第七話 聖剣は知らない子

 

 帝国の門をくぐってから三日目の夜、ちゃんと商品を売ることができた。


 商売として始めてくる土地だったが売れた売れた。やはり王国産というブランドを持って売り込んだため、売り上げもなかなかいい線いってお金も大分貯まった。


 王都の品が珍しいため名前を出すだけで人がたくさん寄ってきてびっくりした。


 一応、噂が流れて何らかの不利益が出るんじゃないかと考えていたが杞憂で済んで何よりだ。


 そしてなによりも、持っていた行商人の証明書が大きな効力を発揮したことも噂が流れなかった大きな理由となるだろう。


 商人って狡猾な面もあるけど、こういうのを利用して恩を着させるっていう手口もある。今後、何かあった際に水面下では~都会いてきそうだ。


 勇者はほとんど無償みたいなものだったからそこら辺はあんまり学んでいなかった。


 まだ王国の品は他の所に売る予定をしているからストックはあるが、ここは全部売りさばいて次の町で帝国の品を売りさばこうか?


 王国ほど珍しいという訳じゃないけど美味いものはどこでも売れる。


 もちろん帝国にも美味いものや嗜好品だけでなく頭を使うパズルのような教育面にも力を入れているため小道具も充実しているため仕入れたいものは大量にある。


 そろそろ追いかけてくるメンバーがこの大陸に到着してもおかしくはないし、あと三日くらいで帝国を出ようかな。


「すみませーん、リクトさん起きてますか?ある方がお呼びです」


 おや、宿屋にしては珍しい呼び出しじゃないか。


 宿屋の呼び出しは大抵犯罪者がを訪ねてきた衛兵が本当の俺個人に用がある人だけだ。


 後者は心当たりがないけど誰かに目をつけられたとしか言えず、前者だとあの時の城門前のことを真に受けられたんだろう。


 鬼が出るか蛇が出るか、扉を開けて誰が俺を呼んだか確かめに行った。


 いたのは…………見た目は普通の商人だった。


「俺がリクトでですが。あ、勇者と同名なだけですよ?」


「知っていますよ。私はプテラ商会から来たナダンと申します。早速ですけど明日は時間がありますか?」


「明日ですか?なぜです?」


「支部長からの伝言でして、手の空いてそうな行商人にとある依頼をしたいとのことです」


 なるほど、俺はそれなりの商品を売ったからもう持ってる商品がないと判断したな。


 間違ってはいないが、明日はここで入荷する商品を検討しようかと思っていたんだよなぁ。


 プテラ商会は帝国領だと誰もが知る大手商会だ。その支部長の伝言となれば無下にはできない。


 嘘をついてるって可能性も否定はできないが、その時は乗り越えるしかない。


「はあ、分かりました。明日のいつ、どこで話をするんですか?」


「できる事なら朝早くからここから一番近い北東支部に来てほしいとおっしゃってました」


「わかりました。では、良い夢を」


 目的は聞いたので軽い別れの挨拶をして解散した。


 それじゃあ俺も寝るか。明日は早いぞー。







 〜●〜●〜●〜●〜








 さて、やってきましたプテラ商会北東支部。


 支部なのにそこらの建物よりでかいんだけど?それだけ金はあるってことだろうな。


 朝早くだか商会の扉はまだ固く閉じられている。


 戸締りはちゃんとしているけど中にちゃんと人がいるはずだ。



 ドンドンドンッ



「すみませーん!どなたかいますかー!」


 わざとらしく扉をたたく。そうすれば奴らは飛び出てくるのさ。


 叩いてから数分くらい経ったが足音はしなかった。


 これはまた時間を改めて来るべきかな?さすがに早すぎたか。


 長くいるのもいけない、一度宿に帰ろう。


「は、はいはーい!さっきの人まだいますかー!」


 おおん?扉が勢いよく開いて人が出てきた。


 年齢は俺より少し年上と思われるが、なんだか格好が『今急いで身支度しました』みたいな印象が…………


「あの、貴方はプテラ商会の人ですか?」


「は、はい!あの!さっきここで、扉をたたいてた人知りませんか!?」


「まず一回落ち着こうか。ほら、深呼吸。吸って、吐いて」

「すぅぅぅ…………げほっげほ!」


 俺は悟った、この人肝心な時にしか役に立たない系の人だ。


 普段はドジで役に立たない人はよく見た。そういう人に限って追いつめられると何かしらの手腕を発揮する人がいるんだよね。


 ひとまず彼女を落ち着かせよう。話はそれからだ。


「ふう、ふう、貴方が呼んでいた人ですか?」


「そうですよ。昨日の夜に使いの人から呼ばれていたので」


「ああ、例の!支部長から話は聞いています。ささ、こちらにどうぞ」


 落ち着きを取り戻した彼女に案内してもらったのはどこにでもある応接室だった。


 しかし、支部とはいえ中もかなり広かったなぁ。ループの記憶のだと俺の店より二倍以上はある。


 だからといって格があるとかそうではない。どちらかと言うと品が無いタイプの豪華さを誇っているように感じられる。


 さて、お茶も出してくれたことだし大人しく待つか。


 先ほど出迎えてくれた女性が出した茶は紅茶や水とは違った苦さを持っている。だが不思議と否定するような苦さではないので案外口にできる。


 緑色の茶と言うのはなんだか初めてだ。基本的に干した草木を煮て淹れられる茶色いのが主流なのだが、後で聞けたら仕入れてみようかな。


「待たせた。君がリクトさんだな」


「そういう貴方が支部長さんですね。さん付けはやめてください、なんかむずかゆい」


「そうか。おい、これから話するから席をはずせ」


 俺をこの部屋に案内してからずっと待機していた女の人が一度頭を下げてから出ていった。


「それで、私に話とは?」


「今ちょっと有名な行商人に運んでほしい物がある」


「それだったら他の人のほうがいいんじゃないですか?」


「君が一番適しているんだよ。結構危ない道を通るのでね」


「だからって捨て駒扱いは困りますねぇ」


「君を捨て駒扱いなんてとんでもない!聖剣・・を持つ勇者ならなんてことないだろう?」


 …………なるほど、俺の正体を知ってるわけだ。そりゃあ届け物を預けて出発させたらほぼ確実に届くだろう。


 だけど、間違っていることがあるから訂正しよう。


「聖剣?そんなもの持ってませんよ」


「なんだ、勇者らしくないな。あそこで一度話しているところを見ただけだがそんな嘘をつくような」


「聖剣は返還したって王都で聞きましたけど」


「人じゃ…………はい?」


「ごめんなさい、命をかけてまで物を運ぶとかしたくないので」


 断りを入れて最後に「失礼します」と言って俺は応接室から出た。


 もう後のことは知らないし聖剣なんて俺には知ったこっちゃない。


 持ってるだけで嘘をついてはいけないとか色々な制約が勝手に着くからさっさと返還して出ていったもん。


 これが王都に戻らない理由のうちの1つだ。下手に放棄したと捉えられたら手元に戻ってくる呪われた装備。後で知るほど恐怖となる剣だよ。


 さて、なんか雲行きが怪しいし予定より早く出た方がよさそうだ。


 今のうちに仕入れるだけ仕入れて次に備えよう。


 そんなことを思いつつ俺は何か声をかけられたが足早にプテラ商会から立ち去った。


 なんか怒鳴り声が聞こえたけど気にしなーい。

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