私が本当にやりたいこと②
「上出来だよ、空。
軽い調子でそう言われた。普段のからかい口調とおんなじ感じで言うから、全然うれしくない。魔女さんをジトーっと見ると、魔女さんは僕の頭をなでた。
「うりゃうりゃうりゃ!」
「わー! やめてよー!」
僕はくせっ毛だから、髪をぐしゃぐしゃにされるとなかなか直らないんだ。この時も、ぐっしゃぐしゃにかき回された髪は、ツンツンはねて大変なことになっちゃった。
魔女さんはニンマリとした顔で僕を見下ろしている。
「すぐに来ると思うから準備するよ」
すぐに来るっていうのは、あの
買い出しの途中で会った
「大人の男だろう? 空が心配しなくても大丈夫だよ」
「そうですね」
確かに。大人だもんね。
お店の窓から、暗くなりかけた空をボンヤリとながめていたら、すぐにその人はやってきた。
ドアを開けて入って来た、黄色い髪の
「いらっしゃいませ」
僕より先に、魔女さんがあいさつする。
「何かお探しかな?」
僕は、
「魔女さん、あの」
僕が魔女さんに声をかけようとした時、
「そこの、魔法使いの男の子に教えてもらったんです。魔法の道具を売っているお店があると」
魔女さんは「なるほど」とつぶやいた。「とっくに知ってたくせに」って思いかけたけど、魔女さんに何か言われるのはイヤで、首をふってその考えをふり払う。
「魔法の道具がほしいということは、何か叶えたいことでもあるのかい?」
魔女さんは、
「うちの娘の歌が上手くなるような道具はないでしょうか?」
娘さんへのプレゼントかな。そうだとしたら、すごくステキだな。だって、鳥の声って歌声みたいにキレイでかわいいって言うし。
だけど魔女さんは、さすような視線をやめない。
僕はここでようやく気付いた。この目は、頭をのぞくときの目じゃない。値踏みの目だ。
「歌が上手くないのかい?」
「はい。それどころか下手で。そのせいか、引っ込み思案で、友達もあまりいなくて。
だから、歌が上手になれば、周りからも愛されると思ったんです」
魔女さんは、
今このお店には、歌を上手にする道具は売っていない。もし売るとしたら、オーダーメイドになってしまう。
「オーダーメイドになるよ。時間はさほどかからないだろうけど、
お客様は笑顔を浮かべた。
「はい。ぜひお願いします!」
「なら、お客様の羽根を貰えるかな。
「お金ではないんですか?」
「お金なんていう価値が不確かなもの、私は受け取れないのさ」
魔女さんは、合計七枚の羽根を受け取ると、にっこり笑ってこう言った。
「では、一週間後にまた」
「よろしくお願いします」
さっきの話の中に、何か笑うようなところがあったかな。僕は魔女さんの考えが読めなくて、首をかしげて考える。
僕の視線に気づいた魔女さんは、その小バカにした笑いそのままに、僕にこう言った。
「他人からの評価は、時に苦しいものでね」
魔女さんは時々むずかしいことを言う。
「あの
「大変?」
魔女さんが髪をかき上げる。
長い前髪の下から、ちらりと赤い片目が見えて、僕はドキリとした。その目が何かを語ろうとしているように見えたからだ。
「それが期待でも失望でも、それを向けられた側は自分がさらけ出せなくなってしまうものさ」
もしかして、魔女さんは、だれかのことを心配してるんだろうか。
それはもしかして、
「まぁいいさ。今はね」
魔女さんはそう言って話を終わらせた。七枚の黄色い羽根を、小さな木箱の中にしまって伸びをした。
「空、一つ頼まれてくれないか?」
魔女さんは僕を見て、赤い目をパチリと閉じてウィンクする。
何を頼まれるんだろう。むずかしいことじゃなけりゃいいけど。
「大丈夫。少しむずかしいかもしれないけど、空にもできることだから」
魔女さんは僕を手まねきする。向かった先は、
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