第十一章 エピオーネの同盟入り

第41話 同盟入りと説得交渉

 エピオーネの軍司令部を連れてユーハイム公都へと帰還した。

 ハイブ公爵との謁見の場が設けられる。


「エピオーネの者たちよ。われらに二度も歯向かったそなたたちをどう遇するべきか。戦争犯罪人として処刑するか」

 軍司令部の四名はその言葉に顔を青ざめさせている。

「それともわれらに助命を請うてなんとか帰国させてもらうか。もしくはわれらと行動をともにするか」


 将軍と思しき者が口を開く。

「ユーハイム公国と行動をともにするとしても、一度本国へ帰還してエピオーネ王のご裁可が必要です。であればユーハイム公国はわれらを帰国させる以外に道はないはず」

「ところがそうとはかぎらない。軍師殿、あとを頼む」


 かなはきわめて感情を抑えながらゆっくりと切り出す。

「エピオーネのちょう隊隊長であるカスパーが、前の戦ののちわが国に身を寄せておる。その者を使わせてエピオーネ王と交渉させれば、そなたたちを解放する必要はない」

「わが国を裏切った者と王が面会すると思うか」


「それならあなた方を解放することはできません。残念ですが、交渉決裂後に処刑いたすまでのこと」

「では、われらをどう処するつもりだ」

「俺は戦争以外での殺人を好まない。だからあなた方を軟禁するだけのこと。そしてカスパーがエピオーネ王を説得できたら解放する。決裂したら容赦はしない。ところで輜重隊の副長は誰か」

「私にございます、ユーハイムの軍師殿」

 背の高い男性が名乗り出た。


「衛兵、私の控室からカスパーを呼んでこい」

 はっ、と答えた衛兵のひとりが謁見の間を出ていった。


「副長のそなたとカスパーとでエピオーネ王を説得してもらおう。もし決裂したら将軍以下三名は殺す。必ず話をまとめてこい。難しいことはない。物事の理非を弁じてくればよいのだ。申しておくが、俺は兵法に通じている。何度俺と戦ったとしても勝てるはずもないことは、この二戦で思い知っただろう」


 エピオーネ司令部を威圧している間に、先ほどの衛兵が戻ってきた。

「カスパー殿をお連れ致しました」

 衛兵に促されて謁見の間へ足を踏み入れたカスパーは、エピオーネの軍司令部四名の脇にひざまずいた。


「軍師殿、急な御用とはいかがなさいましたか」

「カスパー、輜重隊副長とともにエピオーネ王都へと赴き、国王と交渉してくるように。もしわれらと組むといえば、司令部の三名を帰国させる。もしそれでも逆らうというのであれば、三名を処刑すると国王に伝えるのだ」


「軍師殿、私がその役目を果たせるとお思いですか。曲がりなりにもエピオーネの輜重隊隊長ですよ」

「公人としてはな。私人としてはわが兵法の生徒でもある。両立させるためにも、国王を説得してきてもらおう。策はすでに用意してある。これで確実にユーハイム公国と同盟を結べるはずだ。そうなればカスパーも心置きなく兵学に勤しめるというものだ」

「微力を尽くします」

 カスパーはひざまずいたまま一礼して命令を受諾した。


◇◇◇


 デュバルに筆記させた文書を携えて、カスパーは副長とともにエピオーネへと向かった。おそらくこれでエピオーネはユーハイム公国と同盟を結ぶはず。

 そもそも中小国はこぞってユーハイムの庇護を求めたのだから、以後ユーハイム公国の勢力に取り囲まれた状態になる。

 その点を言い含めてあるので、よもや逆らうとも思えなかった。

 中小国からは兵ではなく食糧や資材、資金などを供出してもらうことになる。だが、そのほとんどはユーハイム公国、ジロデ公国で補いがつくものだ。

 そのためにショーカに後方支援をまかせている。

 二大国にエピオーネが加われば、北方の最大勢力スタニスラフとも互角の戦ができるだろう。

 戦場にいるのが三大国だけの兵であれば、今回のエピオーネ戦のように中小国を切り崩されるおそれはない。


 軍師の執務室に伝令が走ってきた。ショーカが招き入れた。

「軍師殿、失礼いたします。スタニスラフの動きを探らせていた間諜から連絡がありました」

「ついに動く、か」


「間諜からの知らせを読まずしてわかるものですか。伝令、文書をこちらへ」

 デュバルが受け取るとすぐに中身を確かめた。

「これでカスパーさんの説得工作もうまくいくだろう。眼の前に現実的な脅威が迫っていれば、まとまらざるをえないのだから」


「それにしても、スタニスラフのやつら、今回のわれらの戦を見て好機と思ったのでしょうか。確かに今から全力で戦えば、労せずして大陸の覇権を手に入れられるでしょうからね」


「その思い込みを封じるためにも、エピオーネと同盟を組まなければならないんだ。どんなに最強と謳われる雷電魔法を有しているといっても、さすがにエピオーネ、ユーハイム、ジロデが手を組めば兵力ではわれらのほうが上回るのだからな。そうさせないためにも、エピオーネを切り崩して取り込むか、撃滅して占領してしまうかを考えているはず。それはカスパーさんに持たせた文書にも書いておいたので、そろそろ立ち位置を決めざるをえまい」


「それにしても、軍師殿はカスパーさんをずいぶんと信頼しているのですね。彼女もいちおうはエピオーネ人ですよ。母国の繁栄を願っているかもしれません」

 ショーカは非凡な才を有しているが、外交に関してはまだ一流には遠い。 


「彼女がエピオーネを重要に思っていても、今スタニスラフの脅威にさらされている事実は変わらない。母国の損得を考えても、こちらと組む以外の選択肢はないからな」

 エピオーネの決断を促すためにも、スタニスラフの動きは好機だった。

「エピオーネを後押しする。同盟軍を出撃させるぞ」


 奏多の狙いは危機感を煽ることと、エピオーネと敵対しないと示すことにある。それがエピオーネで孤軍奮闘しているカスパーの交渉を手助けするだろう。




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