第48話 怪盗コキア誕生 強盗制圧
夜が更けると、
ここは先手をとって確保に動いたほうがよいか。
「
その言葉に高山
「おそらく前回同様、上から侵入するのでしょう。ここには屋上のカメラはありませんから」
「それでは刑事さんや警察官の方々にお知らせしたらどうですか」
忍は首を横に振る。
「いえ、
「わかりました。それでは侵入者への対策はおまかせいたします。無事に戻ってきてくださいね。もし怪我でもして救急車で運ばれてしまったら、怪盗が来ないことになってしまいますから。そこから怪盗の正体がバレないともかぎりません」
「こう見えて、体育教師は格闘術も心得ているんですよ。武道の心得がないと務まりませんからね」
そう言い残して忍は部屋を出て、三階へ向かう階段に近づいた。
ここから降りてくるはず。ということは階段の裏で息を潜めて待つのが得策だ。階段の裏に移動して、右目を閉じる。闇に目を慣らすためである。
おそらくなんらかの手段で照明を落とし、書斎へ急襲する手はずなのだろう。
しかし電源周りはすでにこちらの制圧下にあり、仮に落とされてもすぐに対処できる。
目に見える賊であれば警察は負けやしない。あとは強盗犯の技量と腕っぷし次第だが、配備された警官の数で圧倒できるはずである。
だから、屋上から侵入しようとする者を二階で待ち構えて、取り押さえるのである。警察はとくに前回の反省もなく、書斎を中心とした鉄壁の防御を築いているが、優先事項としては「館に賊を侵入させない」ことであるはずなのだ。
つまりすでに賊の侵入を許している以上、再び奪われる条件が揃っている。
今、賊を潰せば予告状を出したのがこいつらと責任転嫁もできるだろう。
三階の板張りの廊下が軋む音がする。いよいよ階段を降りてこようとしているようだ。そして二階を素通りして一階の書斎へと直行する。それを阻止するのである。
すると電気が一斉に落ちて暗闇が生じた。閉じていた右目を開けて、左目を閉じる。これで暗闇に慣れた右目が威力を発揮する。
階段を駆け下りてくる足音が響くと、忍は強盗犯ふたりの足を払って転倒させた。深い赤茶色のスーツなので強盗犯にこちらの姿は見えないので不意を突けた。派手な音を立てて進撃を食い止めると、程なくして電灯が点いた。
「い、痛え。な、なんでだ。このタイミングでなぜ明かりがつく」
「俺が知るか。さっさと絵を奪ってずらかるぞ」
忍は強盗犯のひとりに背後から近づいて首を絞める。敵は抵抗をあきらめないが、次第に反応が鈍ってきた。
「な、なんだてめえ。そいつを離しやがれ」
腰の裏に佩いた短剣を引き抜いて威嚇してきた強盗犯に対して、首を絞められている仲間を盾にする。これでおいそれとはいかなくなる。
すると全身の力が抜けた強盗犯のひとりをその場で解き放った。完全に意識が飛んでいるようだ。
「て、てめえ、サツか」
警察が警備している建物のなかに、一般人がいるとは思わなかったのかもしれないが、それにしても情報の収集が甘いとしかいいようがない。
忍はにやりと笑うと言い放った。
「いや、怪盗だ」
そう答えると、ふたりめの強盗犯をみぞおちへの当て身で気絶させた。
これで上からの侵入は防げたはずだ。
モニターを見ていた高山西南を呼ぶためにドアを開ける。
「高山さん、浜松刑事に犯人ふたりは二階で制圧しました、と伝えてください」
「
「私は直接伝える名目で書斎へ向かいます。そして間隙を突いて絵を奪います」
いよいよ怪盗としての最初の任務を遂行するときだ。
まず浜松刑事と警官を二階へ集める。そして捕縛して警視庁へと連れていこうとする間を利用する。これで書斎の守りは駿河だけになるだろう。
書斎の扉を叩くと、内側から鍵が開いた。
「浜松刑事、二階で侵入者ふたりを確保しました。早く逮捕してください」
「どうしてだ。義統くんが制圧したというのか。高山さんからの無線では倒したとだけしか伝えられていなかったが」
「まあ体育教師は警察官と同様、武道の積み重ねがありますからね。そこらのこそ泥相手なら、楽勝でしたよ」
「わかった。駿河、ここはまかせる。警官隊、二階へ行くぞ。付いてこい」
浜松は警察官をぞろぞろと引き連れて、高山西南が待つ二階へと駆け上がっていく。
書斎に残っている駿河が感心したようだ。
「それにしても、僕たちがやられた強盗犯を退治するなんて、義統は俺たちよりも強いのか」
「試してみるか。体育教師の本気とやらを」
「いや、やめておこう。僕は逮捕術には長けていなくて。一課志望だったんだけど、制圧能力が低くて三課に回されたクチだから」
それでよく警備をまかされたものだな。それだけ浜松刑事の格闘能力が高いということなのだろうが。であれば、付け込むスキはじゅうぶんにある。
二階ではノビた強盗犯二名を緊急確保するとともに、警視庁へと輸送するべく人の出入りが慌ただしくなった。人間というのは意識を失うと途端に重くなる。重量は変わらないのだが、まったく力が入らずぐにゃぐにゃになるので、体感としては体重以上の重さになるのだ。意識のない男をひとり運ぶのに、両手足を持つ四人が必要になる。だからドタバタ騒ぎとなった。
そろそろ、か。
忍は右目を閉じてそのときを待つことにした。
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