つれづれにっき

閏月かむり

1ページ目、側面

○月□日


引っ越した街が面白いので、今日から日記をつけようと思う。

毎日はさすがに無理だろうけど、できるだけ続けられるといいな。

転校先の学校は先生もクラスメイトも優しそうでいい雰囲気。

でも職員室の奥の方で首吊り縄が揺れていたのには引いた。

悪趣味がすぎる。


あの縄、天井から直接伸びてるけど、接着剤でも使ってるんだろうか。



○月□日


近所の探検がてら散歩に行ったら、柄のない蛇の目傘を被った人が鉢を鳴らしながら歩いていた。そいつの横を通り過ぎるとき、

「まいります・・・まいります・・・」とぼそぼそ言っているのが聞こえて、誰か知らないけどご愁傷さまだと思った。

帰りに同じ道を通ると、古びた井戸桶が転がっていた。



○月□日


前の席のあいりちゃんに誘われて、一緒に昼食を食べることになった。

「どこで食べようか?」と聞かれてなんの気無しに「中庭は?」と提案すると、あいりちゃんは「あー」と渋い声で返事をした。

「なんか、立入禁止なんだよね。うちの学校の中庭。不思議なことに」

そうなんだ、と頷いて、結局無難に教室で机をくっつけて食べることにした。

下校時、ふと気になって廊下の窓から中庭を除いてみると、てるてる坊主の形をした黄色の実が中庭の木にたくさん成っていた。

ああ、道理で。



○月□日


洗濯物をベランダから取り込むとき、ふと下に白く光った棒人間が見えた。

違うな。なんかこう、人間の幅を15cmに圧縮して縦に2m伸ばした感じ。

それが白く発光してた。新手の蛍光灯かな???


○月□日


夜中に自室でスマホをいじってると窓を爪で引っ掻く音がした。

面倒なので放っておいたらコン、と小石のようなものがぶつかる音や靴底が擦れるような音が響く。

しょうがないので懐中電灯で外を照らしてみたら急に音が止んだ。

何がしたかったんだ。


○月□日


放課後、隣の席の男子が午前15時6分にしか発現しない美術室に入ろうとしていたのでやんわり止めておいた。

ひとことふたこと会話して数分が経つと、その子はどこに入ろうとしていたか忘れたらしい。

首を傾げながら廊下を去っていった。

存在しない美術室があった方を向くと、何の変哲もない掲示板に、沢山の目玉が画鋲で留められていた。

訴え方が直接的(ストレート)すぎる。

一目惚れした子にその場でキスして!って頼むくらい強引じゃん。


○月□日


図書室の棚の隙間に、薄汚れた白い短冊が落ちていた。

何かの布の切れ端で出来ているらしいそれの裏には、何かの液体で「攣」と書かれていた。

うーん、どう見ても厄ネタ。燃やそっかな。

腕を取られたくはないしね。


○月□日


クローゼットの上に物を置くスペースがあることに気づいたので踏み台に登って様子を見てみたら、端の方に卵が置いてあった。白くて、ふつうの卵みたいだった。

ちょうどそのときお母さんに呼ばれたから卵を確かめる前に一階の方に行ったんだけど、帰ってきて見てみたら卵の白い殻だけが置かれていた。

ああ、かえっちゃったんだな。


○月□日


お弁当を持ってくるのを忘れたからパンでも買おうと購買に行ったら、バタークッキー(哲学)って感じの商品がひとつだけぽつんと籠に置かれてて笑っちゃった。ご丁寧に透明な袋にピンクのリボンでラッピングしてあって税込み150円の値札がついてある。

必死過ぎていっそ可愛いけど絶対に誰も買わないと思うよ?


○月□日


体育でランニングしたときに「あれ?」ってなったから放課後にシャベルで運動場の端の方を掘ってみた。30cmくらい掘ってたら、がつ、って何かに当たる音がした。

おや当たりかなと思って掘り進めたら出てきたのが、なんと人間の頭蓋骨。

さすがに「うそだろ・・・」って思った。すぐに先生に知らせに行ったら、慣れてるのかとても冷静かつ迅速に死体処理をしてた。生徒たちに知らせないようサイレンも鳴らさずに一見普通車の警察車両が裏口から入ってきてるのを見たときには、なんかいろいろ察したよね。形式だけの簡単な事情聴取だけ受けたけど、私は運動場掘ってたら死体見つけただけの一般女子高生だし、もちろんあの死体とはなんの関わりもなかったから大した情報を話せなかった。相手さんもあんまり期待してなかったんだと思う。

目に「またか・・」って呆れが滲んでたから、「ああ初めてじゃないんだなあ」って気づいた。お疲れ様です。

後日、廊下で偶然会った校長先生があの死体について分かったことを教えてくれた。

あの骨、上半身が初老の男性のもので下半身が少女期の女性のものだったらしい。

胸骨の中には、赤い蝋燭がぎっしり詰まっていたんだって。


○月□日


よく学校の七不思議ってあるよね。6つの怖い話と、7つ目の話を聞いたら死んでしまうってやつ。まあこの学校には関係なさそうだけど。7つどころかたぶん4桁は行く。冷静に考えると、なんでこんな魔境になってるんだろう?

でも学級文庫にしれっと『学校七不思議』なる本が置いてあるのにはドン引きだよ。

知った時点で即ゲームオーバーなやつの話を載せた本が普通に教室に紛れ込んでくるの、嫌すぎない???


○月□日


部活見学していかない?とあいりちゃんと結花ちゃんに誘われたのでお邪魔することにした。部活どうしようかなって、思ってたところだったし。面白そうな部活がなかったら別に入らないでもいいんだけどね。

部活は何なのか聞いたら、どうやら園芸部らしい。意外というか、正直驚き。

いや、この学校でその部活成り立つんだなって・・・。

校庭に花壇でもあるのかなと思っていたら、ふたりが向かったのは東校舎前にある本格的なビニールハウスだった。

透明な筈のビニールハウスの屋根と壁に光る文字列(呪文?)が浮かんでいた。

ビニールハウスの横を通りすがった猫の目玉と魚の臓器と鳥の羽毛で出来た兎もどきが一瞬でじゅっとなったのを、ひきつった笑みでみつめるしかなかった。

まあ・・・うん・・・この学校、校庭に死体が埋まってるような学校だしね・・・。

なんの対策もなしに園芸なんてできないとは思う。

この学校の土壌じゃ、どんな植物()が生えてくるかも分かんないし。

とはいえそこまでがちがちに対策してまで園芸したいの???

なんか絶対アレな素材から作ってるでしょあのビニールハウス・・・。


○月□日


結局、部活は読書倶楽部に入ることにした。部活内容は図書室での読書活動。部活日はとくに決まってないらしい。サボりやすいことこのうえない部活だな。部員は私を含めて三人らしいんだけど、あとの二人は見たことがない。まあ、そのうち顔を合わせるでしょうって顧問のあやし先生は言っていた。

「あなたも、わざわざ旧校舎の図書室まで来て僕なんかと関わらなくたっていいんですよ。」

そんなことを優しく言うものだから、「私は先生との話もしたくてこの部に入ったんです」と言ったら、何だか困った顔で笑っていた。

影がないくらい、別に気にしないのになあ。


○月□日


テスト勉強をしてたら虫が机に落ちてきた。平均して1時間に2匹くらい。計5匹。

蚊みたいな虫だった。でも、赤みがあったかな。ティッシュにくるんで逐一捨てたけど、どの虫も生きてた。生きてたけど飛べずに身体を引きずって移動してたから、捕まえるのは簡単だった。天井を見てみても、とくに何もない。開いたばかりのノートにいつのまにか乗っていた半死半生のその虫をティッシュに包んで、ふと肩を見ればそこにもいた。

いや迷惑。風呂上がった後なんだが???


○月□日


うちの理科室には人体模型が6つある。しかも、どの人体模型もいずれかの部位が欠けているので生徒たちには気味悪がられているらしい。そんな話を理科室であいりちゃんに聞いた。やけにテンションが低いのはそういう。

いや、でも、6つの人体模型さんには五体投地して拝んだほうがいいよ。

理科室の右奥の棚上のアレから身代わり人形として守ってくれてるの、彼らだから。


◯月□日


転校してからこっち、見てて思ったことがある。

隣の席の男子、海里くん。モテモテだ。ことあるごとにちょっかいをかけられてて笑った。むしろ今まで五体満足に生きてこられたことが不思議まである。

今日も今日とて正方形の紙が背中に張り付けられていたので、「ごみ付いてるよ」の一言とともに剥がしてあげた。白くて、薄くて、ごわごわしていた。二枚くっついていたその紙を引きはがすと、両方の紙に夥しいほどの黒髪が貼り付けてあって、流石にうおって声が出そうになった。どんなに好きだからでもこれは・・・引くと思うんだ・・・。

理科室に行ってガスバーナーで即燃やした。


○月□日


どんなに見た目を美しく繕ったって、匂いで分かっちゃうよね。

そもそも朝を恐怖している時点で、花を名乗る道理はないと思うなぁー。

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