オバケなんか怖くない!②
「おやおや、こんなめでたい日に
魔女さんの声が聞こえて、僕はふり返った。
魔女さんが僕の後ろにいて、
「この町の流れ星のお祭りといえば、どの町より盛り上がるからね。人波にさらわれて迷ってしまったってとこかな」
魔女さんは言う。
ああ、とうとう泣いちゃった。どうしよう。
「おいで。あたたかいココアをごちそうしよう」
魔女さんはくるりと背中を向けて、
その時気づいてびっくりしたんだけど、
こんなにピカピカまぶしい魔法具だらけだと、泣くのも忘れて見入っちゃうよね。
「ホットとアイス、どっちがいい?」
魔女さんがたずねる。
「ホットがいい」
魔女さんは、竜のかざりがついた杖をふる。ポンッと音がなって、カウンターにマグカップが現れた。見えないブラウニーがココアの素を持ってきて、そこに冷たい牛乳をそそぐ。それをブラウニーがスプーンでかき混ぜると、ポンポンあたりに星が散って、うす茶色のあたたかいココアが出来上がった。
ブラウニーは姿が見えない。だから
ココアを一口。
「空もいるかい?」
「はい。飲みたいです」
僕のは魔女さんが作ってくれた。でも、魔女さんってば意地が悪い。ココアと牛乳と、水を混ぜるだなんて。魔女さんがスプーンでココアをかき混ぜると、あっという間に色がうすいホットココアになった。
僕はココアを飲んで一言。
「む……うすい……」
魔女さんはクスクス笑ってる。
「魔法を使うんだよ、空」
なんて言って、僕に魔法の修行をさせようとしてる。
味の調整の魔法は、
「キミ、魔法使いなの?」
急に
魔女さんはそれをクスクス笑いながら、
「あぁ、私も空も魔法使い。空は私の弟子だよ」
「すごい! 僕、魔法使いに会ったの初めてだよ!」
そういう目で見られると、なんだか照れくさいな。でも、魔女さんに初めて会った僕も、そんな感じの顔をしていたような気がする。
「さて、君の名前は?」
魔女さんが
「ロイド・アルカディア」
わぁ、外国人のフルネームだ。なんだかかっこいい。
「ロイド。ご両親とはぐれてしまったのかい?」
ロイド君はうなずく。
「お祭りの会場から家に帰ろうとしたら、いっぱいヒトが走ってきて。僕、びっくりしてお父さんの手、はなしちゃった。引っこしてきたばかりだから道もよくわかんないし、暗いし……こわくて……」
「……ご両親と連絡を取る方法は……あー、ロイドは魔法使いじゃないからダメか……」
魔女さんは髪をかき上げる。ちらりと見えた赤い目は、とても困っているように見えた。
「僕、このままひとりぼっちなのかな……」
さびしさを思い出したんだろうか。ロイド君の顔がまた泣きそうになる。
なんだかかわいそう。僕は、ロイド君をはげまそうとして杖をふった。
「回れ回れ星の子よ。きらりきらめけ
ニワトコの杖の先から、光がぶわっとあふれ出す。僕はロイド君の頭の上に、小さな星空を作り出した。
ただの星空じゃない。僕が作り出した星空には
ロイド君はその星空を見て、声を出して笑う。それが僕はうれしくて、なんだかほっぺたがゆるんできた。
「……そうだ」
魔女さんは、僕を見てニコリと笑う。何か思いついたのかな。
「空、君が送って行ってあげるといい」
魔女さんの提案に、僕は「えぇっ!」て大きな声を出した。
今は夜だよ? 外は暗いし、子供は寝る時間だよ。
「幸い君は魔法使いで、普通のヒトより色んなことができる。ロイドの道案内なんて、お手の物じゃないか」
「さ、さすがにそこまでは……っていうか、道案内の魔法、まだ教えてもらってないです」
僕は魔女さんに反抗した。道案内なんて、できるわけがないって。
でも、ロイド君がいる前で、はっきり「できない」って言うのは気が引けた。だって、ロイド君は僕をじぃっと見つめてる。これはきっと期待とか、尊敬とか、そういうやつだ。ロイド君をがっかりさせたくない。
そんな僕の気持ちは、魔女さんにはお見通し。僕がことわりきれないのをいいことに、「くひゅひゅ」って笑いながら、売り場の隅からカンテラを持ってきた。
金色の縁取りにとうめいのガラス。中に入っているのは、コンペイトウみたいにトゲトゲした光る石。
「空はもう知っているね。星くずのカンテラだ」
僕は、星くずのカンテラをよく知っている。だから魔女さんは、僕じゃなくてロイド君にカンテラの説明をした。
「星のカケラをつめたカンテラさ。火を灯さなくても勝手に光ってくれるし、周りが暗ければ暗いほど、カンテラの光が強くなる。これがあれば、夜道も怖くないだろう」
ロイド君はカンテラを受け取る。カンテラは案外軽いんだ。だから、ロイド君でも軽々持つことができた。
カンテラの光は、あたたかくて優しい。ロイド君は光に包まれて安心したみたいだ。
「これがあれば怖くないね。僕、帰れそうな気がする」
魔女さんはほほえむ。そして、僕を見てニヤリと笑った。
「じゃぁ、道案内はいらないかい?」
すぐに気づいた。僕、試されてる。
僕はなやまなかった。魔女さんにからかわれて黙ってるなんてやだし、なによりロイド君に僕の情けないとこを見せたくない。
「僕も行く!」
そういうと、魔女さんは満足そうにうなづいた。
ロイド君も、やっぱり少し不安だったみたい。僕が行くと言ったとたんに、パァッと笑顔が広がった。
「よろしく、ロイド君」
「よろしく、魔法使いさん」
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