第32話 -閑話- 瑠璃視点:ジタバタするお嬢様
※ヒロイン視点となります。
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ショッピングモールでの買い物を終えてマンションに戻る頃には、すっかり日も落ちていました。
シャワーを浴びて身を清め、猫ちゃんのプリントが入ったパジャマに着替えた後……。
「きゃあああっ! なんて大胆なことをしてしまったのでしょう!」
わたしは自室のベッドに潜り込み、枕を抱きしめながら身悶える。
「えへへ。颯人くんといっぱい遊んじゃいました」
わたしは仰向けになり、枕元に置いてあったスマホを掲げる。
画面に映るのは、プリントマシンで撮影したわたしと颯人くんのツーショットだ。
(今日のお出かけは、デート……でよかったんですよね?)
映画を口実にお誘いしたけれど、目的は彼とお近づきになることでした。
もしかしたら下心が顔に現れていたかもしれない。
でも、隠せなかった。だって……。
「うぅ……ダメです。どうしてもお顔が緩んでしまいます」
画面に表示されたツーショット写真を眺めていると自然と頬が緩む。
颯人くんのそばにいるだけで嬉しくて、いつも挙動不審な態度を取ってしまう。
わたしは感情が顔に現れやすいと千鶴さんも言っていた。
努めて冷静になろうとすればするほど空回り、自分でも思いも寄らない行動に出てしまう。
(名前で呼んじゃいました! きゃあああ~~~!)
遊歩道でのやり取りを思い出して、わたしは手足をジタバタとさせる。
初めてのショッピングモールでテンションが高かったのもあるけれど、まさか名前で呼び合うような間柄になるなんて。
それだけではなく一緒にハンバーガーを食べたり、ゲームセンターで遊んだり。
(さすがに下着は選んでくれませんでしたけど……)
我ながら勇み足だったと反省している。お父様が見たら卒倒するでしょう。
嫁入り前の娘がはしたない……なんて時代錯誤なことを言い出すはず。
あの人は自他共に厳しいところがあって。
「……よくありませんね」
急に現実に引き戻され、ベッドから下りた。
今日は楽しい一日だった。自分から水を差すような真似をしたくない。
(お金持ちの火遊び……ですか)
颯人くんのお母様の言葉を思い出す。
颯人くんとの関係を遊びだなんて思ったことはない。
わたしは颯人くんと真剣に清く正しいお付き合い……ではなくて、お友達として仲良くしてもらっているだけだ。
颯人くんはわたしをお友達だと言ってくれた。本当に嬉しかった。
わたしも颯人くんを素晴らしい友人だと思っている。
彼は頼りになって、誠実で優しくて、男前で……。
「はぁ……。颯人くん……」
彼は素敵な人だけど世間様はそうは見ない。わたしは二つの意味でため息をつく。
(颯人くんはわたしによくしてくれる。わたしも彼のために何かをしたい)
颯人くんは、わたしも知らないわたしの魅力を引き出してくれた。
最初は自信がなかったけど、颯人くんが可愛いと褒めてくれるから自分を信じられるようになった。
お返しがしたくて颯人くんのことも褒めてるのだけど、彼はいつも素っ気ない態度を取ってしまう。他の攻め方がいいでしょう。
(具体的にお手伝いできることがあればいいんですけど)
そんなことを考えながら、ベッド脇に並べた猫のヌイグルミを撫でる。
クレーンゲームで颯人くんが取ってくださった子(コワモテにゃんこ)を加えると、全員で12体になる。実家にいた頃より家族が増えた。大台突入だ。
「えへへ。颯人くんとの子供……なんちゃって」
「お嬢様」
「ひゃい!?」
妄想をしながらヌイグルミの頭を撫でていると部屋のドアがノックされた。
声をかけてきたのは千鶴さんだ。
わたしは緩んだ顔をキリっと戻してから入室を促す。
「どうぞ」
「夜分失礼いたします」
寝室に入ってきたメイド服姿の千鶴さんは、わたしの顔と部屋の様子を一瞥する。
遠慮のない視線だが相手は千鶴さんだ。
わたしにとっては姉のような存在なので、まったく気にならなかった。
「以前より片付いていますね。これなら風馬様をお通ししてもよかったのでは?」
「ダメです。この歳でヌイグルミを集めるのが趣味だとわかったら子供っぽいとバカにされます」
「彼なら大丈夫だと思いますが……お嬢様もお年頃ですからね。お好きになさるとよいでしょう」
「なんですかその上から目線は。大人はみんなそうです。わたしはもう高校生なんですからね。子供扱いしないでください」
「では、ヌイグルミを手放しますか?」
「それとこれは話が別です。この子たちに罪はありません」
「ふふっ。左様ですね」
千鶴さんはワガママな子供をあしらうような、余裕のある大人な笑みを浮かべる。
言いたいことはいろいろあるけれど、千鶴さんは口が達者だ。話を変えましょう。
「わたしに話があるのでは?」
「先ほど会長からご連絡がありました。たまには顔を見せるように、とのこと。奥様もご心配なさってますよ」
「……考えておきます。それだけですか」
「2週間後に行われる学力検査についても言及がありました。成績によっては仕送りの額を減らすそうです」
「はぁ……。本当に子供扱いされてますね、わたし。言われなくても勉強は欠かしていません。千鶴さんの課題も毎日こなしています」
実家にいたとき、千鶴さんはわたしの家庭教師も務めていた。
一人暮らしを始めてからは出された課題をこなすだけになったけれど、それでも量は多かった。学校の授業だけでなく、将来を見越した独自のカリキュラムが組み込まれているからだ。
「存じております。ですが、旦那様はお嬢様の頑張りを直接ご覧になっていませんから」
「目に見える成果を出してお父様を安心させろ、という話ですか」
「左様です。風馬様に家事をお願いしているのは、お嬢様の学習時間を増やすためです。これで成績が下がったら付き人をつけた意味がありません。風馬様の今後にも影響するでしょう」
「わかっています」
本当なら家事も自分で行わないといけないのに、ワガママを言ったのはわたしだ。
お父様を説得してくださったのも千鶴さんだ。何から何までお世話になっている。
ここで結果を出さないと颯人くんとの関係も終わってしまうかもしれない。
(颯人くんも同じような話をしていたような……)
今度の中間テストで10位以内に入らないと、アルバイトを辞めさせられるとか。
状況はわたしと同じです。わたしも良い成績を収めないとお父様にお小言を頂いてしまうわけで。
「よいことを思いつきました!」
「何のお話ですか?」
「颯人くんへの恩返しですよ」
我ながらナイスアイデアです。わたしはポン、と手を打って自画自賛する。
さっそく手配しなくては。これは忙しくなりますよ……!
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第4幕はここまで! 二人はこのあとどうなるのか。
次の第5幕でお話が一段落するのでお読み頂けると幸いです!
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