3:柿は自分でもぐもの
程良い田舎で育ったので、家の庭やら畑やらに食べられる木がいっぱいあった。
それは別に我が家だけではなく、近隣が全部そんな感じである。
梅に柿に栗、金柑、ユスラウメ、グミ、家によってはミカンやリンゴもあった。
とにかく、そんな風に「食べられる実が生る木」というのはとても身近にあったのだ。
なので、季節になれば良い感じに食べられる果物がある、というのが子供の頃の日常だった。
少なくとも小学生の頃は近所の友人含めてそんな感じで、誰それの家では何々が取れるようになったと聞くと、同じ種類の木があれば(うちもそろそろかなぁ……?)とわくわくしたものである。
子供にとってはそんなもんだ。
美味しいおやつが増えるぜひゃっほい!ってなもんである。
で、本題。
そんな環境だったので、小学校から戻ってきて母に「そろそろ畑のところの柿が食べ頃だと思うわよ」なんて言われる日がある。
俺が住んでいたのは母の実家なので、母はその手のことに詳しいのだ。
見た目で何となくそろそろ良い感じを把握するのは子供の俺には難しかったので、母の言葉は天のお告げみたいなもんだった。
「じゃあ、今日のおやつは柿?」と俺が顔を輝かせて問えば、母はあっさりと「採ってきたら?」と答える。
それで本日のおやつは柿に決定する。
俺は喜び勇んで、遊びに来ていた近所の友人女子と一緒にてってけてーと件の柿の木へと向かう。
……庭の木は渋柿で、畑の木が普通の柿だったので、畑の木へ一目散である。
なお、渋柿は良い感じになったら曽祖母が干し柿にしてくれてた。
干し柿美味しい。
閑話休題。
そして向かった先の柿の木には、確かに母が言うように良い感じの色付きの柿が複数生っている。
コレはもう全部採って今日のおやつにするべ!と俄然テンションの上がる俺。
友人女子も近所の子なので、目で相談した結果、俺が登って彼女が下で受け止めるになった。
何の話かって?
柿を採る話ですよ。
そんなに大きくもない柿の木。
枝振りは立派で、低めの木。
良い感じに凸凹しているので、そんなに運動神経が良くなかった俺でも登れました。
スカートだったけど細かいことは気にしない。
目の前に美味しい柿があるんだから、手に入れるのが当然である。
木によじ登って柿を採り、下で待つ友人女子に向かって落とす。
勿論、柿を傷つけないように極力身を乗り出して。
彼女も心得たもので、手を伸ばして受け取ってくれる。
そんな感じで三つほどの柿を手に入れた。
おやつの確保である。
そんな光景を見ても、近所のじーちゃんばーちゃん、おっちゃんおばちゃんも普通の顔。
あぁ、食べ頃だもんねぇ、みたいなノリである。
誰も「危ないから降りなさい!」とか「子供だけで何してるんだ!」とか言わない。
それぐらい出来るやろ、出来るから登ってるんやろ、みたいなアレである。
中には、柿を採る用のあの長い棒の先が二股になった何か(名前知らない)を貸してやろうかと言ってくれるおっちゃんはいた。
いたけども、あれ以外と難しいんですよね。
子供の小さな身体だとバランス採りにくいし、木が低いならよじ登ってもいだ方が圧倒的に早い。
早くて確実。
子供は面倒くさいことが嫌いなので、その道具はいらないとあっさり断りましたが。
そうしてもいだ柿は、友人と俺のお腹に消えました。
良い感じに熟した柿は大変美味しかった。
で、そんな思い出話をしたところ、「柿の木に、登る……???」みたいな反応をされた。
秋のおやつと言えば柿だよね!って話には賛同されたのに、何故そこで変な顔をされたのか。
一向に解せぬと思ったのですが、どうやら柿の木がお家になかったらしい。
これはカルチャーショックだった。
柿の木は割とポピュラーだったので。
まぁ、百歩譲って柿の木が無いのは構わない。
そういうお家もあるよねと理解した。
しかし何故か、よじ登って己の手でもぐと伝えたときの「そんなことするの!?」という反応は消えなかった。
何故だ。
早く採らないと鴉に食われるではないか。
我々の敵は、食べ頃の果実を狙うことに定評のある鳥類だぞ。
負けてたまるか。
そう主張したら、鳥類とは争わないとか、お店で買えば良いじゃないとか言われてしまった。
解せぬ。
俺が言いたいのは、お家にある美味しい柿を鳥に採られるのは悔しいし、採るなら自分でよじ登ってもぐだろって話だったのに。
どうやら、柿の木によじ登って柿をもぐのは一般的ではなかったらしい……。
でも、道具使うよりよじ登る方が早くて確実だったんだい!!
昔話をすると年齢詐称疑惑になる話。 港瀬つかさ @minatose
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