第43話 同盟入りと撤兵

 エピオーネ軍がユーハイム同盟のかな中隊のもとへやってきた。そして戦うでもなく、兵を連ねているさまを見たスタニスラフはあっさりと後退して自国へ退いていく。

 奏多はスタニスラフが完全に撤退したのを見極めて、エピオーネの将軍に挨拶した。


「これで当面は攻めてこられないはずだ。おそらくこちらの同盟を切り崩す策に打って出る。だから、こちらもスタニスラフ庇護下の中小国を切り崩せば対抗できる。北方諸国を調略できれば、いかにスタニスラフが最強の軍隊を持っていてもさほど脅威ではなくなる。おそらく周りの国々もスタニスラフからの威圧で協力しているにすぎないだろう」


「それでは、わが国の軍司令部の残る三名も返していただけるのかな」

「約束だからな。それは厳守する。三名ともユーハイム公都に残しているので、とりあえずわが中隊だけでも帰国して、さっそく三名を解放する手続きをしよう」

「本当によろしいのですかな。ユーハイム公国としては人質をとり続けていれば、わが国をいかようにも扱えると思うのだが」


「それは下策だな。エピオーネを下に見るような同盟が長続きするはずもない。あくまでも対等な関係でユーハイム、ジロデ公国との同盟を築かなくては意味がない。三大国が対等な関係を保ち、北の強国スタニスラフと戦わなければ、大陸の平和は訪れない」


「ではユーハイム公国の軍師殿は、スタニスラフを撃滅するのが目的なのだろうか」

「それはスタニスラフ側の問題だ。もし対等な関係を嫌がったら徹底的に叩き潰す以外にないが、もし四大国の共存を受け入れれば撃滅する必要はない。大陸を平和にするには、すべての国が対等な関係を築けるかにかかっている。とくに四大国がしっかりと並び立てなければ、いずれ大陸全土を巻き込んだ大戦に発展する可能性も否定できないからな」


 その言葉にエピオーネの将軍はうなずいた。

「確かに大陸の平和をかちえるには、スタニスラフを含めて四大国が並び立つ以外に道はない。そのためにも、わが軍の司令官三名を返還すると考えてよろしいのですね」


「俺に二言はない。兵の主力は帰国させ、中隊で三名を迎えに付いてくればよい。そこできちんとエピオーネとユーハイム同盟の関係構築に調印したら、その場でお返ししよう。それが条件だが、ここまで軍を進めたということは、その意志があってのことだろう。では公都に戻るぞ。デュバル、号令を頼む」

「わかりました、軍師殿」


 さすがのデュバルも時と場所を選んで軍師殿と呼び、敬語も使っている。

 もしいつもどおり「カナタ」と言っていたら、軍師としての面目が保てないからな。


 ユーハイム公国正面のエルフィン、ジロデ公国正面のショーカにも終戦を知らせて兵を帰国させる手はずを整えさせる。

 そして奏多はエピオーネの中隊を引き連れて、公都へと凱旋した。


◇◇◇


 ユーハイム公国のハイブ公爵とエピオーネの中隊長の面前で、奏多は先に捕らえていたエピオーネの軍司令部の三名を呼び出した。

「中隊長、これまでなにをしていた。さっさと助けに来んか」

 捕まっていた将軍が中隊長を罵っている。


「ユーハイム公国に連れていかれたとのことでしたので、処刑されたのではないかと心配しておりました。下手に動けば、今は無事でもユーハイム公国に害されないともかぎりません。しかし将軍方がご無事でよかったです」

「王がユーハイム公国との同盟を認めた、と考えてよいのか」

「はい、エピオーネ王はユーハイム同盟と事を構えないとのことでした。そして将軍方を迎えに行けと」


 奏多は念を押してみる。

「中隊長、試みに問うが、将軍たちを連れ帰ったとして、返す刀でわが国を攻撃するなどという不貞な企みはしておらぬだろうな」


「軍師殿、そのような意図はわが国にはございません。ぜひとも同盟に加えていただき、来るべきスタニスラフ戦で優位に立つことが目的です」

「まあ、このたびもスタニスラフはエピオーネ討伐のために兵を起こしていたようだが、われら同盟軍の動きを見て思いとどまったようだしな。エピオーネ一国と戦えば勝てるとして、ユーハイム同盟軍を数に入れると、楽勝とはいえないからな」


「さようでございますか。ではもしわれらが同盟に加わらなければ」

「間違いなくスタニスラフに滅ぼされていただろう。エピオーネに頼っていた中小国がわれら同盟へと鞍替えした以上、スタニスラフとはエピオーネ本国軍だけで戦わなければならない。数のうえで勝てるとも思えんしな。数だけならまだしも、雷電魔法で暴れられたら手に施しようもなくなるはずだ」

 カスパーの説得が効いているようで、現状を正しく認識しているようだ。


「それでは後日、エピオーネ王が正式の使者を派遣いたしますので、将軍方の身柄を今もらい受けてよろしいか」

「ぜひそうしていただこうか。重ねて言うが、エピオーネ軍だけでユーハイム同盟に勝てるとは思わないことだ。そしてスタニスラフとも戦える状態にはないことも考慮するのだ。今約束を違えると、すなわちエピオーネの亡国へとつながると心せよ」

「は、かしこまりました」


「では、衛兵、エピオーネの捕虜三名の拘束を解くのだ。彼らをエピオーネ側へ引き渡す」

「本当に開放してよろしいのですね、軍師殿」

「当たり前だ、デュバル。エピオーネに裏切られるリスクよりも、信頼して同盟に名を連ねる利益のほうがまさるからな。だからこそ、エピオーネの自主性を信頼するのが得策だ」


「裏切られるよりも信用したほうが見返りが大きい、と軍師殿は見ているのですね」

「そうだ。だから司令部三名を厚く遇してきたのだ。わが同盟に悪印象を抱かぬようにな」


 そのために、監視付きだがある程度自由に暮らさせていたのだからな。

 これでエピオーネがユーハイム同盟入りを蹴る可能性はほとんどなくなったと見ていいだろう。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る