第十二章 スタニスラフとの最終決戦

第45話 スタニスラフとの大戦

 河の上に築かれた木造の要塞が完成した。

 上流を堰き止めて造った水路から水を引いてくる。これで安定して水が供給される要塞としての機能が万全となった。


 かなが内部を巡察すると、アスレチッククラブのような造りについワクワクしてしまう。


「デュバル、急ごしらえだがなかなかにすぐれた要塞が出来たな」

 ここは元々河の中だったが、陽当たりもよく疫病の心配をしなくても済むため、スタニスラフの喉元に剣を突きつけたような状態だ。


「ここはスタニスラフを監視するのに便利だよな。北方はにらめるし、水源もあるし、陽当たりもいい。木造なのが残念だが、それ以外は完璧だ」

「スタニスラフとの講和がなれば、必要のなくなる要塞だからな。いつでも壊せる木造のほうが都合がいいんだ」


「あくまでも講和を目指すのか。相手は大陸最強国だぞ。それに勝つのに全力を傾けるのが本筋だろう。講和を前提にした戦なんて、中途半端な攻勢を招いて戦力の出し惜しみになるのではないか」


「相手が最強であれば、反抗する意志を挫く戦い方をしなければならない。そのためには全力を挙げて総攻撃し、天下分け目の大決戦を挑むことになる。そこで完膚なきまでに叩き潰せば、おそらく講和に乗ってくるのではないか」

「カナタ、そこは仮定の話なのか。お前らしくもない」


「絶対強者に挑むんだ。雷電魔法の無力化ができないうちは、無茶な作戦は立てられない。そのための要塞でもあるんだ」

「そういえば言っていたな。電気とやらは水に触れると漏電とやらをすると。それで河の上に要塞を築いたわけか。そこを占めていれば雷電魔法も威力は半減すると」


「いや、威力そのものはさほど変わらないんだけど、味方を巻き込むおそれが出てくるんだ。漏電とは水に電気を流したときに、本来通るべき道のりを逸れ、水を伝って電気が拡散することをいう。だから水場で雷電魔法を使うことはまずない。主戦力である以上、おそらく雷電魔法の弱点くらいは熟知しているだろうからな。雷電魔法を封じられたらどう戦うか。そこが今回の狙い目でもある」


「水氷魔法はユーハイム公国の得意とするところだ。それで電撃魔法を無力化できるのであれば、ユーハイム公国こそ大陸を統べる資格があるということか」

 魔法の強弱で覇権が握れるとも思えない。だが、弱体化させる方法があるとわかれば、少なくとも積極的な交戦意欲は潰えるだろう。


「今回は雷電魔法を封じるだけではダメなんだ。将兵に打撃を与えてわれらを恐怖せしめる。いずれ恐怖は去るものだが、一度刻まれた苦手意識はそう簡単に払拭できないはず。それが次の戦の目的だからな」


「恐怖せしめる、か。数のうえではスタニスラフのほうが多いよな。どうやって恐怖を植えつけるんだ」

「そこも秘密だな。計略は眼の前で繰り広げられて初めて効果を発揮するものだから。それに」

「それに」


「計略が失敗したときに、さもこちらの想定どおりと振る舞わなければならない。策が失敗するとは思わないが、戦場ではなにが起こるかわからないからな」

「確かに計略を知らなければ、失敗しても織り込み済みという顔をしていられるわけか」

「そういうこと。だから計略は事前には明かせないんだ。とくに軍師は策を失敗させても涼しい顔ができないと務まらないからな」


「それはそうと、カスパーはきちんと仕事をしているんだろうな」

「彼女ならだいじょうぶだろう。スタニスラフに従う中小国でそれとなくスタニスラフの悪口を告げて回る。商人のフリをするにもちょう隊隊長の経験がものをいうだろうしね」

「予定ではそろそろ帰国していい頃合いだと思うが」

「だから要塞まで出てきたわけだ。単なる視察で終わらず、カスパーさんを出迎える。失敗していたらスタニスラフ軍に追撃されているはずだから、それを迎え撃つ準備は整えてあるからな」


 それから半刻、カスパーが北方から商隊を率いて奏多のもとへ戻ってきた。


「お疲れ様でした、カスパーさん。ここで一夜を過ごしていきますか、それとも公都へ帰参いたしますか」

「軍師殿のご配慮痛み入ります。私としましては一刻も早く公都へ帰還してハイブ公爵に成果を報告するべきかと考えますが。まあここで一夜を明かして皆様と一緒に戻ってもよさそうでございますね」


「まあここは仮の要塞だからな。一泊していくのも記念になるだろうな」

「そういうことなら一泊しますか。何年もしないうちに壊してしまう予定なら。なあ、カナタ」

「ということで、ここで一泊することにしようか。寝るまでに外遊の成果を聞きたいところだな」

「中小国諸侯に会うことはありませんでしたが、市場でいろいろ吹き込んでおきました。スタニスラフはユーハイム同盟には勝てない、ということを主張しておきましたが。本当にユーハイム同盟がスタニスラフに勝てるとお思いなのですか、軍師殿」

「ああ、間違いない。雷電魔法は水に弱いからな」


 カスパーにも漏電のことを詳しく教えた。

「へえ、雷電魔法にも弱点があったんですね」

「弱点になるかどうかは、相手の戦い方次第ではあるんだけどね。ゴムなどの絶縁体で足元を包んでいたら、漏電した電気は伝わらないしね。ただ、その場合、自らの雷電魔法で自分を傷つけるだろう。だからおそらくは地面に金属を触れさせているはず。そこから水に漏れた電気が伝われば、迂闊に雷電魔法を使えなくなる」


「絶縁体ってなんだ、カナタ」

「電気を通さない物質のことだよ。ゴムは電気を通さないんだ」


 北方諸国のどのあたりまで情報が行き渡っているかは、実際に対戦するまでわからない。

 もちろん間諜に探らせてはいるが、為政者まで近づける者はまずいないと見ていいだろう。

 であれば、小耳に挟んだくらいの認識でいるのがよさそうだな。




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