第39話 名画を盗む 襲撃
予告時間が差し迫ってきた。この警戒のなかで怪盗は現れるのだろうか。
「
「僕たち以外であの絵を欲しがる人はいないと思っていましたが、どこからここに『魚座の涙』があると知ったのか。捕まえて白状させたいですね。発信機と集音マイクでどこまで強盗を追い詰められるか。これからの戦いを想定しても、ここを揺るがせるわけにはまいりません」
「やはり流しの画商・
「おそらくですが、奴は父のコレクションを強奪した美術窃盗団の一味だと思います。売って換金するのと、強奪して絵も取り戻す。これならいくらでも稼げますから」
「絵を売りつけておいて、自ら奪い返しに来る。たちが悪いこと甚だしいですね」
「
「もし金属バットや鉄パイプ、ナイフや包丁などを所持していたら、さすがの警察の方もでも取り押さえるのには苦労しますかね」
「目が見えている状態で襲われたら、人数にもよりますがおそらく対処できるでしょう。逮捕術は制圧するのに向いていますからね。ただ、電源を落とされて真っ暗になったらどうでしょう。その状態で凶器を振り回されると、百戦錬磨の刑事でも虚を突かれるでしょう」
そう、窃盗犯の最初の狙いは電源である。
明かりと監視カメラさえ封じてしまえば、あとは好き勝手に暴れられるからだ。
おそらく指示役は高山西南邸の配電盤の位置さえ熟知しているだろう。そうでもなければ、日時指定をして盗みに来ると豪語できないからだ。
「ちなみにここの監視カメラは別電源で動いているんですよね」
「ええ、こんなときのために、邸内の電源とは別系統で通してあります。実際に使うのは初めてなのですが」
モニターを眺めていると、不審な動きをしている警官を二名見つけた。予告時間はじきなのに、なぜ持ち場を離れるのか。そして懐からゴーグルを取り出している。もしかしたら犯人の仲間いや強盗当人かもしれない。
すると程なくして館内の電源が落ちた。
監視カメラとモニターの電源は生きている。暗闇に紛れてふたりの警官が書斎へと踏み込んだ。虚を突かれた浜松と駿河を、それぞれ警棒で殴り倒す。
ニセ警官たちは悠々と壁に掲げられていた『魚座の涙』を取り外し、これまた懐から風呂敷を取り出して包むと、庭へ続くガラス戸を開けて、そこから逃走を図るようだ。
浜松と駿河の反応がない。まさか撲殺されたとは思いたくないが、犯人の追跡は誰かが請け負わなけけばならない。
「高山様、受信機とマイクのレシーバーをお貸しください。どうやら浜松刑事と駿河刑事はすぐに動けないようです」
「わかりました。それでは邸内にスピーカーでアナウンスをします。犯人の追跡に何名か警官を連れていけるように待機している
「お願い致します。それでは受信機をお借りしますね」
高山西南はただちにスマートフォンで玉置課長へ連絡をとった。
「玉置さん、高山です。邸内の電気を落とされて、暗視カメラで強盗犯を録画してあります。これで犯人の情報も掴めましたので、ただちに強盗犯を捕まえたいのですが。警官を何名か
〔わかりました。それではすぐに二名を義統くんの指揮下に入れます〕
警察無線でふたりの警官が玉置課長の指示を受けたようだ。さっそく追跡班が決定された。
「今回犯人となったのは、警官ふたりです。いささか裏取りが甘かったのではないでしょうか」
〔警察から内通者を出したのは痛恨の極みです。だからこそ強盗団は必ず捕まえます。そして背後関係を追及してまいります〕
「それでは急いで書斎へ警察官を集めてください。追跡班の顔合わせをしてただちに盗まれた絵の追跡をお願い致します」
〔わかりました。浜松と駿河の容態も気になりますので、ひとまず警官を現場前に待機させます〕
「急いでください。いくら受信機があっても、遠くへ逃げられると追えなくなりますから」
〔了解しました。それでは邸外に配置した警官を私が率いて犯人を追い込みます。邸内から義統くんと警官たちで追いかければ、すんなり捕まえられるはずです〕
電話が切られると、高山西南はイライラを募らせていた。
「なぜ奪われてしまったのか。義統さんのように虚を突いて奪うのではなく、日時指定での強奪は聞いたことがありませんよ」
「高山様はモニターをチェックして犯人の顔や服装などを警察に知らせてください。できれば浜松刑事か駿河刑事に伝えるように。私が警察で信頼できるは、玉置課長、浜松刑事、同級生の駿河刑事だけです。他の課は知りませんし制服警官に知り合いはいませんから」
「わかりました。それでは浜松刑事か駿河刑事にこれ以上の盗難がないよう監視の指示を委ねます。それでは義統さんはただちに書斎へ向かってください。ここからは時間との勝負です」
いくら受信機を持っていても、遠くに逃げられると追跡する手段がない。
幸い邸外には玉置課長が控えていて、捜査を指揮してくれている。玉置課長にも受信機を持たせておいたのは慧眼といってよかろう。高山西南はなかなかに切れる人物である。
とりあえず窃盗団を壊滅できるように、捜査は迅速に行なうべきだ。一分一秒が手遅れになりかねない。
意見交換をそこそこに、忍は絵の追跡をするべく書斎へと向かった。
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