これまでも、これからも、ずっとそばに…

これまでも、これからも、ずっとそばに…①

 僕の目の前には、二人の人がいた。

 片方は黒い髪の小さな女の子、もう片方は茶色い髪をした背の高い男の人。

 女の子は、竜のかざりがついた杖を抱えて、不安そうに男の人を見上げていた。


「今日からここが、君の家。そして私が、君の先生だよ」


 女の子は首をかしげる。


「先生?」


「そう。君に、魔法の使い方を教える先生だ」


 男の人がそう言った瞬間、星降堂ほしふりどうが現れた。今より雑貨は少なくて、キラキラした光も少ないけど、まちがいない。星降堂ほしふりどうだ。

 二人は手をつないで、星降堂ほしふりどうに入っていく。


 と、いうところで、僕は目が覚めた。

 そう、さっきまでのは夢だったんだ。僕は「フシギな夢だなぁ」って思いながら体を起こした。

 カベにかかった時計を見ると、時間は夕方の四時だった。服を着替えて部屋を出る。


 ろうかはシンと静かだった。

 この時間はいつも静かなんだけど、いつも以上に、特別静かだった。まるで、これから何かが起こるかのような……嵐の前の静けさって、やつ。


 台所で、食器の準備をしているブラウニーに「おはよう」ってあいさつしたら、大皿がふわふわ空中を泳いだ。見えないブラウニーなりのあいさつだ。

 僕はベーコンエッグを作って、魔女さんを待つ。昨日あんなことがあったから顔を合わせづらいけど、僕は笑顔で魔女さんにあいさつするつもりだった。


 けど、魔女さんは来ない。

 ご飯の準備ができて、一時間経った。ベーコンエッグも、バターを乗せた食パンも、すっかり冷えちゃった。ブラウニーは待ちきれなくて食べたそうにしてたから、ブラウニーのためにベーコンエッグをもう一つ作ってあげた。

 

 魔女さんは、来ない。

 僕は魔女さんを探すことにした。


「ブラウニー、ご飯はそのままにしといてね」


 ブラウニーはフォークを横にふって返事する。

 僕は、まず魔女さんの部屋に向かった。もしかしたら、ねぼうしたのかな? って思ったからだ。


「魔女さん、夜ですよー」


 僕は、ドアをたたいて声をかける。返事はない。

 ドアにはカギがかけられてなかったから、「失礼します」って言いながらドアを開けた。

 けど、ベッドにはだれもいない。


「おかしいな……」


 僕はふとんをひっくり返して確認したけど、魔女さんはかくれていなかった。


 今度は工房に行った。魔女さんはたまに、工房で魔法具を作っているからだ。

 けど、だれもいない。工具箱の隅まで確認したけど、魔女さんはいなかった。


 売り場に行く。

 すごく静かだ。

 カウンターには誰も立ってないし、売り場にも誰もいない。

 ドアを見ると、ガラスに紙がはり付けられていた。こんなこと、めったにない。

 紙の裏側から文字を読むと、そこに書かれていたのは。


『店主、急用のためお休みさせていただきます』


 だった。いつお店を再開するのかは書かれていない。


 僕に何の相談もなくお店を休みにすることには、少しだけ気分が悪かった。だって、そういうことは、弟子である僕にも相談してくれたっていいはずだ。

 急用があるとか、しばらく休みを取るとか、そのくらい言ってくれてもいいのに。


 ドアの外を見てみる。

 外は、黒と白のマーブルもよう。こういう時は、どこの世界ともつながっていない。

 ドアを開けて足だけ突き出してみるけれど、地面なんてなかった。一年前、僕が日本との繋がりをこわしちゃった時とおんなじだ。


 あれ。でもそれじゃあ、魔女さんはどこに行ったんだろう。

 星降堂ほしふりどうが異世界とつながっていないんじゃ、どこにも行けないはず。

 だとしたら、星降堂ほしふりどうの中にいる。


 僕は、もう一度魔女さんを探すことにした。

 でも、魔女さんの部屋にも、工房にも、売り場にもいないんじゃ、どこに行ったかわからない。

 ……いや。探してない部屋は、もう一つあるんだけど。


 僕は、その部屋に向かう。

 一年前に、魔女さんから「入らないように」って言われてた場所。僕は、それからずっと魔女さんの言いつけを守って、その場所だけは入らないようにしてた。

 コンペイトウバクダンを詰めこんだって言ってたから、怖くて近づけなかったんだ。


 そう。地下室。

 地下室のとなりには、意志の宝石を保管する倉庫があった。僕は、そこで変なものを見た。


 意志の宝石が、ろうかに点々と落ちていたんだ。

 赤、青、黄色、白。色んな色の宝石。開けられた倉庫のドアから、閉じられた地下室のドアまで、誰かが通ったあとみたいに落ちている。

 これは、魔女さんが?


 倉庫をのぞくと、そこはとんでもないことになってた。

 棚から宝石がこぼれ落ちてて、床にはいっぱいの宝石の山。どこにそんなにあったんだろうと思うほど、たくさん。

 いつも歌っていたはずの宝石たちは、すっかり静かになっていた。まるで悲しんでるみたいに。


 魔女さん、一体どうしちゃったの。

 僕は心配でたまらなくて、つい泣きそうになる。

 でも、泣いちゃだめだ。どうしてこんなことをしたのか、ちゃんと魔女さんに聞かないと。


 目をぎゅっと閉じて、地下室のドアを開ける。

 てっきりコンペイトウバクダンがおそってくると思ったのに、全然そんなことなかった。こわごわ目を開けてみるけど、そこにあるのは、地下へ続く階段だけ。

 僕はゆっくりおりていく。そんなにおりないうちに、目の前に二つ目のドアが現れた。


 ドアノブをにぎる。ゆっくり回すと、カチャンと音がしてドアが開いた。

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