第7話 -閑話- 瑠璃視点

 ヒロイン視点となります。

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「ただいま戻りました、瑠璃るりお嬢様。風馬様をお見送りしてきました」


「ありがとうございます。千鶴さん」



 風馬くんが部屋から出たあと、わたしは一人でリビングの片付けをしていた。

 段ボールやヌイグルミ、空きのペッドボトルで床が埋め尽くされており、どこから手を付けたらいいのかわからない。

 千鶴さんは部屋の惨状を眺めたあと、腰に手を当てて深いため息をついた。



「わたしくは恥ずかしいです。入居してまだ一ヶ月しか経っていないというのに、よくこんなに散らかせますね」


「わ、わたしだって最初は頑張ってお掃除していましたよ。でも、段ボールは畳むのも一苦労で。気がついたらゴミの日が過ぎていて。放っておいたら次の荷物が届いて……。永久機関って怖いですね」


「お掃除が面倒で大変なのは存じております。世の皆様はそれを普通にこなしているのですよ」



 千鶴さんは積まれた段ボールの山をポンポンと叩きながらため息をつく。



「甘やかすなと会長から釘を刺されていますが、さすがにこの惨状は見過ごせません。足の踏み場もないじゃないですか」


「ですから風馬くんにお掃除をお願いしたのです。わたし一人の力で暮らせとは言われていますが、人を雇うなとは言われてませんから」


「お嬢様はしたたかですね。会長にそっくりです」



 千鶴さんはクスリと微笑むと、エプロンのポケットからスマホを取り出した。



「風馬様との連絡はグループチャットで行います。お嬢様もグループに入りますか?」


「ご一緒してよろしいんですか? ぜひグループに入れてください」



 風馬くんは無口な方ですが、箒を手にすると人が変わったように目が輝きます。

 そんな風馬くんにお掃除の仕方を教わり、ドジなわたしでも美化委員のお仕事を手伝えるようになりました。

 風馬くんならわたしの部屋も瞬く間に綺麗にしてくださる。そう思ってお手紙をお渡ししたのです。

 お掃除の話題以外にもお話をしたい。チャットなら気軽に会話が可能でしょう。このチャンスを逃すわけにはまいりません


 スマホを取り出して千鶴さんの元へ駆け寄ろうとすると……。



「きゃわっ!?」



 落ちていたペットボトルを踏んでしまい、その場に転んでしまった。



「あいたたた……」


「大丈夫ですか。お尻が二つに割れてませんか?」


「千鶴さん……仮にもわたしのお付きですよね。もっと心配そうにしてくださいよ」


「わたくしはあくまで秘書ですので。お嬢様の尻拭いは業務に入っておりません」



 千鶴さんは澄まし顔を浮かべると、そっと手を差し伸べてくる。



「ですので、こうしてお世話を焼くのはわたくしの趣味です。お嬢様の笑顔を見るのがわたくしの生きがいですから」


「千鶴さん……」



 わたしは千鶴さんの手を握り、その場で立ち上がった。


 千鶴さんとはわたしが幼少の頃からの付き合いで、いつも傍で支えてくれていた。

 わたしにとっては姉のような存在で、とても頼りになる人だ。

 クールで大人びた魅力も宿していて、女性としての憧れでもある。

 けれど、甘えてばかりいたのが原因で独り立ちが遅れてしまった。

 お父様はそれも見越して、千鶴さんに部屋の掃除を手伝うなと言ったのだろう。



「風馬様の件、折を見て会長にお伝えします」


「やっぱりお父様に言うんですか……」


「当然です。家事代行のアルバイトとはいえ、年頃の男性をお部屋に招くのですから。それに……」


「それに?」


「ふふっ。言わずが花、ですわ」



 千鶴さんはそこで含みのある笑みを浮かべて、わたしの頬を指で突く。

 それは付き人や秘書としてではなく、妹をからかう姉のような態度で。



「グループチャットにお嬢様を招待いたしました」


「わーーーい! これで風馬くんと24時間繋がっていられますね! あっ、見てください。さっそく風馬くんからお返事が。ヨロシク、ですって。ふふふっ♪」



 わたしはスマホを掲げて小躍りする。

 これで何度目になるでしょう。千鶴さんは呆れたようにジト目を向けてきた。



「風馬様の前でもそれくらい素直になれば話は早いのに」


「ほえ? どういう意味ですか?」


「ふふっ。それもまた言わぬが花、ですわ」



 わたしが首を傾げると、千鶴さんは唇に人差し指を当てて妖艶に微笑んだ。




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 第一幕終了となります! 以降はイチャイチャします。


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