閑話 作りすぎたお弁当

 それは、俺が姉貴にこってりと絞られた日の昼休み。


「はぁ……マジで疲れた……」


 俺は机の上にぐったりとうつ伏せになっていた。

 朝から姉貴に怒られたせいだ。

 ちなみに理由はいまだに分かってない。


「ねぇ……」


 そんなことを考えていると声をかけられた。

 顔を挙げてみると、そこには愛好が立っていた。


「どうしたんだよ。そっちから話しかけてくるなんて珍しいな」

「ま、まあね」


 愛好は普段、滅多に学校で俺に話しかけてこない。

 だから俺は愛好が話しかけてきたことを珍しく思いながら、どうしたのかと尋ねた。


「どうした? 何か用意でもあるのか?」

「う、うん。……その、今は何やってるの」

「今は姉貴から指示が来るのを待ってる」


 昼休みになると大体姉貴からパシリ命令がメッセージで飛んでくるので待機中だ。


「そう。そ、それならさ……」


 なんだか愛好の態度がはっきりしない。

 俺が男の時、いつもならキッパリと用件を告げて来るのに、今の愛好は頬を染めてもじもじとしている。


「どうしたんだよ」

「お昼っ、一緒に食べない!?」

「え?」


 予想だにしなかった誘いに、俺は素っ頓狂な声をあげる。


「これはね、その他意はないんだけど、お弁当作りすぎちゃって……! 最近二人分作ってたから癖になっちゃってたみたいで……」


 なぜか焦ったように矢継ぎ早に言葉を並べる愛好。

 その手には二つの弁当箱が握られている。


「でも、それだったら別に俺じゃなくても……」

「あ、あんた以外にどうやってお弁当作りすぎたことを説明するのよ」


 俺の疑問にまるであらかじめ用意していたかのようにスラスラと答える愛好。

 む、確かにその通りだ。


「でも姉貴からメッセージが……」

「大丈夫よ。私が責任持って連絡しとくから」


 先回りして答える愛好。

 ん? なんか色々と逃げ道を潰されているような気が……。


「よし、そういうことなら決まりね! ほら行くわよ!」

「え、ちょっ」


 愛好が俺の手を掴み、引っ張っていく。

 力で愛好に敵うわけもなう、俺が連れてこられたのはいつもの屋上だった。

 姉貴の呼び出しが気掛かりだが……まあ愛好がなんとかするって言ってたし構わないだろ。

 俺と愛好は弁当を広げる。


「お、ハンバーグ入ってる」

「こ、好物って言ってたでしょ。せっかくだから作ってあげたわ。感謝して食べなさい」

「いただきます」


 俺は早速弁当の中のミニハンバーグを口へと運ぶ。

 その様子をなぜか愛好はずっと凝視していた。


「うん、うまい」

「ほんとっ!? ……ふ、ふん!」


 愛好はパッと嬉しそうな表情になったが、すぐにそっぽを向いてしまった。


「しかし、いつ食べてもうまいな。愛好の料理」

「それは当然よ。いい? 作る時にコツがあるの」


 愛好は自慢げに胸を張って解説し始める。


「一番は好きな人のことを考えてたら自然に……」


 そこまで言って愛好は固まると、顔を真っ赤にした。


「ち、違うから! アリスちゃん! 好きな人ってアリスちゃんのことだから!」

「分かってるって。これもアリスのために作ったって言ってたし」

「そ、そうよ……! 勘違いしないでよね!」

「だから勘違いしてないって」


 俺はパクパクと弁当を食べながら愛好の言葉を受け流す。

 分かってると言ったのに、なぜかしばらく愛好に「やっぱりあんたは分かってない」とか怒られた。

 なんか言ってることが姉貴みたいだな、と思った。





 それから愛好の弁当を平らげると、そろそろ昼休みも終わる頃合いだったので教室に戻ろうとしたのだが……。

 俺はポケットからスマホを取り出し、時計を確認する。


「あ、そういえばスマホの通知切ってた…………ひぃっ!?」


 俺は悲鳴を上げてしまった。

 なぜなら、画面には数百件にも及ぶ姉貴からのメッセージと通話が来ていたからだ。


「あ、愛好! 連絡しとくんじゃなかったのかよ!」


 俺は隣の愛好の方を向く。

 すると愛好は目を逸らし……。


「あ、あー……忘れてた。てへっ?」


 可愛らしく舌を出して首を傾げる愛好。


「忘れてたじゃないって! どーすんだよこれ!?」


 このままだと俺は殺されるんだが!?


「うん、ごめんね。許して?」


 かわいこぶる愛好。

 死ぬのは俺の方だからって他人事だと思って……!


「理太郎」

「ひぃぃぃぃぃっ!? 姉貴!?」


 その時、背後に姉貴が立っていた。

 浮かべている笑顔が鬼よりも怖い。


「ちょっとこっちきなさいあんた。今日という日は徹底的に絞ってやるわ」


 その後、俺はさらにこってり姉貴に絞られることとなった。

 ちょっと命の危険があったものの、アイス十本を献上することにより俺はなんとか生還したのだった。





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【あとがき】

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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また、同じくカクヨムコンにも出している

『異能機関 〜陰キャぼっち俺、美少女を助けて異能をもらう。借金返済のために【異能機関】でエージェントをしていたらいつの間にか美少女に囲まれていた件〜 』https://kakuyomu.jp/works/16817330669233431116

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VTuberの姉と中身を入れ替わって配信してたのが放送事故でバレたけど、めちゃくちゃバズってなぜか超絶人気になってしまった件について。 水垣するめ @minagaki

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