第38話 想の家

「この格好で変じゃないか?」

「とっても似合っていますよ、春人。さすがは私たちの自慢の彼氏です♡」

「でも、あんまりきっちりしたらダメよ。ほかの女も春兄のすばらしさにきづいちゃうじゃない」



 ジャケットとシャツというきっちりした格好をして二人に感想を尋ねると顔を真っ赤にしてほめてくれる。

 そんな想と雪乃もいつもとは違いきっちり目のワンピースを身に着けている。双子コーデというやつだろうか、黒と白の色違いである。

 とはいえ、胸元は大きく違うのだが……


「いって!?

「春兄、今失礼なことを考えたわね」 



 俺の心を読んだ雪乃につねられた。



「まあまあ、雪乃ちゃんのスレンダーな体系私は大好きですよ」

「そうそう、貧乳はステータスっていうしな」

「むうぅぅぅーーー」


 なおも不満そうな雪乃を想が優しく微笑んでいたが、真剣な顔で口をひらく。



「お二人とも今日は私の家庭の事情に付き合ってくださってくれてありがとうございます」

「何を言っているんだ。俺たちはもう家族なんだ。だから想の家庭の問題は俺たちの問題でもあるんだ。なぁ。雪乃」

「そうですよ、春兄や私が悩んでいた時に助けてくれたように私たちも想先輩を助けるのは当たり前のことです」

「二人とも……」



 俺たちの言葉に想が涙目になりながら抱き着いてくる。そんな彼女を抱き返して、想の家へとむかうのだった。



 想の家は電車で20分ほどの距離にあった。俗にいう高級住宅街というやつであり、やたらとオシャレなカフェや雑貨屋さんが並んでいるのが目に入る。そんななかひときわ大きな家の前で想が止まった。



「え、うちの三倍くらい土地が広いんだけど……」

「想先輩はお嬢様だとは知っていましたがここまでとは……」



 想像以上に立派な建物に俺と雪乃は思わずビビる。表札にしっかりと白金と書いてあるので間違いないだろう。

 想は俺たちを見て安心されるように微笑むと、呼吸を整えてからピンポンと鳴らす。少し間があいて返事が返ってくると想が二言三言かわす。



「では、行きましょうか」



 少し緊張した様子の想の手を握りると、強く握り返される。そして、扉が開くと和服を着た二十代後半くらいの女性が出迎えてくれた。

 想が大人になったこうなるだろうという感じの美しい顔の女性だ。そして、遺伝なのだろう一瞬ゆたかな胸元に、目がいきそうになると、想と雪乃の二人につねられた。



「いって」

「おかえりなさい、想ちゃん。こちらが春人くんと雪乃ちゃんね、話は聞いているわ。あがってくださいな」



 そんな俺たちの様子にクスリと笑った女性の後ろについていくことにする。



「あれ、想って一人っ子じゃなかったっけ?」

「はい、そうですよ」

「え? じゃあ、今のは……」



 俺と雪乃が信じられないとばかりに顔を見合わせていると出迎えてくれた女性がほほ笑む。



「自己紹介がおくれましたね。想の母の奏と申します。親の前でいちゃつくなんて最近の彼氏さんは大胆ですね」



 感情のない目で奏さんでは手をつないだままの俺たちを見てにやりとわらうのだった。その表情はヤンデレ状態の想と瓜二つだった……




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