魔法のお店がやってきた!③
「ええっと……」
答えに困った僕を、魔女さんはニヤニヤ笑いながら見てくる。レジカウンターでほお杖をついて、僕が返事するのを待っている。
やっとのことで、僕は魔女さんに返事をした。
「きれいなお店だから、思わず入っちゃった」
魔女さんはそれをきいて、声に出して笑った。でも、魔女さんの笑い方は変だった。「くひゅひゅ」って、変な声を出しながら引き笑いするの。
「きれい、か。それはうれしいねぇ」
魔女さんは本当にうれしそうだ。
でも、こんなお店見つけたら、だれだってそう思うはず。こんなにキラキラしたお店、見たことないもん。まるでここは、銀河の中みたいだ。
「銀河の中、か。たしかに、そうかもしれないね」
魔女さんはそう言った。
僕はまたもやびっくりした。銀河の中みたいっていう感想は、僕の頭の中で思っただけだ。なのに、魔女さんは「そうかもしれないね」なんて言う。まるで、僕の頭の中をのぞいているみたいに。
「カンタンな考えならね、私は読むことができるのさ」
まただ。魔女さんは、まちがいなく僕の頭の中をのぞいてる。まるで、本物の魔女みたいに。
すごい! 僕は今、本物の魔女とお話してるんだ!
「すごいよ! 魔女さんは、本物の魔女さんなんだね!」
魔法みたいなお店の中で、魔女さんと出会ったっていう事実で、僕はドキドキしていた。日本にも魔法使いはいたんだ。魔法は本当にあるんだ。って。
でも、魔女さんは怪しくほほえむだけで、僕の言葉を肯定しない。
それでも僕はかまわずに、魔女さんに一つお願い事をした。
「僕、使いたい魔法があるんだ。会えなくなった人と会う魔法なんだけど」
「ふぅん、魔法を使いたい、ねぇ」
魔女さんは、僕を頭からつま先までじっくり見る。値踏み、ってやつをしてるんだろうか。
カウンターから見つめるだけではよく見えなかったみたいで、立ち上がって僕に近付いてくる。すらりと背が高い魔女さんは、ツンとしたハーブの香りをただよわせて、僕の顔を見下ろした。
この時気付いたんだけど、魔女さんは右目だけ真っ赤だった。ルビーっていう宝石みたいにすき通ってて、きれいな赤色。なんだかキンチョーしちゃって、僕はゴクリとノドを鳴らした。
「魔法使いになりたいんだ?」
「あ、は、はい……」
かすれた声で返事すると、魔女さんはようやく僕からはなれた。僕はちょっとだけ安心して、ほっと息をつく。
魔女さんはそれがおかしかったみたいで、変な引き笑いをしながらカウンターに向かった。
「ステキな杖を用意しよう」
魔女さんは、竜の杖をカウンターに立てかけた。雑貨が並んだ棚から箱を取ると手まねきする。僕は手まねきにさそわれて、カウンターに近付いていく。
「初心者の魔法使いでも使える、シラカンバの杖だよ」
魔女さんが箱を開ける。中には杖が入っていた。真っ白な杖に、黄色い宝石がくっついてる。
「カーバンクルのおでこの宝石を一つ取り付けた杖さ」
「カーバンクル?」
「キツネみたいな、小さい
おお、なんだかワクワクする!
「この、えっと、シラカンバの杖? を使うと、どんな魔法でも使えるようになるの?」
僕はたずねる。魔女さんは首をふって否定した。
「なんでもってわけじゃない。どんな魔法が使えるようになるかは、君の努力と素質次第さ」
努力と素質……
「君は、ずいぶんと魔法の勉強をしてるじゃないか。
ポケットにあるそれは、カラスの
僕はポケットに手を突っ込んだ。
無意識に、カラスの羽根をポケットに入れてたみたいだ。僕はクシャクシャになった羽根を取り出して見つめる。
「カラスは、この世界では魔女の使い魔として好まれる。だから、魔法の材料にカラスの羽根がよく使われるんだよ。
って、勉強熱心な君なら、当然知ってるだろうね」
本当に、魔女さんはなんでもお見通しだ。
僕が去年から魔法の勉強をしていることも、魔法についてちょっとだけ詳しいことも。
「魔女さんには、なんでもお見通しなの?」
僕はたずねる。魔女さんは首をふってこう答えた。
「そうでもないよ。他人より少し多くの事ができるだけさ」
多くのことって、なんだろう?
「たとえば、どんなこと?」
「そうだねぇ」
魔女さんは人差し指をふる。指の先から光が散って、シャラシャラ音を立てながら、お店の中を飛び始めた。僕は目でそれを追いかける。
光は星の形をしていた。流れ星みたいに天井を回って、シャンデリアにぶつかる。そこから虹色の羽根がついた鏡に飛んで行き、ぶつかってはね返って、向かい側にあったカンテラを通り抜ける。その時、カンテラの中に入っていた宝石が、ふんわり優しく光り始めた。
星形の光はお店をもう一周して、僕の胸を通り抜ける。光が通り抜けると、僕の体はポカポカあたたかくなった。
そうして、僕のまわりを二週回って、最後は魔女さんの指に戻った。
「
魔女さんに名前を呼ばれて、僕は背筋をのばした。
魔女さんは、僕の名前を読み取った。さっきの星の魔法でやったんだ。こんなことができる魔女さんは、すごい魔女にちがいない。
この魔女さんに魔法を教えてもらったら、僕も魔法使いになれるんじゃないだろうか。
僕は勇気を振り絞る。
シラカンバの杖なんて、もうどうでもよくなってた。杖を持ってても、魔法を教えてもらえなきゃ、きっと魔法は使えないままだ。僕には先生が必要だ。魔法が上手な、魔法使いの先生が。
「魔女さん。僕に、魔法を教えてください!」
僕はしっかり頭を下げた。だれかにものを頼む時には、頭を下げるのが礼儀だって聞いたことがあったから。
少しだけ待つ。でも、魔女さんからの返事はない。
僕は、こわごわ頭を上げた。
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