも……」


 ここまできてもまだ決意できないシュヤーク。すると、ドクも痺れを切らしたようだ。


「いいから、とっとと雷魔法を使うのじゃ。でなければ斬る!」


 念の為用意していた剣をシュヤークに突き立て、脅す。いや、お願いする。


「ヒィッ! わ、わかっただ。やってみるから斬らないでほしいだ!」


 ヒロイーンのため。自分のため。怖くても戦う決意をする。

 原作とは違うけど、これはこれで感動的なシーンだ。多分。


 そして、いよいよシュヤークが魔法の詠唱を開始した。


「オラだってやってやるだ。雷、出てきてけろーっ!」


 とたんに、シュヤークの真上に、巨大な電撃の玉が浮かび上がる。それも、ありえないくらい超巨大で強力なものがだ。

 そのあまりに非常識な現象に、魔物達も我を忘れてポカンとしていた。


「見たか! これがチート能力者の実力だ! シュヤーク、お前は本当は最強なんだ!」


 推しキャラの覚醒に、思わず叫ぶ。

 本当は、このまま彼の活躍をずっと見ていたい。

 けど、残念ながらそういうわけにはいかない。


「宏一。ボロリアン号のエネルギーが満タンになった。異世界転移、行けるぞ!」


 ドクはそう言うと、ボロリアン号を全速力で走らせる。

 その先にいるのは、もちろん僕だ。


 ボロリアン号が衝突した瞬間、僕の体は激しい光に包まれる。

 これで、元の世界に帰れるんだ。


 さようなら、『最俺』の世界。短い間だったけど、楽しかったよ。


 この世界で僕が最後に見たのは、僕やドクの行動にドン引きしているシュヤークの姿だった。

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