オバケなんか怖くない!③
僕は、大きめのショルダーバッグを肩にかけて、ロイド君を手まねきする。ロイド君は耳をペタンと倒して、夜の空を見上げた。怖いのかな。
夜とは言っても、この世界の空は星がいっぱいだ。僕が住んでいた東京の空とは比べようがないくらいに明るくて、怖いなんて全然感じない。
「空、これも持って行くといい」
魔女さんから声をかけられて、僕はふり返った。魔女さんは僕に、オレンジ色の石を渡してきた。
「星くずの結晶だよ」
僕は星くずの結晶を受け取る。ぼんやりと光ってるそれは、ランタンに入ってる星のカケラとよく似てる。トゲトゲしてないから、同じものではないだろうけど。
「あ、僕知ってるよ! それに火をつけたらバクハツするんだよね」
「ええ! バクハツするの?」
「そうそう。ロイドは物知りだねぇ」
え、何それ、こわぁ……
「何でそんなもの持たせるんですか」
「
ごしんよう……身を守る用ってやつだ。危なくなったら、これをバクハツさせて身を守りなさいってこと。
……そんなことが起こらないように、神様にお願いしておこう。
僕は星くずの結晶をこわごわとカバンの中にしまった。カバンの中には、
「行ってらっしゃい。早めに帰ってくるんだよ」
魔女さんはそう言って、僕にひらひら手をふった。僕はロイド君と一緒に、魔女さんへ片手をふり返す。
そうしてランタンを片手に、夜の町へと僕らは向かう。
町の中は石の道路が続いてて(石だたみって言うんだっけ)、すっごく静かな中で僕たちの足音だけが聞こえる状態。
周りの建物は、いかにも外国って感じの家ばかり。真っ白なカベに青いヤネ。そこに僕たちのカゲが張り付いて、あんまり不気味でドキッとした。
僕は怖さをまぎらわせたくて、ロイド君に話をふった。
「ねぇ、僕、別の世界から来たから知らないんだけど、流れ星のお祭りってどういうことするの?」
ロイド君は少しだけびっくりしてた。まさか僕が、別の世界からやって来たとは思ってなかったみたい。だけどロイド君は、僕の質問に答えてくれた。
「流れ星のお祭りっていうのはね、一年に一回、星の神様にお願いごとをするお祭りなんだよ。お祭りの会場に星のかざりがいっぱいあって、それに流れ星を当てて、かざりが割れたら願いが叶うんだ!」
ロイド君はくわしく説明してくれたけど、僕にはよくわからない。七夕みたいなお祭りなのかな? って思っていたら。
「写真、見せてあげるよ」
ロイド君は、ペラペラの紙みたいな写真を見せてくれた。
何だか画質が悪いけど、たしかに写真だ。紙でできた星形のボールみたいなのが、町の広場にいくつもついてて、ロイド君は丸いボールを投げるためにかまえてる。なるほど。このボールが流れ星なんだ。
「星のかざりを割ったらね、いっぱいおかしが出てきたんだよ!」
そう言ってロイド君は、ポケットにつめこんでいたおかしを見せてくれた。あめやチョコやコンペイトウ。どれも全部おいしそう!
「夜に食べたら虫歯ができるから食べちゃダメってママに言われるんだけど、ナイショで一つずつ食べちゃおうよ」
「え?」
ロイド君、それって。
「すっごくいいアイデアでしょ?」
「うん、すっごくいい」
僕らはクスクス笑いながら、口の中にチョコを放り込んだ。チョコはあっという間に溶けて、口の中にとろ~っと広がっていく。甘くておいしい。
「ソラ君は、いつから魔女さんの弟子をやってるの?」
いきなり、ロイド君はそうたずねてきた。
僕はロイド君に説明する。
「だいたい半年くらい前かなぁ。
僕のことを話すのはちょっと照れくさい。だけどロイド君は聞き上手で、時々相づちをしながら聞いてくれた。
僕がコンペイトウバクダンを作っちゃったせいで帰れなくなってしまったところでは、大きく息をのんでいた。僕がメロウちゃんのお手伝いをしたところでは、まるでロイド君自身のことみたいによろこんでくれた。
「そして、今日この世界にやってきたところ。さっき半年って言ったけど、もしかしたらそんなに経ってないかも?」
僕はそう言ってしめくくった。ロイド君に話してて気づいたけど、
「そっかぁ。じゃあ、家には全然帰れてないんだね」
ロイド君はそう言った。
そうだ。そういえば、世界のつながりがこわれちゃったせいで、僕は何ヶ月も家に帰れていないままだ。
「お父さん、元気かな……」
僕はぽつりとつぶやく。
お父さんはいつも残業ばかりで今はあんまり遊んでくれないけど、昔は山で虫取りとか、遊園地に行ったりとかして遊んでくれてた。そのことを急に思い出しちゃった。
「えぇっ、と……ロイド君のお父さんって、どんな人なの?」
僕は、ちょっとだけ思い出したさびしさをごまかすために、ロイド君に質問した。ロイド君はニコニコ笑って、ロイド君のお父さんとお母さんについて教えてくれた。
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