魔法のお店がやってきた!⑤
目を覚ますと、そこは見たことのない部屋だった。
茶色の天井に、ふかふかのベッド。ベッドの横にはロウソク立てがあって、いいニオイがするキャンドルが燃えていた。
なんだか頭がぼんやりする。僕、一体何をしてたっけ。
「気がついたかい?」
女の人の声が聞こえて、僕は体を起こした。
魔女さんが、部屋に入りながら声をかけていた。
思い出した。確か、きれいな雑貨屋さんを見つけて、そこの魔女さんに「先生になってください」ってたのんで、ことわられたから、僕は……
た、大変だ!
「ごめんなさい!」
僕は謝りながら頭を下げた。僕が勝手に魔女さんの杖を使ったから、お店はコンペイトウだらけになっちゃった。魔女さん、絶対怒ってるよね。
「いや、私も悪かった」
魔女さんは怒ってなかった。ちょっと意外で、僕は首をかしげる。
魔女さんは、困ったような、後悔してるような、あいまいな顔をしてた。バツが悪そうな顔って、こういう顔なのかな。
魔女さんは、ベッドのとなりにイスを持ってきて座る。僕の右手をにぎると、ポワポワした、あたたかい力を送ってきた。ぐったりした僕の体に、魔女さんの力がめぐっていく感じ。なんだか心地いい。
「あの杖はしっかり管理しなきゃいけなかったのに、君の手が届くところに置いてしまった。ごめんね」
魔女さんは僕に謝った。
なんで謝るの? 全部僕が悪いのに。
「あの杖はね、君の力を根こそぎ吸い取ったんだ。そういう杖だから、本当は他人にさわらせちゃいけないのさ。あの時は本当にうっかりしてた」
僕はなんだか申し訳なくて、じっと布団の角を見てた。
よくわからないけど、僕は、魔女さんの杖を使ってしまったから倒れたらしい。
そういえば、僕が倒れる少し前、コンペイトウバクダンはお店の外でバクハツしたはず。あれは、どうなったんだろう?
「魔女さん。コンペイトウは……?」
僕がたずねると、魔女さんは苦笑いした。
「それが、だね……ニホンとのつながりをこわしてしまって、君は帰れなくなってしまったんだ」
………………?
意味が、わかんない。
「自分で見るといいよ」
魔女さんは僕の手を引っ張った。僕はベッドからおりて、階段を下る。寝てた部屋は雑貨屋さんの二階で、一階が雑貨屋さんの売り場になってた。
僕は、雑貨屋さんの入口のドアから外を見る。
すごくびっくりした。
外は、黒と白のぐちゃぐちゃなマーブルもようになっていた。道路もマンションもなくなってて、夜空も星もなくなってる。
なにこれ。どういうこと?
「あ、ダメだよ」
魔女さんは止めるけど、僕はかけ足でお店のドアに近付いた。
ドアを開ける。やっぱり外はマーブルもよう。足を外に出してみると、地面はなくなっていた。落ちそうになった僕の腕を、魔女さんがつかんで引っ張った。
危ない危ない。背中にじっとり冷や汗をかく。
「どういうこと? これ……」
意味がわからなくて、僕は魔女さんにきいた。
魔女さんは「うーん……」と言って、僕にこう説明した。
「ここは
僕は首をかしげる。
異世界から異世界に……って、どういうこと?
「異世界転移って、知ってるかい?」
あ、それなら。
「えっと、アニメや小説でよくある、あの?」
「そう。その異世界転移」
魔女さんはうなずいた。
「え、じゃあ、このお店、
「そう。お店自体が、色んな異世界に転移してるんだ」
うそ! びっくりだよ! お店自体が異世界転移だなんて、そんなことありえるの?
「私は、色んな世界で魔法の道具を売っているんだ。君に渡そうとしたシラカンバの杖も、お店にあるこれらの雑貨達もそう。全部、魔法がかけられた不思議な道具なんだよ」
じゃあ、僕が魔法みたいだって思ってお店に入ったのは、あながちまちがいじゃなかったんだね。ここにあるもの全部が、僕を引きよせてたんだ。
…………
え? 待てよ……? ということは……?
「僕、もしかして、異世界転移しちゃったの?」
こわごわ魔女さんにきいてみると、魔女さんは青い顔をしてうなずいた。
「ただの異世界転移ならよかったんだけどね……」
魔女さんは腕を組み、一つ大きなため息をついた。そして、話し始める。
「
うーん、わかんない!
「つまり、どういうこと?」
魔女さんは、僕には説明がむずかしかったと理解したみたいだ。ハッとした顔をして、僕にもわかるように説明してくれた。
「コンペイトウバクダンのバクハツが強すぎたんだ。帰り道がこわれてしまったんだよ」
帰り道が、こわれただって?
僕が使った魔法は、そんなにすごい魔法だったの? でも僕はコンペイトウを作りたいと思っただけで、コンペイトウをバクハツさせようなんて思ってない。
「僕は、何かをこわそうだなんて思ってないよ。なんであんなバクダンができたの?」
魔女さんにたずねると、魔女さんは首をゆるゆるふって、こう答えた。
「竜王の杖は、そういうもの。必要以上に魔法使いの体力を吸い取り、必要以上に魔法を大きく大げさにしてしまうのさ」
魔女さんは、お店のドアを閉めて、カギ穴にカギを差し込む。このお店のカギ穴は、ドアの内側にあった。魔女さんがカギを回すと、カギ穴からパチンと虹色の光がはじけた。
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