オバケなんか怖くない!⑤
ドカン!
すごく大きい音がして、僕らの目の前でバクハツが起こった!
狼はバクハツのせいでおどろいて、「キャイン!」となさけない声をあげている。その場に倒れると、前足で顔をおおいかくしていた。
「逃げよう!」
ロイド君はスっと立ち上がって、僕の腕をつかんで引っ張った。僕はヘロヘロな足に無理矢理力を入れて、何とか立ち上がる。
そこからはロイド君に引っ張られるまま走っていく。商店街に戻って道なりに走って……住宅地の方にやってきた。
「狼は、追ってきてないよね……?」
僕は後ろをふり返る。狼の姿はすっかり見えなくなってた。ペタペタっていう足音も聞こえてこないから、多分バクハツにびっくりして僕たちを追いかけるのをやめたんだろう。
それにしても、何で狼が出てきたんだろう。聞いた足音も、見えた影も、狼のようには思えなかったし、むしろ人がはだしで歩いているみたいな感じだったけど……
僕らは、そんなことを考えられるくらいには落ち着きを取り戻してた。
そんな中、ロイド君はまわりを見回して一言。
「ここ、どこ?」
どうやら必死に走ってるうちに、ロイド君が知らない場所に来ちゃったみたい。
僕は元々知らない場所だから、怖さは変わらない。だけどロイド君にとっては……知ってる道から知らない道にやってきた彼にとっては、怖さは段ちがいってやつだろう。
「うぅ……」
ロイド君の目に涙が浮かぶ。
僕はあわててロイド君に声をかけた。
「大丈夫! 今、狼はいなくなってるし。それに知らない道とはいっても、ロイド君が住んでる町なんだから! だから、いつかは家に帰れる。大丈夫だよ!」
それでもロイド君にとってはなぐさめにならない。スンスン鼻をならしながら、ボロボロ涙をこぼして泣いている。
こういう時、どうしたらいいんだろう……
『ランタンに願ってごらん』
頭の中に、魔女さんの声が聞こえた。
「ランタンに、願う?」
僕は、魔女さんに言われた言葉をそのまま言う。だけど、魔女さんは話しかけてこない。
僕は、星くずのランタンを見つめた。中に入ってる星のカケラは、ぽわぽわとした光をはなっている。
ランタンに、話しかけることにした。
「お願い。力をかして」
僕がつぶやくと、星のカケラはピカピカ点めつした。
光が大きくなったかと思うと……びっくり、僕の目の前に星が浮かび上がったんだ。
「ロイド君、見て」
うつむいて泣いてるロイド君の肩を叩く。ロイド君は顔をあげて、うかんでる星をまあるい目で見つめた。
うかんだ星は一つだけじゃない。二つ、三つ、いや、それ以上にたくさん。それはまるで、僕らに道案内するみたいに、おんなじ
僕らは、ランタンが描いた星の道をたどって歩く。星をつかむと、それはとけるように消えていった。そして、遠くの方で新しく一つ星が生まれる。
僕もロイド君も、すっかり怖くなくなってた。星の道をたどることに夢中になって、早足で星を追いかけていた。
「どっちが多くの星をつかまえられるか、競走しよう!」
そう言い出したのはロイド君。ロイド君は本気のダッシュで星を次々つかまえていく。だけど疲れるのも早くて、ロイド君が疲れてゼーハー言っているうちに、僕はたくさんの星をつかまえた。
といっても、星はすぐに消えちゃうから、何個つかまえたなんて覚えてなくて。僕らは競走するうちに、
「百個つかまえた!」
「僕は千個!」
「一億!」
「無限大数!」
なんて、ムチャクチャな数を言い合うようになって。
そんな楽しい時間も、あっという間に終わりになった。
「ロイド!」
道の反対側からやってきたのは、犬耳の男の人と女の人。多分、ロイド君のお父さんとお母さん。
ロイド君は「パパ! ママ!」って言って、両手を広げてお父さんに抱きついた。
お父さんもぎゅっとロイド君を抱きしめる。多分、泣いてたんだろうと思う。お父さんとお母さんの目は、ウルウルしていたから。
ロイド君のお父さんは、ロイド君を抱っこしながらフシギなことを言った。
「お二人が、ロイドを送ってくださったんですね」
「お礼なら、私ではなく空に言ってやってください」
僕は首を反らして見上げる。
そこには魔女さんがいた。
「魔女さん、いつの間に」
僕の質問をさえぎって、魔女さんは「しぃー」と小声で言った。
「お兄ちゃん、ありがとう」
ロイド君のお父さんが、僕に言う。
「ロイドが無事帰ってこれたのは、君のおかげだよ」
「あ、いえ……」
僕はヘラリと笑った。
多分、ロイド君の勇気がなかったら、狼から逃げることはできなかった。だから、僕のおかげってわけでもない気がする……
「空、お礼は素直に受け取るものだよ」
魔女さんは優しく言う。そういうものなのかな。
「ソラ君」
ロイド君に呼ばれて、僕は顔を上げる。
ロイド君は、僕に片手を差し出していた。何かにぎられてる。
「さっきつかまえた星、ソラ君にあげる」
僕は、ロイド君からそれを受け取る。
それは、星くずの結晶に負けないくらいにきれいな、勇気の宝石だった。
「楽しかったよ。ありがとう!」
ロイド君は、これ以上ないほどの笑顔を浮かべていた。
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