第40話 エピローグ
「それではお父様、お母さま、また来ますね」
「「おじゃましましたーー」」
久々に見る笑顔の想と彼女が連れてきた二人を奏は複雑な気持ちで見送っていた。
「また、心から笑えるようになったのね……」
幼い時から自分に似て他人に依存する想を危ういとはおもいつつも、どうにもできなかった自分が、悔しく思う。
彼女が家を出ていくと言った時だって奏は止めることができなかった。ここには想の親友だった美咲との思い出が多すぎた。だから送り出したのだが、自分たちにも何かできることはなかったかと、間違いではなかったのかとずっと後悔していたのだ。
「私は親失格だったのかしらね……」
そんなことをつぶやいて扉をしめようとした時だった。春人がこちらにやってくるのに気づく。大事な娘を救ってくれたが、奪っていったということもありちょっと複雑の感情を板いている相手である。
「あら、何か忘れものかしら?」
「いえ……想さんのお母さんに伝えたいことがありまして……」
春人は少し緊張しながら奏の瞳を見つめていった。
「想はちょっと気持ちが重いところもあります。それでつらい思いをしてうちの学校に来たことも知っています。ですが、俺はそれを個性だと思っています。すくなくとも俺や雪乃は彼女のその愛の強さによって救われました。だから、言わせてください。想を……想の個性を殺さないで育ててくれてありがとうございます。彼女は俺が責任をもって幸せにします。だから安心は……できないかもしれませんが見守っていてください」
そういって頭を下げる春人の言葉に大きく目を見開くと、奏は嬉しそうに言葉を返す。
「……あなたもあの子の性格を個性って言ってくれるのね……」
それはかつて自分の旦那が自分に言ってくれた言葉と同じだった。想も……運命の人に会えたのだなと思うと、奏の心も少し気が晴れた。
「そう言ってくれて嬉しいわ。わかっているかもしれないけど、浮気をしたら殺しちゃうかもしれないわよ」
冗談っぽく言っているがむろん冗談ではない。浮気は重罪だ。奏だってそうするし、想も躊躇しないだろう。死ぬのは春人か、相手かはわからないが……
「大丈夫です。俺の目には二人しか入ってませんから」
そう、躊躇なく返事をする春人を見送ってさきほどまでの重い気持ちが軽くなっていくのを感じる。瞳にから涙が流れないように何とかおさえながら、彼の後姿と、遠くに見える想を見送る。
「春人君は良い少年だったね」
「そうね……昔のあなたと同じことを言ってくれたわ。想の性格を個性って言ってくれたのよ」
様子をみていたであろう旦那に体を預けながら奏は確信する。彼ならば大丈夫だろうと……そして、万が一想が悲しむことがあったら……
一瞬だが、周囲の温度が下がったのは気のせいではない。
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「春人ありがとうございます。おかげで両親とお話しできました」
想の家からの帰路どこか満足そうに彼女は俺たちに感謝の言葉をいってくれた。今日はいつもとは違い真ん中に想がいて俺と雪乃で手をつないで歩いている。
「いやぁ、二人とも良い両親だったな。特にお父さんとは気が合ってさ、無茶苦茶盛り上がったぞ」
「ふつうはドンびきますよ……なんで監禁された話を笑い話にできるんですか……」
俺が想のお父さんとの会話を思い出してテンションをあげているとなぜか雪乃が眉をひそめている。何かおかしなところがあっただろうか?
「春人、雪乃ちゃん。お二人とのおかげで私は再び両親と話し合うことができました。うふふ、二人ともちゃんと私のことを愛してくれていたんですね」
そこには実家に向かう前まであった不安そうな様子は一切なかった。両親が想のことをちゃんと心配してくれていたことがわかったのもあるだろう。俺たちのことをちゃんとみとめてくれたくれたのも大きいと思う。
「だから言ったろ、想は愛されているってさ」
「そうですね、やっぱり春人はすごいですよ。今回だって三人で行くのはこわかったでしょう?」
「そりゃあなぁ……」
さすがの俺も堂々と相手の両親に二股していますが認めてくださいというのは勇気が必要だった。だけどさ……
「だって、俺は想と雪乃と一生一緒にいると誓ったんだ。だから、むしろチャンスをくれて感謝してるよ」
「春人……」
「全く、春兄はすぐかっこつけて……私の両親にもちゃんと説明してもらうわよ」
想が俺の腕をぎゅーっと胸におしつけ、雪乃もツンツンとしたことを言いながらもぎゅーっと手を握る。俺たちの関係を理解してもらわなければいけない人はまだたくさんいる。
だけど、三人でなら乗り越えられると思ったんだ。
「せっかくだ。今日はこのままデートするか」
「いいですね、せっかくなので私が案内しますよ。春人や雪乃ちゃんの似合うお洋服も売っているんですよ」
「私を着せ替え人形にしないでほしいのだけれど……でも、春兄の服は気になるわね」
そんな風に俺たちは日常にもどるのだった。すこし愛が重いけど、愛おしい彼女たちとの日常に戻るのだった。
これにて完結とさせていただきます。
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彼女たちがヤンデレであるということを、俺だけが知らない~「ヤンデレっていいよね」って言ったら命を救った美少女転校生と、幼馴染のような義妹によるヤンデレ包囲網がはじまった。 高野 ケイ @zerosaki1011
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