第39話 想の両親
「新しい学校はどうですか? ちゃんとなじめているといいのですが……ねえ、あなた?」
「うむ……」
リビングに通された俺を待っていたのは和服に身を包んだ真面目そうな壮年の男性だ。あまりしゃべるのが得意ではないのか、それとも俺たちが気に食わないのか、口数は少ない。
主に奏さんと想が世間話をして、俺は緊張しながら出してもらったお茶を飲む。隣の雪乃を見つめると彼女も俺同様に緊張しているのか、空になったコップに何度も口をつけているのが見えた。こいつは普段は強がっているがこういう場面には弱いのだ。
ここは俺が兄として、彼氏として頑張るしかないな!!
「二人から見て想はどうかしら? ちゃんとなじめているといいんだけど……」
ちょうど話を振られたので率先して答える。
「ご安心ください。想さんはクラスでもとても人気ですよ。この前も何人かの女子とテスト前に勉強会をやってましたし、とても慕われています」
「それに、想先輩はいろいろと料理を教えてくれますし、とっても頼りになります」
俺が口を開くと雪乃も勇気を振り絞って続ける。すると、奏さんが目に涙を浮かべて、お父さんの表情がわずかに和らいだ気がする。
お、これは結構よい感じなのでは……? ご両親も想のことをちゃんと心配してくれているようだし……
そうほっと一息ついた時だった。奏さんからついに聞かれてしまう。
「ところであなたたちの三人はどんな関係なの? 想からは家族になる人を連れてくると聞いていたのだけれど……」
奏さんの笑顔を浮かべているが、瞳が一切笑っていない表情は想を思わせるが、そのプレッシャーは彼女よりもはるかに上だ。
彼女もやはりヤンデレなのだろうかと思うとちょっとテンションが上がってしまった。
「それはですね……」
「私と雪乃ちゃんは二人とも春人の彼女にしてもらったんです。世間からしたらおかしいことかもしれません。ですけど、それが私たちのしあわせなんです。ねえ、雪乃ちゃん」
「はい、もちろん生半可な気持ちではありません。私たちは三人で家族になると決めたんです」
俺がどう伝えるか悩んでいる間に、想と雪乃は強い意志で答える。彼女たちに比べて自分のなんとかっこ悪いことだろうか……
「それは……うちの想とそちらのお嬢さんとで二股しているってことでいいのかしら?」
奏さんから放たれるプレッシャーのせいかこころなしか室内の気温が少し下がった気がする。だけど、二人が覚悟を示してくれたのだ。俺だって逃げるわけにはいかない。
「はい、世間一般ではそういうかもしれません。ですが、俺は二人ともを同じくらい愛しているんです。そして、俺たちは三人で幸せになると誓い合ったんです。二人ではなく三人で生きることを選んだんです。確かに色々な問題は起きると思います。だけど、俺は二人の気持ちを無下にはしたくないし、適当に扱いたくはない。だから後悔はしてません」
そう力強く言い切る俺を奏さんはじーっと見つめてくる。流石の俺にもわかる。彼女は俺を見定めているのだろう。
しばらく、こちらを見つめていた奏さんだったが、小さくため息をつくと想を見つめて口を開く。
「本当にいいのね? あなたは彼氏から本来もらえるはずの愛情の半分しか注いでもらえないのよ」
「それは違いますよ、お母さん。私たちは三人で愛情を注ぎあっているんです。一方的に注いでもらうんじゃない。お互いで注ぎあって三倍の愛情を感じているんです。だから、足りなくてなんてありません。私は……私たちは満たされています」
そういって想は左右の手で俺と雪乃の手を握りしめていった。そんな彼女にもちろん俺たちはうなづく。
「私にはあなたたちの言っていることはわからないわ。でも……想が幸せだっていうことはわかったわ。お茶のおかわりをとってくるわね」
「お母さん……私も手伝います」
「ありがとう、あなたとキッチンに立つのも久しぶりね」
そう笑った奏さんは最初に出会った時よりもどこか嬉しそうだった。俺たちの関係を少しは認めてもらえたのだろうか?
「……」
そして、俺と雪乃と、想の父親の三人だけが部屋に残される。いや、くっそきまずいんだけど……何か世間話をしようと考えていると先に父親の方が口をひらく。
「あの、想が他の女の子も恋人にすることを許すとはすごいね、どんな魔法を使ったんだい?」
「え……あの……?」
「……?」
先ほどまでの厳かな雰囲気はどこに行ったやら、軽い感じの想の父親に俺と雪乃は驚きの表情をしてしまう。
「ああ、もちろん僕は怒ってなんていないよ。あんなにふさぎ込んでいた想に笑顔が戻ったそれだけで満足だからね。それよりも奏と同じくらい愛が重い想を相手にどうやって同時に付き合うことを認めさせたかきになるな、僕の今後のためにも教えてくれない?」
「え? その……奏さんも結構すごいんですか?」
そういえばあの人も想が俺を愛おしそうに見つめていた時にハイライトが消えてたな……やはりそういう家系なのかもしれない。
「ああ、彼女とは幼馴染で婚約者だったんだけどね、中学の時とか別の女の子からバレンタインデーチョコをもらった時は大変だったなぁ……別荘に監禁されちゃったよ。すごいよねー」
「それは犯罪では……?」
「いいですね。愛情を無茶苦茶感じますよね。ほかにはどんなエピソードがあるんです?」
「あれは僕が高校の時でね……」
はたから聞いたら刑事犯罪にもなりかねない誘拐事件を楽しい思い出のように語る父親に春人はむちゃくちゃ親近感がわくのだった。
雪乃は……まあ、ちょっと引いているが気にしなくていいだろう。
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