第八話 敵の敵は都合のいい駒
誘いを断ったからプテラ商会が実力行使に出た、なんてことはなかった。
特に異常はなく買い付けも済ませて俺はもう帝国を立ち去るだけだ。
逆に何も無さそうで道中に何かありそうな予感がしてならない。
例えば出る時に今更詐欺の容疑とか言って逮捕されそうになるとか。
嫌がらせが上手いんだよな、大手商会の厄介な奴って。
まあ、その時は仕方がない。メリルがいれば誤魔化しが効いたと思うが彼女はいない。むしろ誰かを連れていくことは要所以外でのデメリットの方がでかくて非効率だ。
能力だけは優秀なんだよ、能力だけは。愛が重すぎるだけでどうしようもない性癖を持っているだけで…………
それぞれの分野を進んだら確実に歴史から消えることはない偉人になっていたはずのに何でああなったんだろう。
もしや、魔王の最後の悪あがきでこうだなった!なんてオチは最低すぎる。
話としても二流、いや三流だと思うぞ。
「すみません、退室するんで鍵返しますね」
「もう?お兄さんいくらなんでも早すぎやしないかい?一週間分の料金貰ってんのに返金はないよ」
「かまわないさ。それじゃ、過剰分ははチップという形で処理しといてくれ」
宿屋のおばさんはため息をつきつつも出ていく俺を見送ってくれた。
宿屋からはもう出たし、さっさとおさらばしたいところだ。
まあ、出る時も検問があるから話術で何とかしよう。
最終手段の賄賂は控えたい。路銀だって無限にある訳じゃないから節制はしないとな。
よし、それじゃあ出発!
さよならと言いたいな帝国、俺は少し離れた町で商売するぜ!
そう思っていた矢先でした。
南西門に到着して順番待ちをしていたら大きな音を立てて破壊されたのです。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「魔獣だ!ここ最近大人しかったのに何で!」
「冒険者呼んでこーい!」
北東は危ないと思ってわざわざ反対方向に来たのにさ、なんでこうなるの?
思ってたことが一向にうまくいかないのはなんでだ!勇者は常にトラブルに巻き込まれなければならないのか!
でも、本当にやばかったら手を貸さなければ。
とはいえ初見殺しの魔獣だ。流石に見殺しにするのは良心が痛む。いったい何が起こっているんだ?
「グェッヘッヘ、人間、ニンゲンニニニニンンンン!」
門を破壊したのは昆虫人間と呼ばれる人の姿に近く、低い知性を持つ魔獣の一種だ。
奴らの虫の頭の種類によって体のつくりや能力が違うのだ。
今回襲撃してきたのはカブトムシの頭をした怒り心頭な昆虫人間だった。
カブトムシの昆虫人間は力自慢で最初のころは結構苦戦した覚えがある。動作は遅いから動きさえ見極めたら勝てるようになった。
…………ちょうど門が壊されたし、こっそり逃げようか?
クズっぽいことを言ってる自覚はあるよ。
でも隠遁するためにはすべてを利用しなければならないんだ。
気配を消して昆虫人間の横を通る。暴れるのに夢中で気配を消した俺に気づかなかった。
もともと俺が気配を消すのが得意だからな。
なんたって気配を消すことが本職と言っても過言ではないシーラに頭おかしいと言われるくらいの気配のなさだからな!
…………言ってて悲しくなってきた、この話はやめよう。
帝国の皆さんごめんなさい、元勇者は逃げさせていただきます。
もうすでに門からかなり離れたけど後は頼りある方々に任せます。
さようなら帝国、もしかしたら二度と来ることはないのかもしれない。
ああ、王都の商品の売り上げはよかったな。
二度とこないってのは少しもったいなかったかも。
さて、次の町に行くか!
〜●〜●〜●〜●〜
帝国を出て早二日、これだけは言わせてほしい。
どうしても、これだけは言わなければならない気がするんだ。
寂・ し・ す・ ぎ・ る・!!!
これは本当に酷すぎるほどいけない状況だ!
例えるなら異常状態解除道具なしに異常状態をたくさん使ってくる魔物の生息地に侵入するくらいに!
しかも分で表すと俺の独り言ばかりで何か喋ってもただの独り言になって虚しくなり、絵で表すと淡々と歩いているところを様々な角度でしかバリエーションを持たせられないほどの貧乏さ!
花なんて一つもない、ただ男が歩いているシーンだけを誰が見たいんだ!
これは誤算だった、せめて旅のお供に誰かと一緒についていくべきだったか?
だけどこうなった以上は一人で行くしかない。
普通に道を歩いているけど向こうから歩いてくる人は全くいなくて喋り方忘れそうだよ!
今こうして頭の中でを言ってるからまだ大丈夫だと思うけど。
空を見上げても何にも変わらない青空に雲が浮かんでいる。
あーあ、空から珍妙な生き物でも降ってこないかなぁ。
そんな都合のいいことなんてないか。
「でちー」
今なにか降ってきて俺の後ろに落ちたけど気にしない。ぺちこんという謎の音が聞こえた気がしたが気のせいだ。
気にしないったら気にしないんだ!
ちょっと運動不足気味だし少し速足で歩くか。
それじゃあ、気を改め直していくぞ!
「でちちー」
「…………やっぱついてくんの?」
「でちっ」
謎の二頭身人型生物が仲間になった!
√21 ~ループしたことに気づいた勇者はこれ以上ヤンデレヒロインと付き合うのはこりごりなので一人で生きていきます~ 蓮太郎 @hastar0
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。√21 ~ループしたことに気づいた勇者はこれ以上ヤンデレヒロインと付き合うのはこりごりなので一人で生きていきます~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます