エピローグ
キラキラキラ
青い空に太陽が輝いている。
風は穏やかに吹いていて、旅立ちの日にはうってつけだ。
キマイラの館から家に帰るため、荷物を馬車に詰め込んでいる。
あの戦いの後、女神はアーグランの傷を治した。
馬車は流石に許容範囲を超えていたらしい。
捕まえたメイクの男を連れて下山すると、キマイラと軍が待っていた。
ペンジレソーオは渡し、山の古塔は捜索されたがイレイガウディンは見つからなかった。
逃げた奴隷達は無事全員保護でき、キマイラが用意した保護施設で過ごしている。
そのうち、村に帰る者も出て来るらしい。
村の復興は大変だろうが、頑張ってほしい。
バッテンルーラーはしばらくあの状態だろうが、王宮主導で再開発されたら多少は報われるのかもしれない。
この事件の一部始終は、キマイラから領主に報告するようだ。
おそらくオーラルの出番は、お忍びで来た領主に酒の肴として、戦いの様子を話すくらいだろう。
お役御免となったオーラル一行は帰路につくことにした。
「うふふ。まさか、二週間でサーベルを同じ人に二回もプレゼントすることになるとは思わなかったわ。それに、馬車を一つとザタ村の木の実をいくつか。商売あがったりだわ。」
見送りに来ていたキマイラが小言を言う。
「それなら、こちらは二週間で二回、死にかけているんだ。これくらいのサービスを頂いても文句言われないと思っていたが。」
「あら、それならあなたの方が分が悪いわね。母ほど経験はないけど、それなりのことしてあげるわよ。」
ヤギのように膨らんだ胸を強調させる。
だが、オーラルは溜息をついた。
「君もあの家系だったな。デルピュネが心配だ。」
「うふ。あの子が一番母似の見た目だけど、性格はそこまでだから。そうねぇ、よろしくくらいは伝えといてほしいわ。あの子のこと、頼んだわよ。」
「珍しく姉面して、とか言いそうだな。」
笑いまじりに会話が進む。
だが、それもここまでのようだ。
「お~い。準備できたってよ~。早く来ないと置いていくぞ~。」
女神が懸命に手を振っている。
その隣では元気になったメイドも笑顔で待っている。
「行ってあげたら。子供はすぐ拗ねるから。」
「そうだな。まぁ、世話になった。」
「こちらこそ。」
小走りで奴隷商は仲間の元に向かう。
一番最初に彼が馬車に乗り、続いてメイド。
そして主の膝の上という特等席に女神が座る。
御者は前に突き出している御者席に最後に座る。
「忘れ物はないでやんすか? 出発しやすよ。」
バシンと鞭が鳴り響き、馬達が歩き出す。
「色々迷惑かけてすまなかった。」
幾ばくか進んだころ、オーラルが呟く。
「別に良いよ。時には落ち込むこともあるもんね。
アーグランは笑顔で応えたが、すぐふくれっ面になる。
「でも、マリオネットは傷ついたかな。そのうち私を着せ替え人形にする野望とかないよね! いきなり服を脱がし始めたりして!
「それはないな。それに君はちゃんと抵抗するんだろ?」
「そうだね。
彼女はもういつも通りの笑顔だ。
「ゴットンも、すまなかったな。」
「オイラは馬鹿ですから、都合の悪いことは忘れるようにしてやす。お頭も、これで忘れやしょう。」
「君は優しいな。」
先頭から鼻歌が聞こえてくる。
「ボクには何かないのか?」
女神が真下から顔をのぞかせる。
「特に、ないな。」
「なんで!?」
「そもそも、君に罪悪感を抱いてないからな。謝ることはない。」
「それを言われたら、ボクも黙るしかないな。」
女神は肩を落とす。
そして隣のメイドが励ます。
「まぁ、感謝はしているけどな。」
共に手を汚してくれたこと。
そして、罪を許してくれたこと。
普通の女の子でもできそうだが、彼女は正しく女神だった。
許罪の女神、シンコーレシスティア。
彼女が、何を目標にしていて、なぜ助けてくれているかは分からない。
だが、しばらくはそれでいいと思っている。
さて、フーエルになんて説明しようか。
「何か言ったか?」
女神が首を傾げる。
「何も。」
オーラルは微笑んだ。
少しだけ心が軽い帰り道だった。
罪と、許しと、そして女神と 白下 義影 @Yoshikage-Shirashita
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